カレントアウェアネス
No.367 2026年3月20日
CA2098
閉学に伴う大学・短期大学図書館での大規模な蔵書処分にあたって留意すべき事項
東京学芸大学:今野創祐(いまのそうすけ)
1. はじめに
本稿は、日本の大学・短期大学(以下「大学」)の図書館が閉学に伴って大規模な蔵書処分をするにあたって留意すべき事項を提案するものである。
現在、日本では、少子化などを背景に、私立大学の学生募集停止が相次いでいる。2025年度における私立大学全体に占める入学定員の未充足校の割合は53.2%であり(1)、文部科学省も2026年以降は18歳人口の減少に伴い、大学進学率が上昇しても大学進学者数は減少局面に突入すると予測している(2)。このような状況下で、今後、学生募集停止・閉学を含む大学の統合・再編の流れは加速するものと考えられる。そうした中、大学図書館がやむをえず大量の蔵書を処分せざるをえない状況が生じることが考えられる。本稿では、情報アクセスの保障の観点から、そうした際の蔵書の処分のあり方について考える必要がある点に注目する。
なお、本稿では、機関リポジトリやデジタルアーカイブに収録されている電子的な資料が消滅する問題については扱わず、専ら物理的に実在する資料に関する事項のみを記述の対象とする。
2. 大規模な蔵書処分に関する文献
大学の大規模な蔵書処分に関する文献は、管見の限り、多く存在するわけではない。2015年に閉学した聖トマス大学(兵庫県)の蔵書約25万8,000冊は活用法が決まらず、そのうちの一部が兵庫県尼崎市内の図書館や小中学校において再利用されるなどしたが、25万冊近い書籍は手付かずのまま残り、大学跡地にオープンした同市立のユース交流センター「アマブラリ」において未整理の状態で保管されていることが2020年に報道されている(3)。しかし、大規模な蔵書処分を実施した大学が、その実態を報告した文献はほとんど存在しない。大規模な蔵書処分の実態を公表することで、社会的な批判を受けることへの懸念が大学側に存在し、そうした報告はほとんど公表されないものと考えられる。そのような状況で、貴重な大規模蔵書処分に関する文献と言えるものが「高知県立大学等永国寺図書館蔵書除却検証委員会報告書」(4)である。この報告書では、「除籍について」「除籍図書の再活用について」「資産上の処理について」「除籍図書の処分について」「意思決定について」という5点に焦点を置いた検証が行われた。
他に、一例として、明治薬科大学図書館における重複図書(複本)の除籍に関する報告が存在する(5)。
以下、高知県立大学等永国寺図書館及び明治薬科大学図書館の大規模な蔵書処分に関する報告について、その詳細を見る。閉学に伴う大学図書館での大規模な蔵書処分に関する報告書は見当たらないが、そのような状況が発生した場合にも、これらの事例がある程度参考となると考えられるためである。
3. 高知県立大学等永国寺図書館及び明治薬科大学図書館の事例から見えてくるもの
3.1 高知県立大学等永国寺図書館の事例
まず、高知県立大学は、永国寺キャンパスに新たに整備した図書館への蔵書移転にあたり、旧図書館に所蔵していた図書を除籍するとともに、その図書の廃棄処分を行った。そのことが2018年に地元新聞で報道され、多くの批判を受けたとしている。そうした状況の中、「高知県立大学等永国寺図書館蔵書除却検証委員会」が設置され、報告書が作成された。この報告書によると、高知県立大学による除却の過程は、要約すると、図書の除籍を決定した後、教員が必要な図書を引き取り、引き取られずに残った図書2万2,252冊については、計12回にわたって焼却処分が行われたというものであった。
これに対し、検証委員会側は、結論として、除籍処理の手順は慎重かつ丁寧に行われており、手順に関する瑕疵はなかったと判断し、意思決定のプロセスそれ自体も問題はなかったと判断しているものの、一連の経緯に対して様々な指摘を行っている。第一に、過去に定期的な除籍を行ってこなかったため、旧図書館は満杯状態となり、このことが、除籍作業を集中させてしまうこととなり、今回批判を受ける事態を招いた主な要因の一つであると考えられると指摘している。第二に、「図書除籍に関するポリシー」の不在を課題として挙げている。第三に、贈与や売却という手段が除籍図書の取扱内規で認められているにもかかわらず学外におけるこれらの除却図書の利活用の方策が検討されなかったことを問題として挙げている。第四に、規程等における「除却」及び「除籍」といった用語の定義を明確にすることなどで規程等をわかりやすく整備し、資産上の処理については事務局のどの部署が何をどこまで行うのか、役割分担をより明確にする必要があったと述べている。第五に、以前焼却していたからという理由でそれを踏襲したのは、拙速であったと指摘している。第六に、会議の運営や意思決定のあり方に問題があり、改善が必要であったとしている。
