カレントアウェアネス
No.188 1995.04.20
CA999
ヨーロッパ古刊本データベース
ヨーロッパ研究図書館協会(CERL)による古刊本データベース構築の動きが本格化してきている。1992年1月のミュンヘンでの会議において,全ヨーロッパ的な古刊本データベースの作成について合意が成立し,1994年初頭のリスボンでの会議においては,ホスト・データベースの提供者として米国研究図書館連合(RLG)を選択した。RLGとの提携が,最も低コストですむという現実的な理由もあったが,ミュンヘンでの会議の席上で初期刊行本ファイル(Early printed book file)のデモンストレーションを行うなど,RLGが今回の計画に対し,積極的な活動をしてきたことも評価の対象になった。なお,RLGとの契約を結ぶ上で法人格を取得する必要があったため,CERLはイギリスの法に基づき,保証有限会社の形態を整えた。
現在CERLには28の図書館が加盟しており,各加盟館が自らの蔵書のデータを提供していくことになっている。データベースがカバーするのは,1450年から1830年までの書物であり,主なところでは,英国図書館が90万件,バイエルン国立図書館が50万件の機械可読形態の書誌レコードの蓄積を予定している。
データベース作成の費用は,加盟館の拠出金によって賄われるため,加盟館の数が多ければ多いほど,財政的に余裕ができることになる。また,多数の図書館が参加すればそれだけデータベースも充実し,そのことがCERL加盟への大きな宣伝効果を持つということにもなる。
データベースの構築は二段階に分かれる。まずA段階において,加盟館が各自の所蔵する古刊本のデータをUNIMARCフォーマットにより個別に入力し,メンバーズ・ファイルを作成する。各々のメンバーズ・ファイルは独立した形で存在し,データの管理は,そのファイルを作成した図書館が受け持つことになっている。
オンライン検索やデータのダウンロードが可能であるとはいえ,この段階においては,統一的で良質のデータをヨーロッパの歴史研究に供するという当初の構想を完全に満たしているとはいえない。そこで,各国で一様でない書誌記述を統一的な様式にまとめることや,時として本来的な形態を失っている個々の原本に関するデータの修正作業が必要とされる。
そうした作業を前提として,B段階において,メンバーズ・ファイルを統合する総合ファイルの作成が予定されている。総合ファイルは,トップレベルの書誌情報,すなわち国際標準書誌記述(古刊本)(ISBD(a))に基づいて記録されたデータのみを保有する。情報の細かさという点では,メンバーズ・ファイルに劣るとはいえ,全ヨーロッパ的な古刊本のインデックスとして,また,保存,図書館間の貸出・交換などの図書館活動に対する触媒として,総合ファイルの果たす役割には多大な期待が寄せられている。
このように作成過程を二段階に分け,メンバーズ・ファイルを総合ファイルと別個に設定したことの背景には,たとえ現存する書物が著者の当初の意図から見て不完全なものであるとしても,書誌の記述は現に存在する資料の形態に則して忠実に行わなければならないという基本的な考え方がある。また,古刊本の場合には統一的な記述の規格を当てはめるのが困難であり、記述方法そのものが一つの文化となっているという実情もある。多様性を許容しつつ、統合を進めるという意味で,今回のCERLの試みは,現在のヨーロッパを象徴するプロジェクトであるといえよう。
山岡規雄(やまおかのりお)
Ref: Fabian, Claudia. Das Consortium of European Research Libraries (CERL) und die Grundung einer Datenbank fur fruhe europaische Drucke (1450-1830). ZfBB 41(3) 353-359, 1994
Hellinga, Lotte. The Consortium of European Research Libraries. ICBC 22(4) 60-63, 1993
(追記:CERLの幹事を務めるヘリンガ(Hellinga)女史から国立国会図書館への連絡によると,CERLは,英国法に定める有限保証会社として昨年12月に設立され,RLINとの契約も結ばれた。この時点での加盟館は31館に増え,他に5館の準加盟館があるとのことである。)