E1704 – 米国図書館協会(ALA),図書館のための政策課題を発表

カレントアウェアネス-E

No.287 2015.08.27

 

 E1704

米国図書館協会(ALA),図書館のための政策課題を発表

 

 2015年6月26日,米国図書館協会(ALA)は米国内のあらゆる図書館のための政策課題“National Policy Agenda for Libraries”(以下政策課題)を公表した。これは,ALAの情報技術政策局(OTIP)の“Policy Revolution!”イニシアチブに携わる図書館組織とともに,公共図書館や大学,財団など様々な組織からのメンバーで構成された委員会が,パブリックコメントの結果や米国の政治・経済情勢等も考慮しつつ,米国の図書館経営者などのためにまとめたものである。

1.図書館の機能

 図書館の機能は資料の提供などに限定されず,コンピュータ実習室や職業センターといった図書館以外のインフラとしての機能も果たすものであり,図書館を有効活用すれば,新たなインフラを整備するより経済的かつ運営面でも効率的であり,地域社会の発展にも寄与するとし,図書館の機能について以下のように論じられている。

  • あらゆる世代の教育・学習に携わり,デジタルリテラシーについて,メイカースペース(E1378参照)や3Dプリンターといった新技術の熟達を図ることができる。課外授業等さまざまなプログラムで,学生や生涯学習者などを支援するべきである。
  • 職業能力訓練や零細企業への支援を拡充し,労働力革新・機会法に基づき,中小企業庁や商務省といった連邦政府機関のほか,全米商工会議所などと連携することで資金を得るべきである。
  • 国民の長寿と健康的な暮らしを支え,とりわけ予防(例:健康的な生活を送るための情報提供)やセルフケア(例:持病に関する情報の提供)を可能にするプログラムなどを拡充すべきである。
  • インターネット環境が悪く,またデジタルスキルが不十分な地域住民にとっての電子政府サービスへの架け橋となるべきである。
  • 国の文化遺産や歴史の守り手として莫大なデジタル資源への案内役をつとめ,かつデジタル保存に関する国家戦略の先陣を切るべきである。

 以上のような点のほか,地域社会とのつながりという観点から,退役軍人と軍人の家族,移民,地方などといった論点もあげられている。まず,退役軍人は特に職能開発,政府サービスへのアクセスなどの目的で図書館を利用すること,軍人の家族は転居が多く,図書館は家庭や日常生活のような場として機能すること,が指摘されている。また,地方はインフラが不十分なため,その地域における博物館やコミュニティセンター,職業センターなどとしての機能することが求められることや,移民にとって図書館は,英語学習の場及び教育・雇用の窓口となり得ることが述べられている。

2.政策実現のために‐公益の増進‐

 図書館は旧来,情報への自由かつ平等なアクセスや教育の中心的役割を果たしてきたが,情報政策やデジタル環境の変容の中でその役割は一層増大しているとし,公益を増進するために図書館がなすべきことが以下のように示されている。

  • 著作権に関する国内の議題の焦点を,著作権侵害やコンテンツ保護に関するものから,創造活動や技術革新,国全体の需要の拡大などへと変える役割を果たすべきである。
  • 読書障害がある人のためのアクセシブルなデジタルフォーマットの普及開発や,それらの人々への合理的配慮が必要である。
  • 複数の図書館間や,地域社会・文化機関と共通の,デジタルコンテンツの基盤について検討する必要があり,米国博物館・図書館サービス機構(IMLS)による「国家デジタルプラットフォーム助成プログラム」などのように,新しい基盤への投資を行っていく必要がある。
  • デジタル化によって個人情報が日常的に収集・蓄積される昨今,図書館が提供するデジタル情報に関するサービスでの個人情報保護が不十分で,図書館利用者を守るための政策提言が必要である。また,無料のオンラインサービスを利用する代償として,個人情報等のデータが提供される今,デジタル時代におけるプライバシーについて模索すべきである。
  • 補助金制度“E-rate”などの政府のプログラムを活用し,パブリックアクセスやデジタル資料の流通を図るため,高速ブロードバンドアクセスを提供すべきである。
  • 政府内の図書館や関連組織の体制について,諸外国の政府機関の事例を調査し,その適用について検討すべきである。
  • デジタル時代に対応した図書館員や情報専門職をそろえるための資金を確保し,情報専門職に対する研修は,国の優先課題や地域社会の需要に沿ったものとすべきである。

  この政策課題では,図書館は知的自由の推進をはじめ,教育・雇用など提供するサービスによって様々な面での「機会」を拡大し得るものであり,図書館は不可欠な存在であるという認識を国策にあずかる人々に持ってもらうことが目的とされている。また,図書館は地域社会と連携しつつ,その需要に即したサービスを提供することが重要であるとされ,デジタル時代において図書館の役割や機能が変容していることが念頭におかれている。近年,日本国内でも図書館のアドヴォカシーが広まりつつあるが,この政策課題では,図書館の果たし得る役割に社会情勢を加味し,より現実的な提言を行う重要性が示唆されていると思われる。

関西館図書館協力課・葛馬侑

Ref:
http://www.ala.org/news/node/9649
http://www.ala.org/news/press-releases/2015/06/ala-releases-national-policy-agenda-libraries
http://www.ala.org/advocacy/sites/ala.org.advocacy/files/content/pdfs/NPAforLibrariesBrief2.pdf
http://www.ala.org/advocacy/sites/ala.org.advocacy/files/content/pdfs/ForewordNPALibrariesBMGF.pdf
http://www.ala.org/advocacy/sites/ala.org.advocacy/files/content/pdfs/NPAforLibraries1.pdf
https://www.fcc.gov/document/fcc-continues-e-rate-reboot-meet-nations-digital-learning-needs
E1378
E1130
CA1646
CA1769
岡本真. ライブラリーアドボカシーの重要性とその実践‐「神奈川の県立図書館を考える会」の活動から. LRG. 2015, (11), p.8-75, ISSN 2187-4115.