CA992 – フランスの大学図書館における書誌ユーティリティの現状 / 佐藤典子

カレントアウェアネス
No.187 1995.03.20


CA992

フランスの大学図書館における書誌ユーティリティの現状

他国と同じくフランスの大学図書館界においても,今日,機械化は重点事業の一つである。1980年代後半から1990年代前半にかけて,次の4つの事業が国のプロジェクトとして行われた。1)PEB(ILLのシステムで,約200の機関が加盟),2)CCN(雑誌の総合目録データベース),3)Teletheses(学位論文データベース),4)PANCATALOGUE(図書の総合目録データベース)である。目録作業に関して言えば,フランス政府によって次に挙げる書誌ユーティリティが公式に認められ,オンラインによる目録作成が行われている。このうち,図書についての目録情報はPANCATALOGUEに統合される。すなわち,Sibil(Systeme Informatise pour les Bibliotheques Universitaires de Lausanne, 1982〜),OCLC(1988〜),そしてBN Opale(1989〜)である。フランス大学図書館の目録情報源となっている三つの書誌ユーティリティについての比較調査を中心に,大学図書館が抱える目録作業の現状と問題点を紹介する。

この調査は1992年に行われ,43館からの回答を得た。それによれば,1992年12月末の時点でフランス国内では,Sibilに18館,OCLCに30館,BN Opaleに16館の大学図書館が参加している。参加館の年間購入冊数はOCLCが137,529件,Sibilが113,738件,BN Opaleが100,734件となっている。購入によらない資料,すなわち寄贈,交換によるものや,学位論文などの冊数は,OCLC 71,152件,Sibil 34,811件,BN Opale 37,737件となっている。

それぞれのユーティリティにおけるヒット率(目録作成に必要な書誌データがそのデータベースで見つかる割合)を比べてみると,OCLCは約81%,BN Opaleは約86%となっている。Sibilについてはオリジナル目録に対して特典を与えるという方針が背景にあるために,約54%という低い数字である。しかし,それがSibilの参加館の目録作業にマイナスに働くことはなく,オリジナルな書誌レコードとコピー・カタロギングによるものとを合わせて,1992年の一年間で増加したデータ件数は129,464件と三者で最も多く,続くOCLCの100,065件を大きく上回った。

他方,三つのユーティリティに共通する問題点も指摘されている。それは参加図書館の大多数が依然として目録作成におけるタイムラグを許していることである。その原因は,1)図書館資料の購入数の増加,2)機械化以降も改善の余地を残している非合理的な作業体制,3)目録作成の担当者の不足,4)特に専門主題を扱う図書館では資料形態が多様で通常の目録作業にのりにくいという機械化に不向きな面があること,5)作成作業過程における極端な完全主義,などにあるのではないかと推測される。

このような書誌ユーティリティを利用した参加館の目録作成のコスト・パフォーマンスは,どのようになるだろうか。OCLCではレコードに対する課金のほか,定期的に送られる磁気テープやバックアップ用のマイクロフィッシュ,統計類などの製品に対する費用を各館が支払う形をとっている。一方,Sibil, BN Opaleでは一端末に対する月毎の契約金を支払い,この中にレコードに対する課金なども含めている。調査では,これらの費用にシステムの減価償却および稼働にかかる費用と目録作業全体にかかる人件費を加算し,その結果,目録作成一件当たりの費用は平均値でOCLCが261.66F,BN Opaleが241.42F,そしてSibilが234.88Fとなる。その内訳を見てみると,三者に共通して圧倒的に人件費の占める割合が大きい。OCLCが79.58%,BN Opaleが80.18%,Sibilが87.38%と,実に約8割が人件費に注ぎ込まれている。つまり,目録作成に要する費用は三つのユーティリティの選択とはほとんど関係がなく,むしろ作業体制そのものや人員に関する問題にかかっていると言えよう。

以上,フランス大学図書館における問題点を概観すると,書誌ユーティリティ利用として米国や日本で指摘されているものと重なる面が多い。今後,フランスでどのような書誌ユーティリティの展開が図られるのか注目したいところである。

佐藤典子(さとうのりこ)

Ref: Niel, Annick. Les sources bibliographiques: Etude comparee de leur utilisation dans les bibliotheques universitaires francaises. Bull Bibl Fr 39 (3) 30-33, 1994
野口幸生 アメリカ大学図書館のユーティリティ活用 情報の科学と技術 40 (11) 697-707, 1990
上田修一 書誌ユーティリティ 日本図書館協会 1991