CA899 – 文化政策としての情報政策:新ヨーロッパのための国際会議 / 田中智子

カレントアウェアネス
No.169 1993.09.20


CA899

文化政策としての情報政策
−新ヨーロッパのための国際会議−

1992年10月17日から21日にかけて,ドイツのボン近郊のケーニヒスヴィンターにおいて「文化政策としての情報政策/新ヨーロッパのための会議」と題する国際会議が開かれた。日本や米国も招かれたが,この会議に参加した23カ国のほとんどはヨーロッパ諸国であり,政治家や図書館員,学者などの各国代表85名が出席した。会議は,特定の主題を扱う複数のワーキングセッションに分かれ,各結論を全体で討論した後,21日に最終宣言を発表して終了した。

会議の主要テーマとなったのは,数年来のヨーロッパの経済的・政治的変動が,ヨーロッパの図書館,文化施設にもたらした影響を論じることであった。会議開催に協力した国際ドキュメンテーション連盟のカール・シュトロートマン(Karl Stroetmann)は,「新ヨーロッパの文化的,経済的及び社会的勃興は図書館情報学に携わる者にとってチャンスを与えもするが,同時に危険も与える」と指摘し,「ヨーロッパの西と東の情報の較差の存在とその拡大が文化的水準そのものをも引き下げてしまうおそれがある」と述べている。ワーキングセッションにおいても,東欧と西欧における文化施設間の大きなギャップは,明白になった。東欧及びロシアにおいては,図書館などの文化施設に対する文化的・財政的資源の不足が大きな問題となっている。そのほかにも,複数の発言者が西側からの脅威について触れている。西欧や米国のメディアが,東欧諸国に文化帝国主義を押しつけ,その文化的アイデンティティを崩壊させているのである。情報量の較差からくるヨーロッパの分断と,東欧諸国のアイデンティティ崩壊に起因する文化的多様性の喪失は,ヨーロッパの抱える大きな問題であるといえよう。会議では,ヨーロッパの諸変化が図書館や情報機関にもたらした危険を詳しく分析することにより,その解決策を探ろうという努力がなされた。

最終宣言においては,各国が共同して文化的アイデンティティとヨーロッパの多様性を保持し,図書館や情報機関をヨーロッパ文化遺産の源泉として保護,拡充する事が目標とされている。さらに,各国が相互に交流を行い,中・東欧の大学や研究施設も参加できるような西欧のプログラムを開放することが決定された。会議の議題となった問題は複雑であり,その取り上げ方も各国によって異なってはいたが,この会議において,政策決定者と文化及び情報科学の専門家が集まり,国境を越える人的ネットワークが確立したことは評価できることである。それは,ヨーロッパにおける将来の現実的協力の基礎となるであろう。

田中智子(たなかともこ)

Ref: Chepesiuk, Ron. Information policy as cultural policy. Am Libr 24 (2) 162-164, 1993
Hogh, Horst. Bibliotheken auf dem Weg zu einem neuen Europa. Bibliotheksdienst 27 (2) 175-180, 1993