カレントアウェアネス
No.169 1993.09.20
CA896
図書館におけるパート労働−ドイツの場合−
ドイツの公共図書館の図書館員の8割は女性である。Buch und Bibliothek誌92年12月号は,彼女たちの関心に応えるべく,「図書館におけるパートタイム労働」について特集を組んでいる。
わが国ではパート労働は身分関係的色彩が濃いが,ドイツでは必ずしもそうではないようだ。パート労働導入を推進してきた女性管理職やパート労働経験者の報告を集めたこの特集では,パート労働はジョブシェアリングと結び付けて論じられており,雇用形態の一種としてその導入が追求されている。すなわち,フルタイム・ポストについて,その労働時間を短縮したりその職務内容を分割・委譲することにより,職業と家庭の両立を可能にする労働形態としてパート労働を生み出すことがテーマとなっている。
各図書館におけるパート労働導入の実際の契機は,フルタイム労働者の結婚・出産である場合も多い。この場合,仕事を継続してもらいたい,代わりの者が見つからないということでジョブシェアリングやパート労働の可能性が検討されることになる。さらに,女性の職業進出を促進するために,積極的にパート導入が図られることもある。
例えば,フランクフルト市では87年にパート導入促進のためのガイドラインとして女性育成計画を定めた。これによれば,すべてのポスト及びすべての職場においてパート勤務が可能であるとされており,パート勤務への転換の申し出は緊急の業務上・勤務上の理由がない限り拒否できず,拒否する場合には理由を付さなければならない。また,パートタイム勤務者は,フルタイム勤務者と同じ職業能力開発のチャンスを与えられ,フルタイム・ポスト補充の際には,能力が同等である限り,フルタイムヘの転換を希望するパートタイム勤務者を優先するとされている。92年現在,同市の行政部門のパート比率は16%であるが,女性の割合が86%を超える同市立図書館のパート比率は36%と2倍以上になっている。女性育成計画に基づいて実施されたアンケート調査によれば,自己の勤務時間体制に対する職員の満足度は高い。
また,ハンブルク公共図書館では,職員の92%が女性であるが,パート勤務者の割合も高く,全ポストの3分の一がパートタイム勤務者によるジョブシェアリングの対象となっている。ここでは,管理職ポストについてもジョブシェアリングが行われており,パート勤務者にも昇進の可能性が開かれるに至っている。
ジョブシェアリングと組み合わせたパート導入の最大の障害は,職員数の増加による人件費の増大である。もっとも,逆にコスト削減を目的とするパート導入もありうる。フルタイム・ポストのパート化によって短縮された総労働時間分の仕事が新規雇用によってカバーされないのであれば,これは確実に図書館サービスの縮小につながるからだ。市町村財政の逼迫が著しい旧東ドイツ地域の図書館関係者の間では,このような事態を恐れてパート導入を警戒する声が強い。
齋藤純子(さいとうじゅんこ)
Ref: Teilzeitarbeit in Bibliotheken/Erfahrungen, Probleme, Chance. Buch Bibl 44 (12), 1026-1051, 1992