CA652 – FBIの図書館監視計画とALA / 後藤暢

カレントアウェアネス
No.127 1990.03.20


CA652

FBIの図書館監視計画とALA

アメリカで1987年,FBIが公共図書館や大学図書館の利用者を監視し,在米外国人の読書傾向,利用状況に関する情報を集めるよう,図書館職員に圧力をかけていたことが新聞報道され,大きな社会的反響を呼んだ。このような調査は,FBIの対ソ連スパイ作戦の一部である「図書館監視計画」(Library Awareness Program)に基づき,すでに15年にもわたって行われていたことも判明した。同計画の詳細は,1988年1月,連邦政府の全国図書館情報委員会(NCLIS)の非公開会議でFBIから説明され,のちに情報公開法により公にされた。それによると,「ロシア人」が米国内で収集する情報の90%は公開されている情報であり,大学図書館や公共図書館,とりわけその科学技術資料はよく利用されている。FBIは,誰が何を集めたかを知りたいだけだという。

ALAはこの事態を重視し,“憲法に違反し,図書館利用者のプライバシーを不当にも侵害するもの”と非難するとともに,知的自由委員会から全会員に,経過やALAの態度に関する資料を配布した。ALAはまた,FBIのこのような計画を止めさせるよう,連邦議会に問題を持ち込んだ。

1988年6月,下院司法委員会で聴聞会が行われた。調査図書館協会(ARL)のウエブスター理事長が,FBIのこの計画は「政府によるアメリカの図書館に対する重大な介入」であり「人の心に悪寒をもたらす」ものと断じたように,図書館界の意見はすべてFBIに対して批判的であった。ALA知的自由委員会のシュミット委員長は,図書館利用者のプライバシー保護は,ALAの「職業倫理声明」や「図書館記録の秘密に関する方針」に掲げられているだけでなく,38の州(当時)と首都ワシントンですでに図書館利用記録の非公開が法制化されている現状を述べた。当初中立的立場を採った専門図書館協会(SLA)も,同月の総会でFBIの計画に反対の態度を決定しており,聴聞会ではFBIの活動に憂慮を表明した。

アメリカの図書館が国家権力などによる侵犯から利用者のプライバシーを守る必要に迫られたのは今回が初めてではない。

かつて1964年,FBIがニューオルリーンズ公共図書館で,ケネディ大統領暗殺犯人として逮捕され射殺されたL.H.オズワルドの生前の読書傾向を調べ,その結果が書名のリストと共に報道された時,アメリカ図書館界ではほとんど問題とされなかった。しかし1970年,連邦財務省が,ミルウォーキー公共図書館の貸出記録を調べ,爆発物に関する本の利用者を割り出そうとした時は,利用者のプライバシーを侵すものとして,図書館界のみならず社会的にも大きな反響を呼び,ALA理事会において緊急に対策が立てられ,利用者の権利を守る図書館の任務について合意が成立した。「図書館記録の秘密に関する方針」(1971)は,このような自覚の上に採択された,画期的なものである。

今回の「図書館監視計画」に対するALAの敏速な対処は,これまでもくり返された同種の事件の教訓の上に,利用者の秘密を守る図書館の任務が確立していることを示している。図書館の利用記録に関し守秘義務を定めた州が着実に増え続け,1989年には41州に達したのも,その現われであろう。

しかしFBIは図書館監視計画を諦めていない。最近,1989年11月7日付のニューヨーク・タイムスは,FBIが,図書館監視計画に反対した図書館員の身元を調べ回っているという,驚くべき事実を報道した。ALA会長パトリシア・バーガーは,「このようなことが連邦政府機関にふさわしい仕事とは思えない」と反発した。FBIの調査によって引き起こされた混乱は,いま新たな局面を迎えている。

後藤 暢

Ref: Library Journal 112 (17) 12, 112 (18) 18, 1987. 113 (7) 16, 113 (12) 15, 1988. 114 (20) 19, 1989.
American libraries 19 (3) 156, 19 (4) 244, 19 (5) 336, 19 (6) 481, 19 (7) 557, 562-563, 1988.
Washington Post 1988. 3. 27(邦訳:海外ニュース・ガイド 948.)
Los Angeles Times 1988. 4. 25
NY Times 1988. 6. 21
1964年の事件については,Library journa1 89 (1) 74, 1964
1970年の事件については,Library journa1 95 (14) 2593, 1970等
それ以後の経過については塩見昇 知的自由と図書館 青木書店 1989.260p.