この検証委員会側の意見を参照すると、定期的な除籍を大学図書館が行うこと、図書除籍に関するポリシーを策定すること、学外における除却図書の利活用の方策を検討すること、規程等をわかりやすく整備し事務組織内での業務分担を明確にしておくこと、拙速な廃棄処分を行わないこと、会議の運営や意思決定のあり方を適切なものとすることが重要であると言える。
3.2 明治薬科大学図書館の事例
次に、明治薬科大学図書館における重複図書(複本)の除籍に関する報告を見ていく。明治薬科大学図書館では、キャンパス統合を機に多くの重複図書が所蔵され、排架スペースの不足が深刻化していたことなどから、2018年に複本の大量除籍に着手したとしている。
明治薬科大学図書館においては、まず現状の把握と方針の確認を行った。より具体的には、除籍に関する規程の確認、書架収容率の観点からの図書館の現状確認、蔵書構成の変更方針の確認、長期および短期の目標設定というプロセスである。
続いて除架作業の準備として、対象となる資料の抽出基準の策定、抽出方法の決定、抽出に向けた書誌データの整備、除籍候補となる図書の保管場所の決定、選別基準の決定を行っている。
さらに、除架作業を進めるにあたって、作業量を設定しローテーションを組む、請求記号順リストに沿って書架で図書を集める、除籍候補資料を選別する、除籍候補とされた図書の所蔵データを編集する、除籍候補資料を別置する、除籍候補とされなかった図書のIDを読み込み(選別の作業を経た証拠を残すため)排架するといった手順をとっている。
この報告では、重複図書の除籍作業の実際が詳細に記述されており、同様の作業を進める上で大いに参考となる。この報告によると、こうした作業を進める上での課題として、複本については、「状態の悪いものを除籍する」という選定基準を設けた場合、図書の状態の良さに対する感覚が作業者によって異なること、状態が良い図書を残すことにこだわるとシリーズ図書等の並びが乱れること、また、書誌同定の誤りが生じること、ヒューマンエラーが起こることが挙げられている。筆者が考えるところ、これらの課題の多くは、制度、技術面の変更等では改善しにくいものと思えるが、シリーズ図書等の並びの乱れについては、シリーズ図書はそのままで残すことという方針を事前に立てるといった対策もとりうるのではないかと思う。
4. 蔵書処分を行う際に留意すべき事項
大規模な蔵書処分をしなければならない理由は様々であるが、主に次の二つが挙げられる。第一に大学が閉学となり大学図書館も廃止される場合、第二に大学が他大学と併合され図書館が他大学の図書館と統合されたり、書庫の狭隘化対策などその他の理由で蔵書を処分する必要性が生じた場合である。第一の場合と第二の場合では事情が異なる。第一の場合では、大学図書館の蔵書の置き場が全く無くなり、否応なく全ての蔵書を処分する(6)必要が生じる。一方で、第二の場合では、一定数の蔵書を置くスペースが残存するため、必ずしも全ての蔵書を処分する必要は無く、一定数の蔵書を大学図書館内に残置することも可能である。この事情の差異が蔵書処分における方針を大きく左右する。第二の場合では、筆者の考えではあるが、例えば全国の大学図書館等のうち10館以下しか所蔵が無い資料は貴重な資料とみなし保存するといった方針を立てることも可能かもしれないが、第一の場合では、後述の通り、いわゆるラストコピー(7)を保存する方策を考慮する必要があるからである。
第二の場合における大規模蔵書処分の実態については、前節で言及した高知県立大学や明治薬科大学の図書館の実践報告などわずかながら文献が存在するが、第一の場合、すなわち、大学の閉学に伴う蔵書処分について言及した文献はほぼ見つけることができない。そこで、以下では、前述の二つの報告書も参考にしつつ、大学の閉学に伴う蔵書処分に焦点を当てて考えてみたい。
大規模な蔵書処分をするにあたって留意すべき事項としてもっとも重要なことは、ラストコピーを他の図書館に寄贈するということではないかと筆者は考える。ラストコピーを廃棄することによって、日本国内のどの図書館にも所蔵されていない(少なくともOPACなどの検索手段を用いてそれが探せない)図書が生じてしまうことは避けなければならない。しかしながら、大学図書館自体が閉鎖に向かい、多くの事務作業と向き合わねばならない中で、CiNii Booksや国立国会図書館サーチを検索し、他の大学等や国立国会図書館における図書の所蔵の有無を手作業で検索していくことは現実的ではない。そのため、例えばCiNii APIを用いて機械的に他大学の所蔵状況を調査するといった手法も考えられる(8)。また、図書のみならず逐次刊行物である雑誌等についても、ラストコピーとなった巻号が存在する場合は、当該逐次刊行物をまとまった形で所蔵している図書館に対して欠号補充を提案することが望ましい。
