CA718 – フランス公共図書館協力センター(CNCBP)の活動 / 豊田透

カレントアウェアネス
No.138 1991.02.20


CA718

フランス公共図書館協力センター(CNCBP)の活動

図書館協力に限らず,協力活動というものには,文字どおり共に何かを計画・実行するというcooperationという面に加え,いわゆるパートナーシップという精神的,スタンス的な面がある。前者は目標が見えている場合にその成果を高める組織的な手順であるし,後者は何か新しい展開を始める場合に重要な側面であろう。

1986年,フランス公共図書館協力センター(Centre National de cooperation des bibliotheques publiques : CNCBP) が発足した。何やら漠然とした名称であるがゆえに,かえっていろいろなことができそうな機関であるが,これは元々はマッシー公共図書館という,国内公共図書館のための国立のパイロット図書館だったものであり,研修・教育なども行なっている。この機関が近年行なった図書館協力活動の中から,前に挙げた協力の二つの側面から見た例を紹介したい。どちらも図書館活動の中心をなす大事業ではないが,短期間で着実な成果を上げた例と言えるだろう。

CNCBPは,その活動の中に「図書館の遺産(Patrimoine des bibliotheques)」サービスというものを持っている。1986年,その一環として,所管官庁である文化省図書読書局から,新聞・雑誌のマイクロ化資料の目録作成を命じられた。フランスでは,19・20世紀の地方新聞・雑誌をマイクロ化するプログラムが同局により1982年から始められていたが,その方法は,ひとつは新聞保存・複製協会(Association pour la Conservation et la Reproduction Photographique de la Presse : ACRPP)との協力によるマイクロ化事業, もうひとつは地方の公共図書館に補助金を与え,各地域なりのマイクロ化計画を進めることであった。これらは一元的に行なわれたわけではなかったが,4年間の成果を踏まえ,ここに「フランスの地方新聞(逐次刊行物マイクロ総合目録)」の作成が実施されることになったわけである。

目録は次のような記載項目の記入票を地方公共図書館に送付・回収して作成された。項目とは,新聞・雑誌の書誌的事項,マイクロ化済みの期間,何かのコレクションとしてマイクロ化された場合の明示,マイクロ複製資料の所在等である。初版は1988年1月に刊行され,全国16の図書館が所蔵している400タイトル(87年10月までにマイクロ化済みのもの)が記載されている。

この時点では,協力館はまだ公共図書館のみであったが,マイクロ化の進展により,補遺の刊行された際には,地方の公文書館が参加することになり,地方行政機関の定期刊行物マイクロ資料も含む目録になった。これは1989年4月に刊行され,新たに160のタイトル,12の地方公文書館と20の地方公共図書館が加わった。90年春の第2版では,更に250の新たなタイトルと国立大学からの登録が加わり,特にストラスブール大学は150タイトルが記載され,収録範囲の充実に大きく貢献している。また,新版のデータは文化情報省の情報システムに搭載されることにもなっている。

この目録には,別冊として複製所蔵機関名とその提供方法を記載したリストもあり,また,現在はアルファベット順の目録のみであるが,より使い勝手を良くするために,地域名のインデックスも望まれている。今や1,000タイトルの逐次刊行物を記載したこの目録は,近年端緒についたEROMM(European Register of Microform Masters)計画の基礎になるものでもある。

もうひとつの活動を紹介すると,CNCBPは前身のマッシー図書館だった時代から,音楽資料と図書館の将来の関係強化を重視していて,その方面の専門司書教育も行なっていた。CNCBPになってからはまず,近年レ・アルに登場したパリ市立の音楽資料館(Discotheque des Halles)をパートナーとして,1989年に音楽関係機関の協力組織(Association pour la cooperation de l'interprofession musicale : ACIM)を設立した。これは各々の所管省庁である図書読書局とパリ市文化局が費用を出し合っている。運営に当たったのは,2機関に加えて音楽資料(印刷形態)の出版・流通業者,音楽芸能局,フランス図書館協力連盟,および専門の有識者である。

ACIMはまず機関誌を出すことに重点を置いた。これは2つの性格を持つものとし,ひとつには音楽資料の書誌作成ツールになること,もうひとつは図書館員にとってこの分野についての情報誌になることである。こうしてEcoutervoir(「聴く・見る」という即物的タイトル)が創刊された。月刊の他,季刊も刊行されている。

これらの活動がもたらした成果として重要な点は,CNCBPと音楽関係者が直接に接触を持つようになったことである。これによって互いの業務の内容を知る場が設けられたのみならず,CNCBPは自ら主導して研修や催しを行なったり,事業を始める上で制度的・財政的な協力を仰ぐ相手と手段を持つことになったとも言える。実際,司書と音楽関係者の交流・研修会や,音楽祭への参加なども行ない,一般の司書が音楽資料及び音楽そのものについて見識を深める場も設けている。

このように,他機関との協力というものは,いきなり収集だの目録だのから始めて利害を計り合うのではなく,まず共通の接触の場を設けることでパートナーシップを芽生えさせることが重要ではなかろうか。CNCBPがそうした意味での協力を触発する機関として「図書館協力センター」という名称を与えられているとしたら,これからの情報化社会を考えると的を得た命名であるし,他の活動も期待大である。

豊田 透(とよだとおる)

Ref: Tsagouria, M.-L. et al. Presse regionale francaise : catalogue collectif des periodiques microfilmes. Bull. inf.-Assoc. bibl. fr. (147) 34-35, 1990.
Bourguignat, E. Musique en bibliotheque : 1e Centre national de cooperation des bibliotheques publiques et ses partenaires. Bull. inf.-Assoc. bibl. fr. (147) 36-37, 1990.