E1507 – ボーンデジタル資料収集の手引:アーカイブの質向上のために

カレントアウェアネス-E

No.249 2013.11.21

 

 E1507

ボーンデジタル資料収集の手引:アーカイブの質向上のために

 

 近年,北米の大学・研究図書館等では,ボーンデジタル資料をそのコレクションに加える機関が増加(E1342参照)してきている。しかし,ボーンデジタル資料の受入側のリポジトリ担当者は導入準備が整っていないこともあり,また,資料の提供者も個人情報の扱いなどに過度に神経質になることもある。このような状況を改善するため,2013年10月,図書館情報資源振興財団(CLIR)がボーンデジタル資料収集の手引“Born Digital: Guidance for Donors, Dealers, and Archival Repositories”を公開した。この手引は,英米の大学・研究図書館等に属するアーキビストやキュレーターが,実際の経験に基づき作成したもので,ボーンデジタル資料の事前の調査や評価を確実に行い,適切な収集方針や移行の手順を定めることで,不確定要素を減らし,アーカイブの質を向上させることを目的としている。

 手引では,ボーンデジタル資料の収集時に考慮すべき事項を四つの章に分けて概説し,あわせて,資料の提供側である提供者や関係者,および受入側のリポジトリ担当者のそれぞれに対し,留意すべきポイントを提言している。また,付録として,ボーンデジタル資料に関する各種プロジェクトの情報源,想定外の事態への備えについての提言,本文中で示された提供側,受入側のそれぞれへの提言をまとめたチェックリスト等を付しており,実用的な手引となっている。以下では,四つの章ごとに,そのポイントを紹介する。

 「コレクションの初期評価」の章では,収集に先立ち,提供側と受入側との間で,情報共有が必要な事項を概説している。具体的には,次のような事項の必要性を指摘している。

  • 提供側は資料の媒体やファイルについて,その内容や状態を確認する。ファイルを閲覧するだけでも改変してしまうことがある事も意識する。
  • 受入側は,資料が既存のコレクションと調和するか,文化的な価値や研究対象としての価値があるかなど,初期評価を行う。
  • 受入側は,デジタル資料のコレクション構築方針,また,収集,移送,コピー,閲覧制限,長期保存,媒体の確実な廃棄の方針や手順について,提供側と意識をあわせるため文書にして共有する。
  • 場合によっては現地を訪問して,資料の調査を行う。調査にあたっては,提供者のコンピュータ環境についての情報も入手しておくと,資料管理に役立てられる。

 「プライバシーと知的所有権」の章では,知的所有権,個人情報・センシティブな情報に関する倫理的,実際的な懸案事項について述べている。具体的には,次のような事項について,検討の必要性を指摘している。

  • 知的所有権については,他国の資料を収集しオンラインで公開を目指す場合には,法や慣習の違いを考慮する必要がある。
  • 電子メールなどの通信文もセンシティブな情報を含む可能性があるため,事前に精査してそういった情報を除外するか,一定期間閲覧を制限するなどの配慮を行う必要がある。
  • 病歴や社会保障番号などの個人情報についても慎重に確認し,収集範囲から除外する。
  • 技術的に再現できる可能性がある,削除あるいは自動保存されたファイル,パスワードなどで保護されたファイルの扱いを検討する。

 「デジタル資料の収集の主要な段階」の章では,収集における主要な段階として,収集の合意や契約,データ移行のプロセス,電子資料をリポジトリに登録するにあたっての手続きなどを挙げている。具体的には,以下の事項等を指摘している。

  • 契約に盛り込む事項としては,ハードディスクやウェブサイトなど何を収集対象とするか,また,内容やファイルの種別による収集範囲,ファイルをリポジトリにコピーした後の媒体の扱いなどがある。
  • 受入側,提供側の両者で意識あわせを行い,個人情報の選別方法,提供時の利用制限などについて確認する。
  • データ移行は,取り扱い指針に従って収集対象の資料を確定し,契約を交わし,移行方法を決定してから実施する。

 「収集後のリポジトリ担当者による確認」の章では,資料がリポジトリに到着した後の,担当者によるデジタルメディアやファイルの状態の確認,保存,廃棄などに焦点をあてている。具体的には,以下の事項等を指摘している。

  • リポジトリ登録前の資料の媒体の物理的な状態を記録しておく。
  • 電子的な状態においては,オリジナルとコピーとの間で同一性が保たれていることを,ハッシュ値を用いるなどして検証する。
  • 破損した媒体など現在アクセスできないファイルも,将来的な技術の進歩により解読が可能になることも考えられるため,扱いを検討する必要がある。

 ボーンデジタル資料のアーカイブの品質向上には,提供者の協力が不可欠であると考えられる。より望ましい形でボーンデジタル資料のアーカイブが形成されることを期待する。

(関西館図書館協力課・篠田麻美)

Ref:
http://www.clir.org/pubs/reports/pub159
E1342