カレントアウェアネス-E
No.238 2013.06.06
E1435
図書館でデジタル古典・古代史研究を―米デューク大の取組み
2013年5月8日,デューク大学が,アンドリュー・W・メロン財団から50万ドルの助成を得て,同大学図書館にDuke Collaboratory for Classics Computing(DC3)という部署を新設すると発表した。運営開始は7月1日を予定している。これは,古典・古代史研究とデジタル人文学の研究促進を目指して設立されたもので,古典学・歴史学部のソシン(Joshua D. Sosin)准教授が,学部と兼任で図書館にも籍を得るという極めてユニークな取組みとされている。
この試みについて同大学のRita DiGiallonardo Holloway 大学図書館長で図書館担当の副学長でもあるジェイクブス(Deborah Jakubs)氏は,「図書館員はこれまで学内の様々な学部に“エンベッド”されてきたが,教員が図書館の中に“エンベッド”されるということはこれまでなかった」と述べ(CA1751参照),「このような兼任のあり方は,学術の発展の基礎となる図書館と教員の間に新たな役割と関係を作る大きな一歩となるだろう」と期待を示している。
そもそもデューク大学は,デジタル技術を活用したパピルス学(papyrology)において長い研究蓄積がある。既に1983年には,古代ギリシア・ローマ時代の,木の板やパピルス,陶片に記されたテキストを収録したデータベース“Duke’s Databank of Documentary Papyri(DDbDP)”の作成を始めており,1996年からはミシガン大学等と連携してデジタル化パピルス資料ポータルの“Advanced Papyrological Information System(APIS)”の構築を行っている。さらに2008年からはDDbDPやAPISを含め,国内外のさまざまなデジタル化パピルスやパピルス学に関する情報を検索できる“papyri.info”の構築を進めている。デューク大学は“デジタルパピルス学”をけん引してきた研究機関の一つと言えよう。
DC3のメンバーは3名で構成される。チームリーダーを務めるソシン准教授は,古代ギリシアや古代ローマの法・宗教・経済の3つが関わる領域に研究関心を持ち,これまでDDbDPやAPIS,papyri.infoに携わってきた人物である。その他の2名には,様々なデジタル人文学研究プロジェクトに関わってきたバウマン(Ryan Baumann)氏と,古代史料にTEI(Text Encoding Initiative)を適用するガイドラインを作成する国際プロジェクトEpiDocの共同創設者の一人で,TEIの技術委員会メンバーの一人でもあるケイレス(Hugh Cayless)氏が入ることが決定している。
DC3は,この3名でpapyri.infoのデータとツールのメンテナンスとバージョンアップ,パピルス学機関との新たな協力関係の開拓等に従事する。また,パピルス文書だけでなく,今後は古代ギリシャ・ラテン語碑文の領域にも乗り出すとしており,これまでのパピルス学で培ったイメージ処理やテキストエンジニアリング等の技術を元に,世界の多くのデジタル碑文プロジェクトとの連携システムの構築を行いたいとしている。
ソシン准教授は,「図書館は過去と未来に関わる数少ない学術機関の一つであり,古代史料と現代のテクノロジーに関心を持つ古代史家にとっては天国のような環境だ」と述べ,DC3での活動への意欲を語る。図書館によるデジタル人文学研究や研究支援の新しい形として,今後の成果に期待したい。
(関西館図書館協力課・菊池信彦)
Ref:
http://today.duke.edu/2013/05/mellondc3
http://www.stoa.org/archives/1736
http://quod.lib.umich.edu/a/apis
http://www.papyri.info/
http://sourceforge.net/p/epidoc/wiki/Home/
http://www.clir.org/pubs/reports/pub150/pub150.pdf