E1508 – 図書館員の役割はどう変化してきたか:健康科学分野を例に

カレントアウェアネス-E

No.249 2013.11.21

 

 E1508

図書館員の役割はどう変化してきたか:健康科学分野を例に

 

Cooper, I. Diane; Crum, Janet A. New Activities and changing rolls of health science librarians: a systematic review, 1990-2012. Journal of Medical Library Association. 2013, 101(4), p. 268-277.

 米国医学図書館協会(MLA)の刊行するJournal of Medical Library Association誌の2013年10月号で,医学図書館等,健康科学分野においてサービスを行っているヘルスサイエンスライブラリアン(CA1659参照)の活動と役割の変化に関する論文が掲載された。この論文は,1990年から2012年に刊行された関連文献を網羅的に収集・分析(システマティックレビュー)し,インターネットの登場以降,ヘルスサイエンスライブラリアンの職務に,どのような新しい内容が登場してきたかを明らかにしたものである。

 本システマティックレビューの文献検索においては,MEDLINE,Library and Information Abstracts,Library Literature,Scopus,Web of Scienceの五つのデータベースを用いている。対象とする期間は1990年から2012年までとし,検索クエリーには,ヘルスサイエンスライブラリアンの新しい役割を探すというコンセプトに沿い,以下のものが用いられたという。

[librarians or medical librarians or health sciences librarians or hospital librarians] or [medical libraries or health sciences libraries or hospital libraries and librarians] and [emerging roles or renewed roles or new role or professional role or job title or job description or role]

 また,文献には表れていない新しい役割について情報を得るために,MEDLIB-L(MLAのメーリングリスト)において,2008年から2012年までに投稿された求人情報も活用している。このアーカイブにおいて新たな職名や活動を抽出し,これらとlibrarianの語を掛け合わせて上記の五つのデータベースを再検索し,文献の追加検索を行っている。

 この両方の検索から得た結果から重複を省いた424件の文献について,まず実際の活動についての記述がないものなど不適合のもの346件が除外され,その上でさらに文献を精査し,実際の役割を記述していないもの28件も除外された。これらのプロセスにより,最終的にヘルスサイエンスライブラリアンの新しい役割を記述した文献として,50件が抽出された。論文では,これらの文献に示された新しい活動や役割を分析し,「文献で確認された役割・活動」,「求人情報で確認された役割」,「従来の役割における新しい展開」のそれぞれをリストアップしている。

 「文献で確認された役割・活動」は,六つある。まずはEmbedded librarian(エンベディドライブラリアン;CA1751参照)であり,これにはさらにLiaison librarianとInformationistの二つのタイプがあるとしている。前者は学部,学科等と図書館の間をつなぐ役割を担い,ユーザのニーズをくみ上げ蔵書やサービスの向上につなげていく。後者は,診療や医学研究の場面で生じる情報ニーズに応えていく情報専門職であり,Clinical informationist,Bioinformationist,Public health informationist,Disaster informationistのバリエーションがあるとしている。東日本大震災後の図書館員の役割の観点から興味深いのはDisaster informationistであろうか。これは,災害に関連して情報サービスを提供するヘルスサイエンスライブラリアンのことである。論文では,ハリケーン・カトリーナ以後,ヘルスサイエンスライブラリアンが災害への備えに貢献できることを証明してきたこと,災害後の多くのフェーズにおいてレファレンスサービスを提供してきたことなどを,具体的に解説している。

 Embedded librarian以外の五つには,システマティックレビューを行うSystematic review librarian,利用者を情報につなげるため様々な新しい技術を駆使するEmerging technologies librarian,医療サービス従事者等への継続教育の提供を支援するContinuing medical education librarian,補助金の申請等を支援するGrants development librarian,研究者のデータマネジメントの計画作成やその実施を支援するData management librarianがリストアップされている。

 「求人情報で確認された役割」については,文献のレビューではリストアップされなかった四つの役割が見出されたとしている。うち三つはデジタル技術の進展に伴うものであり,Digital librarian,Metadata librarian,Scholarly communications librarianがある。もう一つは,研究の成果を臨床に応用する際に支援を行うTranslational research librarianである。

 「従来の役割における新しい展開」としては,四つが見出されている。一つ目は,Clinical medical librarianの役割における展開である。この役割自体は1970年代には示されており,1990年の段階で既に新しいものではないが,上述のClinical informationistへの役割の進化などがあったとされている。二つ目は教育の役割を担うInstruction librarianにおける変化であり,従来の目録や図書館資料の使い方にとどまらず,PubMedの登場後にはその使い方を,さらに昨今では文献管理ツール(CA1775参照)の使い方へというように,扱う内容が拡張しているとしている。三つ目ではOutreach librarianについて,電子的サービス,さらに情報機器を伴って出向きサービスを提供する形態などがみられることを確認し,四つ目ではConsumer health librarianについて,消費者向け健康情報の提供においても,その情報への関心の高まりとともに,ウェブサイトでの情報提供なども含めた拡張がみられることを確認している。

 本論文は,健康科学という特定の主題領域におけるライブラリアンを対象にしたものであるが,便利なデータベースの登場や情報ニーズの変化の中で新しい役割へと発展している状況を体系的に確認することができ,興味深い。他の主題領域,あるいはより広い分野でサービスに従事する図書館員の役割を考えるうえでも参考になるだろう。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3794682/
CA1659
CA1751
CA1775