カレントアウェアネス-E
No.276 2015.02.19
E1653
震災20年:神戸市立図書館が震災関連資料室をリニューアル
2015年1月4日,神戸市立図書館(兵庫県)では神戸市の「震災20年継承・発信事業」の一環として,中央図書館にある「震災関連資料室」の展示内容を一新した。
1.震災20年継承・発信事業
神戸市では,1995年に発生した阪神・淡路大震災の未経験者の割合が4割を超えるなど,震災への市民意識の低下が危惧されている。そこで,2015年1月17日に震災から20年の節目を迎えるのを機に,今年度は(1)震災の経験や教訓の継承と発信,(2)「貢献する都市としての神戸」の意識の醸成と定着,活動の展開,の2つをコンセプトとした「震災20年継承・発信事業」を実施した。
2.「震災関連資料室」と「1.17文庫」
阪神・淡路大震災により神戸市立中央図書館の旧館は半壊したため,1997年6月に2号館として建替えて開館し,3階に「震災関連資料室」が設置された。
「震災関連資料室」は,震災に関連したテーマの企画展示を,市民の方に見ていただく場として展示ケースを用意し,紙の資料だけではなく,救援物資(毛布やカンパンも)や道路通行許可証,旧館の瓦礫等も並べた。壁面に震災100日目の航空写真を掲示したところ,自宅を探し当時を思い出す市民も多く見られた。また,1号館2階にある震災直後から収集した図書・雑誌等の震災関連図書コーナーは,2号館開館に合わせて「1.17文庫」と名称を変更した。
震災から10年目には「街づくりと区画整理」をテーマに展示内容を更新し,東日本大震災後はテーマを「図書館の被害状況」と「神戸市が行った被災地支援活動」としたが,最近は入室する方も少なくなっていた。
3.リニューアルの内容
図書館が行う「震災20年継承・発信事業」は震災関連資料室のリニューアルとし,年度当初から担当者を選任し準備を始めた。震災直後より収集した3,000冊に及ぶ震災関連資料に来館者を誘うため「阪神・淡路大震災 関連資料からの記憶の継承と発信」をテーマとした。資料室の展示の内容を,被災者への情報発信のため必要に応じて発行されたもの,経験や活動の記録として書かれたもの,体験からわきおこった思いを綴ったものなどの資料とし,「20年間の復興過程で生じた問題を考え,今後の災害に備え立ち向かうために,1冊でも多く手にとり読んでいただきたい」と担当者が思いを込めた。
震災関連資料室の壁面には,次の6種類のパネルを展示した。(1)「1.17文庫」の中から,救援物資,災害時のトイレ,ボランティア,住まいの確保,復興まちづくり,防災教育に関する図書を選んで,配布用のパスファインダーと合せて紹介した「阪神・淡路大震災を知る,調べる」,(2)神戸アーカイブ写真館から提供を受けた写真を地図上に配置した「平成7年兵庫県南部地震災害現況図(国土地理院発行)」,(3)被害状況や街の復旧・復興過程を表した「阪神・淡路大震災 被害状況,ライフラインの復旧」,(4)震災発生から現在までの「年表」,(5)主な地震・噴火災害を示した「明治以降の地震・噴火災害」,(6)「東日本大震災」である。
展示ケースでは,9つのテーマを設けた。(1)地震発生当日の神戸新聞や週刊誌,ラジオ等様々なメディアの「震災直後の情報発信」,(2)神戸市災害対策広報やミニコミ誌等の「被災生活・生活再建と情報」,(3)在日外国人や障害者等に対する「災害弱者への支援」,(4)震災を契機に始まった「地域でたすけあう-高齢者見守りと要援護者登録」,(5)震災を後世に伝える「伝える-情報と教訓」,(6)「神戸市立図書館 被災-再開へ/震災関連資料の収集・公開」,(7)当時,まだインターネットが普及していないなか,当館が行った,報告書や自費出版図書の発行情報入手から受入までの経過を1冊1冊記録した660枚のファイル「神戸市立中央図書館 震災資料収集の記録」,(8)短歌や俳句,児童図書で「震災をよむ」,(9)震災モニュメントを巡る「震災をあるく」,である。なお,(7)の資料は,今回が初めての公開である。
4.今後の課題
この度のリニューアルは新聞やテレビでも報道され,震災関連資料室の入室者も増えてきている。しかしながら,神戸大学附属図書館や兵庫県立図書館で進められている,資料のデジタル化は当館では手つかずである。今後は,オープンデータ等にも留意し,災害の記録や復興過程を継承し発信していく仕組みづくりに取り組む必要があろう。
Ref:
http://www.city.kobe.lg.jp/information/project/shinsai20/index.html
http://www.city.kobe.lg.jp/information/institution/institution/library/facilities/shinsaikanren.html
http://www.city.kobe.lg.jp/information/public/media/archive/
神戸市立中央図書館・松永憲明