カレントアウェアネス
No.367 2026年3月20日
CA2099
情報過多の時代における情報回避(information avoidance)
筑波大学図書館情報メディア系:松林麻実子(まつばやしまみこ)
情報回避(information avoidance)とは、何らかの理由により、情報を意図的に避けたり、入手を拒否したりする行動のことを指す。情報行動の一種であるが、情報忌避と訳されることもあり、どちらかというとネガティブな意味で使われてきた。
図書館情報学領域においては、情報ニーズを持ち、そのニーズに合う情報を積極的に探す、ないしは獲得することを必要としている利用者に対して、いかに適切かつ効果的な情報提供ができるかということを考えてきた。情報行動・実践(information behavior and practices)研究に限っても、積極的に情報を探す、ないしは獲得することを求めている利用者を研究対象としてきており、情報回避という概念は正面から取り上げられることが少なかった。Hicksら(1)は、Kuhlthauの情報探索過程モデルやSavolainenの日常的情報探索モデル、Wilsonの情報行動モデルなどの情報行動の代表的な研究において情報回避という概念が主要な要素として取り上げられてこなかったことを明らかにした。ただし、Hicksらは同時に、それらの研究が情報回避を全く考慮してこなかったわけではないことも指摘している。例えば、Kuhlthauが、情報は不確実性を増加させることもあり、情報を得ることは必ずしも良いこととは限らないと言っていること、Wilsonが情報ニーズを持つことと情報探索行動を起こすことの間には様々な阻害要因が存在すると述べていることなどを整理して提示している。すなわち、これまでの情報行動研究は、情報行動においては、情報探索を妨げるような要素がある、もしくは獲得した情報を利用する際に必ずしも良いことだけが起こるわけではないことを想定しながらも、情報を積極的に探すこと、獲得した情報を利用して何かを達成することに焦点を合わせてきたということである。
では、なぜ今、情報回避という概念が注目されているのか。それは、情報技術の進展、特にソーシャルメディアの爆発的普及により、私たちを取り巻く情報環境がこれまでになく複雑になり、結果として情報過多の状態になっているからであると思われる。特にソーシャルメディアにおいては、正誤が定かでなかったり他者に対して攻撃的な内容を含んでいたりするような情報が大量に流通しているため、若年層を中心に「情報疲れ」ともいえる現象が起きている。この情報疲れの解消には、デジタルデトックスを通じてスマートフォンやパソコンからの情報を遮断するか、もしくは情報入手に用いるツールを絞り込んで最小限の情報だけ受け取るデジタル・ミニマリズムが有効であるとされる(2)。すなわち、ソーシャルメディア時代の情報行動は、自らが必要とする情報を能動的に探すというよりむしろ、見たくないものをいかにして見ないで済ませるか、という情報回避に特徴があるということができる。
そこで本稿ではあらためて、情報回避とは何か、そこに何らかのパターンがあるのかについて整理してみる。
この概念は、行動経済学や心理学の領域では以前より注目されてきた概念である。Golmanら(3)は、人々は、情報が有用で無料でアクセスできるものであることが分かっているにも関わらず、それらを避けることがある、というように、情報回避が経済的合理性に反する行動であることに注目し、その実態を経済学や心理学などの領域における議論を基に解明しようとした。そして、不安を取り除くため、もしくは楽観主義を維持するためという個人的、心理的な要因に基づく情報回避が、個人の意思決定に必要な情報の入手を妨げたり、テレビや新聞などの報道メディアが人々が見たいと思うような情報のみを提供するゆがみを生じさせるという負の効果を生み出すことを明らかにした。
近年は、特定のジャンルにおける情報回避が議論の的になることも多い。特に問題視されることが多いのは、ニュース消費の領域における情報回避であろう。世界のニュース消費傾向を調査しているロイター・デジタルニュースレポート2025(4)によれば、ニュース回避の傾向は世界的に進んでおり、回答者の10人に4人が「しばしば、もしくはたまにあえてニュースを避けている」と回答している(ただし、この調査結果によれば、日本はニュースを回避する人の割合が低く11%程度にとどまるとされている)。また、スマートニュース社が日本在住の成人男女を対象にして2025年に行った「スマートニュース・メディア価値観全国調査」(5)によれば、「頻繁に」もしくは「時々」ニュースをあえて避ける人は全体の18%である。ニュース回避の理由は「気持ちが暗くなる・気分が悪くなる」が圧倒的に多く、「関心の持てないニュースまで知りたくない」がそれに続く。避けたい話題としては「芸能(有名人のゴシップを含む)」「戦争・紛争」「感動を誘ったり、怒りをかき立てたりするニュース」などが挙がっている。ただし、人々はこのようなニュースだけを避けるというよりむしろ、このようなものが目に入ってしまうのでニュース全体を回避する傾向にあるということに留意する必要があるだろう。
情報回避と情報メディアとの関係について調査している研究もある。Soroyaら(6)は、フィンランドの成人男女を対象としたコロナ禍における健康情報入手に関する調査を通じて、情報回避には利用する情報源が影響することを明らかにしている。具体的には、マスメディアや紙媒体の資料、公式機関のウェブサイト等を通じて情報入手をする場合には特に問題は起きないが、ソーシャルメディアを介して情報入手をしようとすると、情報過多を認識して情報回避が引き起こされると述べている。
