E1474 – 将来の情報環境の動向を見据えて IFLAトレンドレポート

カレントアウェアネス-E

No.244 2013.09.12

 

 E1474

将来の情報環境の動向を見据えて IFLAトレンドレポート

 

 2013年8月18日,国際図書館連盟(IFLA)は,シンガポールで開催中であった世界図書館情報会議(WLIC)・IFLA2013年大会において,「IFLAトレンドレポート(Trend Report)」を公表した。これは,将来の情報環境の動向を予測した資料集であり,その上で図書館は今後いかにあるべきかを世界の図書館界に対して問うたものである。

 このレポートは,IFLAが2010年に公表した,2015年までの戦略計画の重点項目の一つに位置付けられていたものである。レポートは,2012年から1年をかけて,図書館関係者以外の様々な領域の専門家を交えた会合や先行文献のレビュー,それらを元にしたラウンドテーブルでの議論等を踏まえてまとめられた。レポートは,将来のグローバルな情報環境のトレンドとして措定された5つのパートから構成されている。以下,レポートの要約資料“Riding the Waves or Caught in the Tide?”を元に,各トレンドの概要を紹介する。

  • トレンド1:新たなテクノロジーは,情報へアクセスする者を増やし,また制限もする。

 デジタルコンテンツの爆発的な増加により,ウェブ情報の真正性をめぐっては,今以上に情報リテラシースキルが求められることになる。また,コンテンツが増えるとはいえ,識字能力とデジタルツールの基礎的な理解の有無が情報アクセスに立ちはだかる問題としてなおも存在することになる。一方で,各国政府がオンラインの世界へのコントロール姿勢を強めるとも考えられ,その結果,インターネットはパッチワークのように国ごとに存在することになる可能性もある。その他に,モバイルアクセスの増加等の変化もあることから,情報やコンテンツの“所有”の概念が変化し,知的財産権と技術革新の緊張が継続,既存のオンラインサービスのビジネスモデルに変化が生じる。

  • トレンド2:オンライン教育はグローバルラーニングを民主化し,また,大きく変えることになる。

 OERやMOOCs(E1433参照)等のオンライン学習の浸透は,これまで以上に多くの人に低コストでの学びの機会を与え,グローバルラーニングを一変させることになる。また,グローバル経済と技術革新に対応すべく,オンライン学習を利用した生涯学習が重視される。一方で,日常生活で得られる経験等のインフォーマルラーニングが重要な意義を持つようになったり,情報の真正性の判断や情報の有効利用に教育法の力点が置かれるようになったりする。教育市場はネットワークがもたらす影響を受けるようになる。

  • トレンド3:プライバシーとデータ保護の境界は再定義される。

 政府や企業によって集積されるデータセットによって,個人や社会集団の特定が容易になるが,裏を返せば個人のモニタリングが進むことになる。そのため,商用のオンラインプラットフォームでは利用者のプライバシーの保護がセールスポイントとなる。インターネットにおいてはプライバシーやデータ保護に関するグローバルなレベルでの基準を示すのが難しいことから,もし法的なセーフガードが作られなければ,多国籍なウェブ企業は各国政府からデータ提供の圧力をかけられることになるだろう。

  • トレンド4:社会は高度にネットワーク化されることで,新たな声に耳を傾け,そして新興グループに力を与えることになる。

 情報技術の進展は,市民の政治参加を促したりする等のプラスの側面と,ネットワーク犯罪の増加やテロリズム・過激派の活性化に繋がる等のマイナスの側面もある。特にプラス面に関しては,女性の地位向上につながったり,移民コミュニティ等の抑圧されていた人々の声を拾い上げたりすることができるようになる。今後の政府は選挙だけでなく,技術を通じて情報をオープンにする能力が国民の信頼を獲得する上で必要になる。特に政策面でビッグデータを活用することが必要になるにあたって,公的部門における情報マネジメントスキルの専門化が求められることになる。

  • トレンド5:グローバルな情報経済は新たなテクノロジーによって変容を迫られる。

 モバイルアクセスが中心になったり,人工知能技術の進歩によってリアルタイムで多言語翻訳が可能になったり,3Dプリント技術が世界の製造業を変えることに繋がったりする等,技術革新によりビジネスの世界は変化する。世界中どこからでもグローバルな情報技術への参入が可能となり,途上国の企業は現在先進国が世界経済で最も利益を得ている分野に食い込むことになる。また,「物のインターネット(Internet of Things)」が公的サービス等でさらに進むことになる。

 IFLAは公表から1年間,内容についての議論を広く求めていくとしており,その意味でこのレポートは“未完”のものである。レポートに含まれる全資料の利用にはアカウントの作成が求められるが,それにはIFLAメンバーまたはIFLAの機関メンバーのメンバー(日本で言えば例えば日本図書館協会の会員等)である必要がある。図書館の未来を考える全ての人にとって必読の資料であり,これを元にした広範で活発な議論が求められている。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://www.ifla.org/node/7946
http://trends.ifla.org/
http://www.ifla.org/files/assets/hq/gb/strategic-plan/key-initiatives-2011.pdf
http://www.ifla.org/strategic-plan/key-initiatives/digital-content/trend-report
E1433