カレントアウェアネス
No.140 1991.04.20
CA730
EROMMとIROMMの作成計画
劣化資料のマイクロ化による保存を図る上で,保存努力の重複を避け,保存の優先順位を決定するために,マスターネガフィルムの所在記録を一元的に管理することが大変重要となる。
この種の試みとしては,米国で1965年から続けられてきた,NRMM(National Register of Microform Masters:全米マイクロ資料マスター登録簿)の活動が有名であるが,欧州においても,EC委員会の第13総局(通信,情報産業およびイノベーションを担当する部門)の主導によって,EROMM(European Register of Microfilm Masters:欧州マイクロ資料マスター登録簿)の作成が実現をみることになった。これまでのEROMM創設に至る経緯を紹介してみたい。
1987年4月,EC委員会は図書館に関する公聴会(ルクセンブルグ)を組織し,1つのセッションが保存の問題に充てられた。委員会は,全欧州規模でマイクロ資料のマスターの所蔵登録簿をすみやかに作成するべきであるというセッション作業グループの勧告を受けて,アレクサンダー・ウィルソン(英国)に研究を依頼した。その研究報告(『ECにおける図書館の資料保存』1988)では,まず,国レベルで登録簿を作成し,これをEC内でリンクさせ,最終的には,米国や他地域の登録簿と結合することを目標として,まず予備調査を実施すべきであると結論されている。
ついで委員会は,実行可能な計画の立案に着手し,この研究は1989年夏に完了した。この研究報告は3部からなり,第1部では欧州と北米における保存マイクロ化活動の現状,第2部では,書誌ツールと保存情報の交換奨励という両面からみたEROMMが述べられ,第3部は結論と最終的な勧告案が示されている。
EROMMはこの中で,「図書やその他の文献に含まれる情報内容へのアクセスを可能とする代用メディアに関する統一形態の書誌レコードで構成される登録簿」と定義され,その主要な作成目的として,EC域内での保存努力の重複を避ける,利用者のマイクロ資料マスターへのアクセスを容易にする,EC域内の保存努力をさらに活発にする,EC域内や域外の図書館の相互協力を活発にするなどが挙げられている。一方,調整すべき課題として,登録する資料の範囲,記録される情報の性質,商業的に出版されるマイクロ資料のマスターの問題,著作権の問題などが指摘されている。
報告では,EROMMプロジェクトを2段階に分けている。第1段階では,まず4カ国(フランス,英国,西独,ポルトガル)の機関が共同でデータベースを作成する。このために,フランスと英国は,各々のデータベースをこのパイロットデータベースに統合し,西独とポルトガルは,パイロットデータベースのためのレコード作成に着手するとしている。第2段階では他の国々も参加し,EROMMの恒久的な確立を図ることになっている。
この結論は,1989年12月にルクセンブルクで開かれたワークショップで承認され,EROMMは,正式に実現の運びとなった。プロジェクトの管理委員会のメンバーと委員長が選出され,委員長には,ジャン=マリー・アルヌー(Jean-Marie Arnoult,フランス)が就任した。また,第1段階での登録簿の基地はパリのフランス国立図書館におかれることが決まった。
最後に,IROMM(International Register of Microfilm Masters:国際マイクロ資料マスター登録簿)の実現へむけた動きを紹介したい。米国のアンドリュー・メロン財団および保存とアクセス委員会(Commission on Preservation and Access : CPA)の主催によるIROMM会議が1990年5月にチューリッヒで開催され,各国のマイクロ保存の関係者が参加した。ここでは,マイクロ資料に関する書誌情報の国際的データベースを構築するためのガイドラインの作成が議題となり,同時に,全世界での保存マイクロ化事業の調査も支持された。
田中久徳(たなかひさのり)
Ref: International Preservation News (4) 3-4, 1990. 8