カレントアウェアネス
No.169 1993.09.20
CA898
地図図書館の将来「地図」
CD-ROMに搭載された数値地理情報と新しいソフトウェア及びPCが,地図図書館の様相を変えようとしている。
アメリカ合衆国では,国勢調査局によるTIGER fileの,地理情報システム(GIS: Geographical Information System)技術による利用がその一つの契機となっている。
TIGER fileは,1990年センサスによる統計と,数値化された地図を統合したデータのセットで,CD-ROMに収められている。またGISは,定義がやや曖昧だが,上に見るような数値地図とその属性(自然,行政単位,統計等々)を一括管理し,その蓄積・検索・変換・解析等を効果的に行って,目的に沿った主題地図の出力やレポートの作成ができるように組み立てられた技術の体系である。これまで主として資源開発,公共事業,大学等で利用されてきたが,ここに新しく図書館が登場して,操作性に優れたソフトの開発の前線となっている。
地域に関する諸情報が数値メディアを通じて提供されるケースは激増しており,政府刊行物の保存図書館であるコネティカット大学図書館の例でも,過去一年間に受け入れたこの種のCD-ROMは120タイトルにも上るという。
こうした事情を背景に,米国図書館協会(ALA)の地図・地理図書館,政府刊行物図書館の両Round Tableや,Cartographic Users Advisory Group(上記2つのRound Table,専門図書館協会(SLA)地理・地図図書館部会,西部地域地図図書館協会で構成)のリーダーシップの下で,1991年から92年にかけて,ワークショップや,Tiger testと命名された,TIGER fileと何種類かの市販ソフトの,図書館とその利用者による稼働実験が行われ,その結果を受けて1992年春からは,前回実験でいずれも使い勝手に難ありとされた従来の市販ソフトに代わって,環境システム研究所社の新製品Arc Viewを用いてさらに一歩を進め,政府情報の利用にGIS技術がもたらす新局面の普及のためのARL(研究図書館協会)GIS Literacy Programが展開されている。これにはLCも参加している。ちなみにLCは,利用者への提供と併せて,同館所蔵の12,000タイトルを越える地形図等のシリーズマップの有効な管理システムヘの活用をも目指すGIS導入の予算を要求している。
州の規模でも,州・市・郡などが資源や行政の管理のために整備してきた数値地理情報への一般利用者によるアクセスを実現するため,州立図書館等を核にしたdigital libraryのネットワーク作りが始められており,Arc Viewの使用が広まっている。
GIS技術の図書館界への普及については,完全に新しいタイプの地図(それ自体完成している製品から必要な情報を読み取る従来の紙地図とは異なり,必要の都度システムを操作することによって利用者自身が創り出す地図)についての利用者の認識を深め,テストの結果を生かした使い易いソフト,メニューを用意し,どんな操作,発問が可能であるのかについてのガイドを作成することが不可欠である。
GIS提供の場としての図書館の適性については,中立的な情報公開の場として,また情報入手の入口としての市民への定着度から,肯定する意見が多い。GIS提供の試みは始められたばかりだが,スタッフの養成や利用料金,さらに瞬時に複数のレイヤー(行政区画,道路,統計データ,土地利用などの地図上の各要素別の,位置情報を伴うファイル)を重ね合わせて新しく創出される,従って使用するレイヤーによって千差万別の結果となるアウトプットの結果について,図書館が責任をもつのかどうかなどの問題もあり,GIS技術の図書館への普及には,なお5年位はかかりそうだとされている。これらの問題点をめぐる地図図書館員の動きはSLA地理・地図図書館部会の機関誌等にも窺える。
鈴木純子(すずきじゅんこ)
Ref: Lang, Laura. Mapping the future of map librarianship. American Libraries 23 (10) 880-883, 1992
Goodchild, M. F. Geographic information systems and cartography. Cartography 19(1) 1-13, 1990
Andrew, Paige G. Report on the lOth Workshop on Map Libraries sponsored by COSMAL. Bulletin. SLA Geography & Map Division (171) 52-55, 1993