カレントアウェアネス-E
No.170 2010.04.28
E1043
「Europeanaパブリックドメイン憲章」が公表される
デジタル化された欧州の文化遺産を提供する欧州デジタル図書館“Europeana”(CA1632,E862参照)を運営しているEuropeana Foundationは,2010年4月に,「Europeanaパブリックドメイン憲章」(Europeana Public Domain Charter)を公表した。憲章は,パブリックドメイン(著作権による保護外)にある資料について,それらが文化・社会にもたらす効果や意義を強調するとともに,それらのデジタル化に伴う問題点について,Europeanaにコンテンツを提供する機関に注意を喚起するためのものである。憲章とともに公開されている説明文書を基に,その目的や背景等を紹介する。
憲章は政策ステートメントであり,拘束力を持つものではないが,パブリックドメインのデジタルコンテンツの利用条件等について,博物館・図書館・文書館といった,コンテンツを提供する機関や,関係者間の議論に影響を与えることを目的としている。
憲章が出された背景には,デジタル化されたパブリックドメインの資料への自由なアクセスが制限されるケースが発生しているということがある。Europeanaには様々な文化機関からコンテンツが提供されているが,その利用条件等はコンテンツ提供者の方針によっているため,パブリックドメインの資料の利用条件等についてもばらつきがある。特に,アナログ形式でパブリックドメインである資料のデジタル版の利用が有料となっているものがあることに利用者の不満があるとしている。憲章は,利用者の利便性向上のため,こうした状況を改善することを狙いとしている。
説明文書では,健全なパブリックドメインのための原則として,次の3点が示されている。
- 著作権による保護は一時的なものであり,保護期間が終了した作品は自動的にパブリックドメインとなる。
- パブリックドメインの作品はパブリックドメインであり続けなければならず,デジタル化等による再版に際し,排他的権利を主張したり,利用に制限を課すことはできない。アナログ形式でパブリックドメインであるものは,デジタル化されてもパブリックドメインである。
- デジタル版のパブリックドメイン作品の適法な利用者は,自由に利用・複製・修正ができるべきである。
また,権利問題に関するガイドラインとして,著作権の保護範囲の変更の際にはパブリックドメインへの影響を考慮する必要があること,パブリックドメインの資料に排他的権利を主張するために著作権以外の知的財産権を用いてはならないこと,の2点が示されている。
憲章では,パブリックドメインの作品を,社会がそこから知識を引き出し,新しい文化作品を形成するための原材料であると位置付けている。これを実現するため,社会の全ての人がパブリックドメイン作品にアクセスできるようにすることが文化機関の役割であるとし,デジタル時代に存在価値を示すためにも,文化機関は共有の知識や文化へのアクセスを増やすための努力をしなければならないとしている。
Ref:
http://version1.europeana.eu/c/document_library/get_file?uuid=d542819d-d169-4240-9247-f96749113eaa&groupId=10602
http://version1.europeana.eu/web/europeana-project/publications
CA1632
E862