E1401 – 東日本大震災アーカイブの利活用と参加型アプローチ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.232 2013.02.21

 

 E1401

東日本大震災アーカイブの利活用と参加型アプローチ<報告>

 

 2013年1月24日と25日,米国のハーバード大学において国際会議「参加型デジタルアーカイブの機会と挑戦:東日本大震災からの教訓」が開催され,両日共に100名程度の参加があった。国立国会図書館(NDL)からは「東日本大震災アーカイブ構築プロジェクト」担当として筆者が出席し,報告を行なった。

 東日本大震災の記憶・教訓を後世へ残していこうとする「東日本大震災アーカイブ」と呼ばれる活動が官民さまざまな機関により行われており(E1279参照),この活動をテーマとしたイベントも各地で開催されてきた(E1258E1275E1375参照)。今回の会議では,東日本大震災を含む世界の主要な出来事をテーマとしたデジタルアーカイブが紹介されるとともに,ソーシャルメディア等を活用したユーザ参加型アプローチの可能性や課題,アーカイブの利活用等をテーマに発表や議論が行われた。

 1月24日のセッション1では,「2011年東日本大震災デジタルアーカイブ」についてハーバード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所から報告があったほか,協力しているZeega,同大学地理空間情報分析センター,Internet Archiveからそれぞれの取組みについて発表があった。ディスカッションでは,主に知的財産権や利活用が話題に上がり,Internet Archiveから「公開されているウェブサイトを収集しているため,権利関係で問題が生じたことはほとんど無い」,「ウェブサイトの収集と公開を第一に考えており,利活用のイメージを描けていないことが課題である」との発言があった。

 セッション2では,日本の東日本大震災アーカイブをテーマとし,東北大学災害科学国際研究所の「みちのく震録伝」,NDLの「東日本大震災アーカイブ構築プロジェクト」,官民協働で進められている「311まるごとアーカイブス」,せんだいメディアテークの「3がつ11にちをわすれないためにセンター」,総務省事業で慶應義塾大学を中心に構築が進められている「ふくしま東日本大震災アーカイブ Fukushima」,宗教者災害支援連絡会の「宗教者災害支援マップ」について発表が行われた。収集記録の紹介やシステムのデモ等が行われ,特に311まるごとアーカイブスの収集した大船渡市の地元住民が撮影した津波襲来時の映像は,会場に強烈なインパクトを与えていた。

 ディスカッションでは,保存すべき情報の選別や,複数のアーカイブが活動することによる利点や課題等について議論が行われた。課題については,「一般の方から見て,記録をどこへ提供すべきかわかりにくい」,「記録を保持している機関に対し,複数のアーカイブが収集の打診をかけてしまうことがある」等が挙がり,各アーカイブを束ねる中間組織の必要性が指摘された。

 1月25日のセッション3は,アーカイブの利用者からの報告というテーマで行われた。トリニティ大学,アメリカ・カナダ大学連合日本研究センター,デューク大学から,ライシャワー日本研究所のアーカイブの利用経験を踏まえた報告があり,「日本語ではそのコンテンツが何であるかを理解できないため,メタデータやコンテンツを英語で提供してほしい」,「このシステムを教師や学生が有効に活用するのは難しい。具体的に何ができるのか活用事例を載せるべき」等の意見や改善提案が出された。NHKからは,「NHK東日本大震災アーカイブス 証言webドキュメント」について利活用の面を中心に発表があり,防災の専門家と協力して実施したワークショップの取組み等について報告があった。

 セッション4では,その他の参加型デジタルアーカイブの取組みについて発表が行われた。多くはTwitterやFacebook等のソーシャルメディアを活用したものであった。ディスカッションでは位置情報とプライバシーの問題や,従来型アーカイブと参加型アーカイブの長所と短所について議論された。後者については「図書館等の従来型アーカイブは,メタデータ付与等にクラウドソーシングのような参加型アプローチを取り入れるべき」,「参加型アーカイブは,外部のウェブページやソーシャルメディアの情報を取り入れており,それらが消えてしまった場合に対応できない。情報の保存の面で課題がある」等の発言があった。

 この会議では,国内外におけるさまざまなデジタルアーカイブの取組みが紹介されると共に,利活用の観点で興味深い議論が行われた。筆者が2012年1月に出席した国際会議(E1258参照)では記録の収集や保存の話題が多かったと記憶しているが,震災記録の収集やアーカイブシステムの構築が徐々に進み,記録をどう利活用していくのかについて本格的に議論できる時期が来ているという印象を受けた。震災記録の作成や収集と共に,今後は復興支援や防災教育といった利活用についても,さまざまな展開が期待される。東日本大震災の記録や教訓を後世へ継承していくために,震災記録のアーカイブに携わる者として,これらの活動に対するご賛同やご協力を引き続きお願いしたい。

(電子情報部電子情報サービス課次世代システム開発研究室・白石啓)

Ref:
http://projects.iq.harvard.edu/digitalarchivesconference/pages/schedule-events
http://contentsmagazine.com/articles/notes-from-the-participatory-digital-archives-conference/
E1258
E1275
E1279
E1375