カレントアウェアネス
No.187 1995.03.20
CA991
インターネットのレファレンス・ワークへの活用をめぐる議論
急激な成長を遂げているインターネットの情報資源を図書館サービス,特にレファレンス・ワークへ活用する試みは,米国では大学研究機関はもとより,公共図書館へと広がりを見せている(CA982)が,一方では,昨年OCLCの主催で「エンドユーザーアクセス,我々はまだ必要とされているのか?」と題する会議が開かれたように,エンドユーザーが図書館員の介在なしに直接必要な情報を入手する傾向が定着していくのではないかとの議論も起こっている。
インターネットのような複雑な情報資源の利用には,職業的訓練を受けた専門家としての図書館員の関与が積極的に必要であると主張するKovacsらは,Schlomanが情報サービスの戦略計画に用いた「情報スキルのヒエラルキー」図式を基にインターネット資源を利用した情報サービスのモデルを示している。この図式では,最下層の「情報サービス・資源の意識化」から最上層の「知識への貢献」まで7段階の情報スキルを想定しており,各レベルごとにネットワーク資源に対する利用者のニーズと図書館員の役割がどのように関連するのかを解説している。「図書館は利用者に利用可能な資源の存在を周知させる」(情報資源の意識化の層),「情報ニーズの分析と目的にあった情報検索のための適切なファインディングサービス・ツールの選択を行う」(情報検索の層),「電子情報資源の評価では読んだものをすべて信用せず,著者やソースの確認をする」(情報評価の層)などネットワーク資源の特性に則した情報スキルを提示している。
また,同じく図書館員の積極的関与の立場から,Lanierらは「即答(Ready)レファレンス」へのインターネット利用を論じている。即答レファレンスのような事実調査の場合,電子的な一般参考図書資源からOPAC,書誌ユーティリティから商用データベースなど広範な情報資源を検索できるインターネットの有用性は明らかであるが,一方で,際限ないアクセスの可能性と情報内容の変化の激しさから,レファレンス担当セクションでの人的資源の浪費が起こり易い。このため,即答レファレンスの質問に答えるためにかけられる時間コストの上限を設定する図書館が多いとしている。
翻って,レファレンス・ライブラリアンが,冊子体のツールにより回答する場合は,数十,数百冊という書物を用いる訳ではなく,主題や利用者の必要とする回答レベルを判断して,適切な範囲で,利用者のニーズに対応している。同様にインターネットの資源もその適切さや質の判断に基づいて利用範囲が選択されなければならず,利用可能性,アクセスの容易さ,内容の権威,視野の広さ,最新かどうかなどの観点を考慮する必要がある。現在のインターネットに対する興味が,「どのように利用するか」に集中しがちな中で,図書館員は,利用者の質問を分析し利用可能な資源を評価する視点を持つことが望まれ,それが達成されてこそ図書館員は,インターネットを適切な情報資源として利用者に提供する専門家たりうるとしている。
KovacsとLanier両者の主張は,インターネット資源での情報仲介者としての図書館員の役割を情報ニーズの分析・把握と適切な情報資源の利用スキルの組合わせという「伝統的」なレファレンス・ライブラリアンの専門性に依拠する形で発展させて論じている点で共通性がある。
今後のネットワーク情報資源の利用環境が整備されていく中で,仲介者としての図書館員の専門性がどのように決着していくのか興味がもたれる。また,レファレンス・ライブラリアンの専門職としての確立が未熟である日本の場合の特殊状況も今後の展開に影響するかもあわせて注目されるところであろう。
田中久徳(たなかひさのり)
Ref: Kovacs, Diane K. et al. A model for planning and providing reference services using Internet resources. Libr Trends 42 (4) 638-647, 1994
Lanier, Don et al. Ready reference via Internet. RQ 33 (3) 359-68, 1994
桂啓壮 インターネット時代の図書館 現代の図書館 32 (4) 223-231, 1994