E996 – コンテンツ・ライセンシング:デジタル情報資源の売買<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.161 2009.11.18

 

 E996

コンテンツ・ライセンシング:デジタル情報資源の売買<文献紹介>

 

Upshall, Michael. Content Licensing: Buying and Selling Digital Resources. Chandos Publishing, 2009, 258p. (Chandos Series on Publishing)

 本書は著作者(コンテンツ・クリエータ),知的財産権の所有者,コンテンツのベンダー,アグリゲータ,購入者及びソフトウェア・ソリューション・プロバイダを対象とし,コンテンツ・ライセンシング,すなわちデジタル・コンテンツの売買を扱った初めての概説書である。著者のアプシャル(Michael Upshall)氏はコンテンツ・ライセンシング及び情報戦略のコンサルタントで, Helicon Publishing社の共同設立者として英国で最初のオンライン百科事典であるThe Hutchinson Encyclopediaを1995年に出版した人物である。

 本書ではコンテンツ・ライセンシングの略史,プロセス,メディアごとのライセンシング,ビジネスモデル,変換・ホスティング・アクセス管理,アグリゲータ,コンテンツの検索及び探索方法,著作権,ロイヤリティ及び契約,ライセンシングのテクノロジーが取り上げられ,ライセンシングに係わる出版社,アグリゲータ,機関管理者への実務上の提言や特定のマーケット及び特定のメディアにおけるベストプラクティスについての提言が含まれている。

 デジタル・コンテンツの一つであるデータベースが図書館で利用され始めてから30年以上経過し,現在では,電子ジャーナル,データベース,電子ブック等の大量のデジタル・コンテンツがオンラインで24時間,毎日利用できるようになりつつある。このため,図書館の業務やサービスにデジタル・コンテンツは様々な影響を与えている。特に,電子ジャーナルのサイト・ライセンシングは価格,利用条件等の面で大学図書館にとって近年非常に大きな問題となっている。このような中で,コンテンツ・ライセンシングについてのビジネス事例やライセンス対象のコンテンツの選択,取得及び組織化に係わる問題を検討している本書の出版は,大変時宜を得たものである。

 コンテンツ・ライセンシングは,製作や編集のような従来の出版の境界を超え,以前は分かれていた図書と雑誌,雑誌と論文等にまたがり,あるマーケット(雑誌)を理解すれば他のマーケット(図書)にもそれが十分適用可能なので,コンテンツ・ライセンシングの全貌について理解する価値があると,著者は主張している。電子ジャーナルやデータベースの購読・提供のみならず機関リポジトリを通じてオープンアクセス・コンテンツを提供している大学図書館等にとっても事情は同じであろう。

(東北大学附属図書館・加藤信哉)

Ref:
http://www.woodheadpublishing.com/en/book.aspx?bookID=1780&ChandosTitle=1