E1197 – 図書館における電子書籍:実務案内<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.197 2011.07.28

 

 E1197

図書館における電子書籍:実務案内<文献紹介>

 

Price, Kate; Havergal, Kate., eds. E-books in Libraries: A Practical Guide. Facet Publishing, 2011, 367p. ISBN-13: 978-1-85604-572-8. e-ISBN: 978-1-85604-800-2.

 本書は英国の公共図書館,継続教育機関の図書館,高等教育機関の図書館における電子書籍サービスの実践に基づいたガイドブックであり,先に紹介した『書架は不要:図書館における電子書籍』(E1131参照)と比べるとマニュアルの性格が遥かに強い。編者のプライス(Kate Price)氏は英国のサリー大学の電子戦略・リソース部長であり,ハヴァーガル(Virginia Havergal)氏はペトロック・カレッジの学習センター及び電子リソースの管理者である。また,18人の執筆者は情報コンサルタント,出版者,大学図書館職員,公共図書館職員である。

 本書は電子書籍の歴史について概説した序章を除くと6つの部分に分けられる。第1部「電子書籍の生産と流通」では,電子書籍の生産,販売,アクセスについて幅広く検討し,図書館における電子書籍プロバイダの選択や無料の電子書籍の役割について述べ,欧州で行われている電子書籍オンデマンド(EOD)サービス(E999参照)について紹介している。第2部「電子書籍コレクションの計画と開発」はエセックス図書館,ヨーヴィル・カレッジ及びカリフォルニア大学マーセド校における電子書籍の導入について検討し,そのプロセスで明らかになった,費用対効果を確保しながら革新的なサービスを提供する際の選書や予算管理や広報・宣伝やスタッフ配置等の課題をまとめている。

 第3部「利用者に電子書籍を届ける」は目録作業やOPAC等によるアクセスにおける技術的課題から情報スキルの訓練や対面による支援にいたるまでの,利用者への電子書籍の提供に関する実務的側面を重点的に扱っている。ロンドン大学ロイヤルホロウェイ校やサリー大学の事例紹介と利用者の認証からデジタル著作権管理までにわたる電子書籍利用時に発生する技術的な課題についての検討が行われている。第4部「読者を電子書籍に引き付ける」は,利用者の読書習慣の一部として利用者が電子書籍を受け入れるように勧めるための戦略とその基礎となった電子書籍の利用実態調査を扱い,エセックス図書館,ブリストル市立カレッジ,ヨーヴィル・カレッジ及びポーツマス大学の事例を取り上げている。

 第5部「電子書籍の将来」は,執筆者に「電子書籍が普及し,読みやすくなる以前に必要な変革は何か?」「今後10年間で電子書籍の環境はどうなるか?」について尋ね,その回答を掲載している。最後の第6部「役に立つ情報」は,執筆者からの便利なヒント,用語集,電子書籍購入のチェックリスト,電子書籍供給者の精選リスト,「公共図書館における探しやすい電子書籍サービス」等のガイドラインや参考資料を提供している。また,各章ではさらに深く学ぶことができるようにウェブページへのリンクや参考文献も提供されている。

 たとえ出版時に内容の一部が陳腐化しても,実務情報やベストプラクティスや事例研究をまとめて提供することが情報・図書館専門職の助けとなるという本書の編者の目的は十分に達成されているといえよう。また,図書館の電子書籍担当者のみならず,電子書籍に関心を持つ学生や実際に電子書籍を刊行している出版社も読書対象となることが期待される。なお,電子書籍と図書館についての著作の出版が増え始めており,ニュージーランドのオークランド大学図書館のオブラドヴィッチ(Ksenija Minčić-Obradović)氏が,10年近くにわたる同館での電子書籍業務の経験に基づいた『大学図書館における電子書籍』(E-books in Academic Libraries)を2010年末に出版している。

(名古屋大学附属図書館・加藤信哉)

Ref:
http://www.facetpublishing.co.uk/title.php?id=572-8
http://www.woodheadpublishing.com/en/book.aspx?bookID=2016&ChandosTitle=1
E999
E1131