CA702 – コロンビア大学図書館学校閉校へ / 千代由利

カレントアウェアネス
No.135 1990.11.20


CA702

コロンビア大学図書館学校閉校へ

6月4日,コロンビア大学理事会は,教授会や卒業生らの反対を押しきり,1992年をもって図書館学校(School of Library Service: SLS)の閉校を決定した。SLSはメルヴィル・デューイが1887年に創設したアメリカで最も古い図書館学校である。現在計画中の総合図書館バトラー・ライブラリーの大規模な拡張工事により,建物の一角を占めるSLSのスペースがどうしても必要であるというのが表向きの理由である。しかし,真の理由は図書館学校に対する大学側の考え方にある。

4月,評議員会に提出されたコール教務部長による報告書(コール報告)は,コロンビアのように研究を主たる目的とする大学が,専門学校である図書館学校をいまだに残置していることに疑問を呈している。また,過去10年間にわたるSLSの財政難や,情報学に関心をはらってこなかったカリキュラムの問題,そしてなによりも,SLSが大学の教育プログラムや研究活動から孤立した存在であったこと等を指摘し,SLSの存在に否定的見解をとっている。

この報告は昨年10月コール教務部長により設置された全学検討委員会(バグネル委員会)の報告に基づくものとされている。しかしバグネル報告の内容は,カリキュラムや学内での孤立した存在などについては問題点として指摘しているものの,図書館学教育に果たしてきたSLSの歴史的役割を評価した好意的なものであった。更に評議員会は4月27日,SLSはコロンビア大学の教育機能を十全に果たしているとの決議を全会一致で採択している。

SLSのウエッジワース校長は,コール報告はSLSが保っている他学部との良好な関係や,最近の入学者の増加および収入を2倍に引き上げた過去5年間の実績を完全に無視していると反論した。ただ,図書館学も最近はコンピュータの導入などにより変わってきているものの,まだまだ一般には新技術に取り残された古い学問,女子学生が圧倒的に多いといったイメージがあることは否めないと語った。さらに大学側の財政的支援がないまま消耗し緩慢な死を迎えるよりは潔い閉校を選ぶとも語った。

アメリカでは1970年代に入ると図書館学校への入学希望者が減少し始めた。この結果逼迫した財政事情および研究や学術面により力を入れようとする大学側の要望により,この12年間にシカゴ大,南カリフォルニア大,ヴァンダービルト大,エモリー大など14の名門図書館学校が次々に閉校に追い込まれていった。

コロンビア大学図書館学校は,244名の学生と10名の教師からなる全学で最も小さい学部である。しかしその貴重書学及び蔵書保存学コースは,世界でも評判の高いユニークなプログラムである。大学側は閉校に際し,これらのプログロムを引き受けてくれる図書館学校を探しており,すでにいくつかの図書館学校から打診があったという。

SLSが身売り(?)するのは初めてのことではない。1889年,大学側が女子学生の入学を拒否したとき,図書館学校はデューイ自身の手でオールバニーに移され,37年後にコロンビア大学に戻るまでニューヨーク州立図書館学校として活動を続けた。さらに最近では,カーネギーメロン大学図書館学校が,ピッツバーグ大学に移った例もある。

ところで,あいつぐ図書館学校の閉校とはうらはらに,情報が氾濫する現代にあって,図書館学は新たな脚光を浴び始めている。法律事務所が図書館員の技術を求め,情報の果たす重要性を認識した民間企業が開発や資金集め,市場調査等の分野で司書の調査能力に注目し始めている。

こうした事情を反映してか,図書館学校の数は減ったものの入学者数は逆に増えている。図書館・情報学教育協会への報告によれば,1979年のマスターコースヘの入学者は63校で9180名であったが,1988年には56校で9864名に増えている。しかし,図書館学校が依然として古くさい学問というイメージから脱し切れず,その閉校があいつぐことになれば,これからの情報化時代に必要とされる,情報カウンセラーや情報ブローカーのような新職種を担う司書の不足を招くことは必至であると図書館学関係者は深く憂慮している。

千代由利(ちよゆり)

Ref: Information Hotline 22 (5) 1 1990. 5
Library Journal 115 (11) 14 1990. 6. 15
School Library Journal 36 (6) 11 1990. 6
The Abbey Newsletter 14 (4) 1 1990. 7
The New York Times 1990. 4. 17, 1990. 6. 6