電子化されオープンアクセス(OA)で公開されている蔵書についてもラストコピーの寄贈を同様に行うべきかは難しい問題であるが、結論として、筆者としては、同様に行うべきと提案する。まず、OAとなったデータを公開している機関が民間企業等の場合、廃業または担当部門の業務縮小に伴ってそうしたデータが突如として非公開となる可能性がある。また、古い蔵書の場合、冊子体のものをスキャンすることによって電子化していることもあるが、そうした場合、冊子体資料における写真などの画像が不鮮明な状態となっている可能性もある。こうしたことを考慮すると、電子化されOAで公開されている蔵書であっても、冊子体のラストコピーをどこかの図書館に残すべきであると言えよう。
5. おわりに
最後に、ラストコピーの寄贈先となる図書館について述べる。前述の通り、逐次刊行物の欠号補充に関して言えば、館種を問わず、まとまった形で所蔵している図書館に寄贈受入を打診することが望ましいだろう。しかし、図書に関して言えば、専門のコレクションが充実している図書館に対して寄贈受入を打診するといった方法も考えられるが、資料保存にあたっての適切な対応や資料保存の永続性への期待といった観点から、国立国会図書館に対して寄贈受入を打診することも選択肢の一つと考える。
謝辞
本稿を書くにあたってご助言をくださった逸村裕氏、伊藤民雄氏に感謝いたします。
(1)令和7(2025)年度私立大学・短期大学等入学志願動向. 日本私立学校振興・共済事業団, 2025, p. 2.
https://www.shigaku.go.jp/files/shigan_doukouR7.pdf, (参照 2025-12-19).
(2)文部科学省. 【資料2】進学率・進学者数推計結果(12月13日更新). 2024, p. 2.
https://www.mext.go.jp/content/20241112-mxt_koutou02-000038707_3.pdf, (参照 2025-12-19).
令和6年11月12日に開催された「高等教育の在り方に関する特別部会(第12回)」の配付資料である。
(3)“大学寄贈の専門書どうする… 25万冊眠ったまま”. 神戸新聞NEXT, 2020-01-22.
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202001/0013053394.shtml, (参照 2025-12-19).
(4)高知県立大学等永国寺図書館蔵書除却検証委員会. 高知県立大学等永国寺図書館蔵書除却検証委員会報告書. 2018, 57p.
https://www.u-kochi.ac.jp/uploaded/attachment/4000.pdf, (参照 2025-12-19).
(5)小野めぐみほか. 複本除籍大作戦―明治薬科大学図書館における資料廃棄の取り組み―. 大学図書館研究. 2021, 118, p. 2118-1-2118-9.
https://doi.org/10.20722/jcul.2118, (参照 2025-12-19).
(6)ここでの「処分」とは、必ずしも廃棄のみを意味するわけではなく、売却、寄贈、無償配布など、様々な方法で、大学図書館の蔵書を、大学図書館の外に出す行為全般を意味している。
(7)ラストコピーとは、その資料を除籍すると、その図書館や、自治体・地域・国などの図書館界全体において、その資料を所蔵する図書館がなくなってしまうという資料を表す概念である。本稿では、その資料を除籍すると、日本国内の全館種の図書館において所蔵がなくなる可能性が高い資料を意味する。ラストコピーについて書かれた文献の一例として以下が存在する。
Connaway, Lynn S. et al. Last copies: What’s at risk?. College and Research Libraries. 2006, 67 (4), p. 370-379.
https://crl.acrl.org/index.php/crl/article/view/15812, (accessed 2025-12-19).
(8)2014年時点の手法であるが、こうした実践の事例報告として以下の文献が存在する。
廣瀬洋. CiNii APIを用いた蔵書比較の実施. 第11回情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集. 2014, p. 55-59.
https://doi.org/10.11514/infopro.2014.0_55, (参照 2025-12-19).
[受理:2026-02-06]
今野創祐. 閉学に伴う大学・短期大学図書館での大規模な蔵書処分にあたって留意すべき事項. カレントアウェアネス. 2026, (367), CA2098, p. 9-11.
https://current.ndl.go.jp/ca2098
DOI:
https://doi.org/10.11501/14672546
Imano Sosuke
Things to Bear in Mind about Large-Scale Disposal of Library Holdings following the Closure of Universities and Junior Colleges
