2021年2月14日付で、Springer Nature社が刊行する科学計量学分野の査読誌“Scientometrics”に、中国の山东大学国际创新转化学院の张立伟(Liwei Zhang)副教授と中国人民大学公共管理学院の马亮(Liang Ma)教授による共著論文“Does open data boost journal impact: evidence from Chinese economics”のオンライン速報版が掲載されています。
同論文は多くの学術雑誌で研究データの公開が進んでいることを背景に、研究データの公開が学術雑誌に及ぼす影響を実証的に検討した結果を報告する内容です。著者らは、中国社会科学院(CASS)の刊行する『中國工業經濟(China Industrial Economics:CIE)』誌を検討の対象としました。CIE誌は2016年末に中国の社会科学系の学術雑誌として初めて、論文の著者に研究データの公開を義務付けており、論文の執筆時点でもこの分野でオープンデータを義務化する唯一の雑誌であることを紹介しています。
影響関係の検討には、南京大学と香港科学技術大学の開発した社会科学分野の中国語雑誌に関する引用索引データベース「中文社会科学引文索引(Chinese Social Sciences Citation Index:CSSCI)」が利用されました。著者らは、CSSCIに収録されたCIE誌を含む経済学分野の37誌について、2001年から2019年までの期間における収録論文と被引用数に関するデータを取得し、統計解析の反事実分析で用いられる“Synthetic Control Method”によって、オープンデータがCIE誌に及ぼした影響の因果推論を試みました。
著者らは、CIE誌はオープンデータの義務化によって、ポリシーの採用後に公表された論文の被引用数を当年・2年目以降ともに1倍から4倍増加させる効果が確認されたこと、ポリシー採用以前に公表された論文の被引用数の増加にも影響していることなどを報告しています。検証の結果から、研究データ公開の義務化は、学術雑誌の評判や影響を高める方策として有効である可能性が示唆される、としています。
Zhang, L.; Ma, L. Does open data boost journal impact: evidence from Chinese economics. Scientometrics. 2021.
https://doi.org/10.1007/s11192-021-03897-z
参考:
CA1909 – オープンアクセスに関する中国の取組と科学技術雑誌の実態 / 李 穎, 田 瑞強
カレントアウェアネス No.334 2017年12月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1909
【イベント】2020年度第3回J-STAGEセミナー「ジャーナルから見た研究データ:データ公開の実践」(3/1・オンライン)
Posted 2021年1月29日
https://current.ndl.go.jp/node/43136
学術雑誌の研究データポリシーの強度に影響を与える要因(文献紹介)
Posted 2020年10月29日
https://current.ndl.go.jp/node/42387