カレントアウェアネス-E

No.212 2012.03.29

 E1276

Google助成のデジタル人文学プロジェクトから得られた教訓

　米国のイリノイ大学アーバナシャンペーン校のバーベル（Virgil E. Varvel Jr.）氏らによるレポート“Google Digital Humanities Awards Recipient Interviews Report”（2011年12月付）は，同大学とインディアナ大学が共同で設立したHathiTrustリサーチセンター（HTRC）の今後の在り方を考える上での検討資料として作成されたものである。Googleは2010年7月にデジタル人文学研究プロジェクトへの助成を発表しており（E1081参照），そこでは資金面だけでなく，Googleブックスプロジェクトが抱える膨大な量のデジタルテキストデータを研究者へ提供している。そのため，HathiTrust（CA1760参照）の有するデジタルテキストの活用を支援する目的で設立されたHTRCにとっては，同様の研究支援を行っているGoogleの助成プロジェクトから学ぶところがあると判断したものと思われる。

　レポートでは，Googleによるデジタル人文学研究助成プロジェクト12件のうち，文脈内での言語比較のためのデータベース作成を行うミシガン大学でのプロジェクト“Automatic Identification and Extraction of Structured Linguistic Passages in Texts”や，古典資料の中に登場する古代の地名を地図上で視覚化する英国国立オープンユニバーシティ等のプロジェクト“Google Ancient Places”等の8件について，担当者に行ったインタビューの結果等がまとめられている。

　レポート前半では，各研究プロジェクトの概要やプロジェクトにおけるデータ選定方針，データ検索，データ処理，データマネジメントの状況等が示される。レポート後半では，インタビューで指摘された課題やHTRC向けの提言等がカテゴリーごとにまとめられている。その一部を紹介する。

• 資料の同定と検索
  　デジタル人文学の学際的な性格と研究者の多様性から，HTRCはコンテンツやメタデータ標準，テキストのマークアップ方法，データを提供するのに用いているアルゴリズムについて明確に示すことが必要である。また，研究者は，研究にあたって必ずしも大規模なデータセットを必要としてはいないことが指摘される。これは，その時々の場面に応じて適切なフォーマットで，適したデータセットを提供してくれるデータ提供サービスを望んでいるということである。
• コンテンツの特徴
  　光学的文字認識（OCR）の品質向上には可能な限り努めることが望ましいとされ，スキャンした画像の確認と修正のためにスケーラビリティをもったシステム等が必要と指摘されている。
• 協同とコミュニティ
  　HTRCはデジタル人文学研究コミュニティについて知ること，コミュニティ内のコミュニケーション促進に努めることが求められる。次に，HTRCはGoogleブックスプロジェクトとの間で相互にコミュニケーションがとれるようにし，また別のクラウドベースのサービスとも連携を考える必要がある。HTRCは，データ標準からAPI，視覚化ツール等に至るまで，開発を行う際には様々な研究グループに意見を求めるべきである。また，研究者がツールや疑問，成功事例等について共有する場が必要である。
• ポリシー
  　　研究者の多くは制限付きでも著作権保護期間内にある資料を利用したいと考えている。また，研究者は，パブリックドメインの資料をもとに作られたデータについては，パブリックドメインのままとすべきであると感じている。研究者のうち幾人かは，Googleの規定によりMARCレコードの利用に制限があった。HTRCは，アクセスや公開に関する権利を明文化し，研究者にメタデータを提供するための方法を検討する必要がある。
• データマネジメント
  　インタビュー調査を行った全プロジェクトにおいて，データキュレーションは行われていなかった。HTRCには，資料レコードの管理と処理の方法，データキュレーションの優良事例のリンク集，キュレーションサービスのためのサポートが必要である。そして，HTRCはワードクラウド等のような視覚化ツールの活用方法等について検討すべきであるとしている。

Ref:
http://www.ideals.illinois.edu/bitstream/handle/2142/29936/CIRSSReportHTRC1101V2.pdf
http://www.hathitrust.org/htrc
CA1760
E1081