E1275 – シンポジウム「東日本大震災の記録の収集と保存」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.212 2012.03.29

 

 E1275

シンポジウム「東日本大震災の記録の収集と保存」<報告>

 

 2012年3月14日,国立国会図書館(NDL)東京本館で,シンポジウム「東日本大震災の記録の収集と保存-震災アーカイブの構築に向けて-」が開催された。その様子はNDL関西館へも中継され,合計270名が参加した。シンポジウムでは3本の講演及び報告に続いてディスカッションが行われた。

 前半では,まず,東京大学大学院教授の御厨貴氏から「東日本大震災の記録・記憶の社会的な意義」と題した講演があり,同氏が議長代理を務める東日本大震災復興構想会議が2011年6月に示した提言の中で,復興構想7原則の1つ目として震災の記録と伝承について触れられていること等が紹介された。

 次に,米国のハーバード大学教授のゴードン(Andrew Gordon)氏からは,「東日本大震災デジタルアーカイブの意義と課題」と題して,同大学がInternet ArchiveやNDL等の機関と連携して進めている震災アーカイブについて,その多様な収集対象や仕組み等が紹介された。同アーカイブは2012年3月にアルファ版が発表され,夏にはベータ版が公開予定とされている。

 NDLの長尾真館長からは,「国立国会図書館における東日本大震災アーカイブの取組み」と題して,官民の関係機関との連携のもとで国全体として震災の記録等を収集・保存していくという事業の基本理念のほか,システムの概念図や収集方針,技術的課題等について報告がなされた。同アーカイブは,2011年度に構築のための事前調査が行われ,2012年度には開発と早期の公開が目指されている。

 後半では,進行役の東京大学副学長の吉見俊哉氏,発災当時総務大臣を務めていた慶應義塾大学教授の片山善博氏,ゴードン氏,「311まるごとアーカイブス」を実施している防災科学技術研究所プロジェクトディレクターの長坂俊成氏の4名によるディスカッション「東日本大震災の記録・記憶の伝承と再生のために」が行われた。

 ディスカッションでは,まず,吉見氏から,東日本大震災は高度な情報社会の中で起きた大災害であること,日本だけに閉じたものではないこと,歴史とは何かという点が問われていること,震災アーカイブは今後日本が取り組んでいくべきことのプロトタイプのひとつになること,という4つの観点が提示された。それを受けて,各登壇者から,アーカイブがあっても被災地で記録を行うことに対する支援が乏しいことや,映像コンテンツのメタデータをどのように作成するかという問題,ハーバード大学ではこのようなアーカイブ構築は今後世界各地で問題になるという基本認識のもとでプロジェクトを進めていることや,アーカイブのコンテンツは二次利用が可能となるように権利処理をしておくべきこと等の指摘がなされた。また,アーカイブする対象としては,放射線量等の原子力災害関係のデータ,被災者等から聞き取りをしたオーラルヒストリー,マスコミや現地で支援活動を行った人々による写真・映像等の記録が重要であると述べられた。

 質疑応答では,「何十年と経って震災の記憶が薄れたときに上手くデータを引き出せるようなアーカイブが構築できるのか」という利用面での問題が示され,片山氏から「情報が死蔵することなく活用されるように,分類・整理等,図書館関係者の腕の見せ所だ」という期待が述べられた。

 震災アーカイブの構築において,記録の収集・保存という点だけではなく,誰が記録をするのかという主体の問題及び,アーカイブをどのように活用するのかという利用の問題が浮かび上がったシンポジウムであった。

 シンポジウムの資料はNDLホームページで公開されている。

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/1192893_1368.html
http://japan.internet.com/busnews/20120316/4.html
http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/fukkouhenoteigen.pdf
http://jdarchive.org/
http://311archives.jp/
http://www.ndl.go.jp/jp/311earthquake/disaster_archives/index.html