カレントアウェアネス-E
No.232 2013.02.21
E1402
大学図書館のユニバーサル・デザイン実践ガイド<文献紹介>
Staines, Gail M. Universal Design: A Practical Guide to Creating and Recreating Interiors of Academic Libraries for Teaching, Learning, and Research. Chandos Publishing, 2012. 176p. ISBN: 978-1-84334-633-3
2012年8月に中央教育審議会から『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)』が公表され,その中で「学生の主体的な学修のべースとなる図書館の機能強化」が指摘されている。これに伴って国内でもアクティブ・ラーニングの場としてのラーニング・コモンズ(CA1603参照)の設置を始めとした大学図書館の改修や新営が進むと予想される。
このような状況の下で,米国ミズーリ州のセントルイス大学図書館の副館長であるG・ステインズが執筆した『ユニバーサル・デザイン:教育,学習,研究のために大学図書館のインテリアを創作し,再生する実践ガイド』の出版は,注目に値するといえよう。
本書は7章からなる。第1章「なぜインテリア・デザインが問題か」は,図書館スペースを創造する際になぜインテリア・デザインが問題になるかについて説明する。併せて,ユニバーサル・デザインの起源や定義や原則についても紹介する。第2章「大学図書館における利用者中心のスペースの創作」は,利用者から意見を収集する戦略の重要性を指摘し,その際の留意事項やプロジェクトの工程管理にも触れる。第3章「誰もが使いやすいスペース」は,建築基準に沿ったデザインや色の選択,床の更新,家具の選択と設置,作業照明,安全計画などのインテリア・スペースの基本要素を示し,利用者が使いやすい環境整備について議論する。また,暖房,換気,空調による快適なインテリアにも焦点を当てる。第4章「学習スペースのユニバーサル・デザイン」は学習スペースにおけるユニバーサル・デザインの考え方について調査し,特に情報コモンズからラーニング・コモンズに変りつつある大学図書館の学習スペースのユニバーサル・デザイン化について具体例を挙げて詳述している。第5章「潜在的なコラボレーション」ではライティング・センター,学生相談,デジタルメディア・センターなどとのコラボレーションについて実例を紹介する。第6章「ビグネット〔シナリオ〕を使ってスペースを変える」では,ユニバーサル・デザインの原則を適用する事例としてレファレンス・デスクの見直し,グループ学習室に対する需要の増加への対応,人通りの多い場所の床の張り替えなどを取り上げ,具体的な解決のシナリオを示すことによりユニバーサル・デザインの理解を図る。第7章「まとめ」は本書の要約で,変りつつある教員や学生のニーズを満足させる際の課題を列挙している。
本書の特長は,年齢,読書能力,学習スタイル,言語,文化などの能力や特徴が多様な利用者を対象とするというユニバーサル・デザインの考えに基づいて,今後求められる大学図書館の設計や改修や建築について基本的かつ建設的なアドバイスを提供していることである。また,説明は簡潔で,第7章は時間に追われている読者が先ず参照すべき要領の良いまとめとなっている。
学生や教員を対象とする利用者中心のスペースを大学図書館で創造する方法について,実践的でかつ最新の情報を提供するという著書の目的は十分に達成されているといえるだろう。
(名古屋大学附属図書館・加藤信哉)
Ref:
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm
http://www.woodheadpublishing.com/en/book.aspx?bookID=2301&ChandosTitle=1
http://www.neal-schuman.com/uploads/pdf/1077-universal-design.pdf
CA1603