以上のように、情報回避が観察されやすいジャンルや行動を誘発する情報メディアに関する調査研究が種々行われているが、ここでは情報回避を良くないものとして取り上げる傾向にある。一方で、情報回避の良し悪しを議論せずに、情報行動の一種として、その解明を試みている調査研究もある。例えばNarayanら(7)は、一般の人々の情報行動を日記法で調べることを通して、消極的情報回避(passive avoidance)と積極的情報回避(active avoidance)の二種類があることを明らかにした。どちらも見たくない情報を避けるという意味では同じだが、消極的情報回避は、個人が長く持ち続けている信念など(例えば、宗教、政治、世界観)に関わる概念的な情報を長期間にわたって回避する行為である。この種の情報は認知的不協和を引き起こすので、人々は情報を探すことよりむしろ、情報に出会うことを拒否する。一方、積極的情報回避は、ストレス処理に関わる情報の短期間的拒否を意味し、深刻な病気や人間関係、家計に関わる情報などの回避が当てはまる。今の自分にとって必要なものであることは分かっているが、そのような情報に触れることで精神的負荷がかかるため、さらなる情報探索は行わない。Narayanらは、情報回避を、単に情報を避ける、もしくは触れないようにする行為としてとらえるだけでなく、「何を」「どのように」避けるのかという観点からより詳細に解明しようとした。
これまで見てきたように、情報回避はソーシャルメディアの普及に伴って出現した情報行動の負の側面としてとらえられがちである。関連する議論として、フィルターバブルやエコーチェンバーの問題がある。フィルターバブルは、SNS等のアルゴリズムがその個人の嗜好に合う情報を優先的に表示させることで、当該個人と似た意見だけに囲まれてしまい、異なる意見に触れにくくなることであり、エコーチェンバーは、SNS等での交流を通じて自分と似た意見の人同士で共鳴しあうことで、自分の考えが世間の主流であると錯覚してしまうことである。どちらもインターネットを介した情報行動の問題点であり、一般的に、ソーシャルメディア等の構造に起因するものだと認識されているが、特にフィルターバブルについては、その背後に人々の情報回避というネガティブな情報行動が隠れているということに意識を向ける必要がある。
利用者の情報入手を支援する側は、利用者が情報入手の前に何らかの情報を回避しているかもしれないということに考えを巡らせること、そして、このような行動をソーシャルメディアの世界の話だとして排除してしまうことのないよう留意することが必要である。
(1)Hicks, A. et al. Information avoidance: A critical conceptual review. Annual Review of Information Science and Technology (ARIST). 2024, 76 (1), p. 326-346.
https://doi.org/10.1002/asi.24968, (accessed 2026-01-26).
(2)“デジタルデトックスは効果なし?得られる効果と実践方法を解説”.Cross Marketing.2025-12-01.
https://www.cross-m.co.jp/column/digital_marketing/dmc20240802, (参照 2026-02-02).
(3)Golman, R. et al. Information avoidance. Journal of Economic Literature. 2017, 55 (1), p. 96-135.
https://doi.org/10.1257/jel.20151245, (accessed 2026-01-26).
(4)Digital News Report 2025. Reuters Institute for the Study of Journalism, 2025, 170p.
https://doi.org/10.60625/risj-8qqf-jt36, (accessed 2026-01-26).
日本語訳は以下のサイトを参照。
ロイタージャーナリズム研究所. ロイター・デジタルニュースリポート2025. 税所玲子日本語版発行責任. 日本放送協会, 2025, 48p.
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/oversea/pdf/20250617_1.pdf, (参照 2026-01-26).
(5)“【プレスリリース】「ニュース回避傾向」のある人は18%〜世代別では、30代が最も高く、60代が最も低い”. スマートニュース メディア研究所.2025-06-26.
https://smartnews-smri.com/smppsurvey/media_value_research-2695/, (参照 2026-01-26).
(6)Soroya, Saira Hanif et al. From information seeking to information avoidance: Understanding the health information behavior during a global health crisis. Information Processing & Management. 2021, 58 (2).
https://doi.org/10.1016/j.ipm.2020.102440, (accessed 2026-01-26).
(7)Narayan, B. et al. The role of information avoidance in everyday-life information behaviors. Proceedings of the American Society for Information Science and Technology. 2011, 48 (1), p. 1-9.
https://doi.org/10.1002/meet.2011.14504801085, (accessed 2026-01-26).
[受理:2026-02-10]
松林麻実子. 情報過多の時代における情報回避(information avoidance). カレントアウェアネス. 2026, (367), CA2099, p. 12-13.
https://current.ndl.go.jp/ca2099
DOI:
https://doi.org/10.11501/14672547
Matsubayashi Mamiko
Information Avoidance in an Era of Information Overload
