CA2066 – 市町村と県による協働電子図書館「デジとしょ信州」のこれまでとこれから / 森いづみ, 鈴木康之, 奈良澤一恵, 棟田聖子, 平中和司, 文平玲子

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カレントアウェアネス
No.361 2024年9月20日

 

CA2066

 

市町村と県による協働電子図書館「デジとしょ信州」のこれまでとこれから

県立長野図書館:森いづみ(もりいづみ)
坂城町立図書館:鈴木康之(すずきやすゆき)
安曇野市立中央図書館:奈良澤一恵(ならさわかずえ)
松川村図書館:棟田聖子(むねだせいこ)
大桑村図書館:平中和司(ひらなかかずし)
市立須坂図書館:文平玲子(ふみひられいこ)

 

 2022(令和4)年8月、長野県で「市町村と県による協働電子図書館(愛称:デジとしょ信州)」が始まった。コンテンツ費は市町村が分担(1)し、プラットフォーム費を県が維持する役割を担う事業スキームで、「長野県民は だれでも いつでも どこからでも」電子書籍の貸出サービスを使える環境が整った(図1)。本稿では、協働構築に至った経緯、開始までの調整方法、運営上の工夫、開始後の利用状況等を報告する。

図 1 デジとしょ信州 概念図

 

1. 構築の経緯、開始までの調整方法、運営体制

 直接のきっかけは、コロナ禍だった。2020年4月~5月の緊急事態宣言下で、全国では約92%、長野県では約73%の図書館が休館を余儀なくされた(2)。また、それ以前にも、2019年の東日本台風による水害で、いくつかの図書館が休館せざるを得ない状況となった。これらの経験が、県内の関係者が心を一つにして取り組む大きな原動力となった。2020年10月、県立長野図書館から、公共図書館の館長会議で全県的な電子図書館の構築を提案した。坂城町の鈴木館長は、当時のことを次のように振り返っている。

 “電子図書館サービスを考えなければいけないというのは、周辺の図書館と話していました。そんなとき、渡りに船という感じで、県立図書館から県内全体という提案がありました。全面的に協力して実現しなければと、小躍りしながらその場で「ぜひやりましょう」と声を上げました。さーっと光がさして、道が開けた感じでした。

 会議にも積極的に参加して、周りの図書館も説得したりしているうちに、運営委員会副委員長・総括会議の議長ということになっていました。77市町村にはいろいろな考え方があります。それをまとめて、全員参加で事業を始めるのは正直大変なことでした。”

 ニーズ把握のため、2021年1月に公共図書館を対象としたアンケートを実施した。この結果、課題は予算の確保(9割)、運用上の懸念(8割)が多く、市町村を越えた連携への希望が7割以上で、協働の機運が高まっていった(3)。当時は複数自治体による導入の事例が少なく、ビジネスモデルも確立していなかったため、並行して関連事業者へのヒアリングも進めた。

 2021年8月、長野県先端技術活用推進協議会の下に「市町村と県による協働電子図書館(仮称)協働構築研究WG」を設置した。県内では1/4の自治体で公共図書館が未設置である。公民館図書室で頑張っている自治体を含め、全ての地域と共に創り上げることを企図した。「県立図書館の事業に市町村が乗るのではなく、市町村が主体となって取組む」というコンセプトが打ち出され、協働事業の理念が徐々に確立していった。それを実現するシステム要件を明確にするため「仕様策定チーム」を設置し、2022年3月に公募型プロポーザルを実施、事業者を選定した(4)

 4月からは全自治体が参画する運営委員会(図2)に移行、4つの部会を設置し、急ピッチで「運営規程」、「利用要綱」、選書の「基本方針」や「基準」等(5)を定めた。「夏休み前に始めたい」という思いで関係者全員が力を結集し、WG発足から1年、運営委員会設置から4か月で、8月5日のサービス開始が実現したのである。サービス開始後は、4つの課題解決チームを設置し、重点的に取り組んでいる。

図2 デジとしょ信州 組織図

 

2. 各部会、チームの役割と運営上の工夫

 以下は、各部会長、チームリーダーによる役割・運営上の工夫、大切にしている思いである。

 

2.1 利用登録部会(奈良澤一恵/安曇野市教育部文化課 課長補佐)

 “利用登録部会では、電子図書館の基本的な運用のきまり「要綱」を作成しています。1回に貸出するコンテンツ数や、貸出期間、登録方法など他自治体の電子図書館を参考に検討しました。なかでも、登録方法と利用ID発行については、リアル図書館の利用にもつなげたいとの思いがあり、居住自治体の図書館、もしくは県立図書館の利用登録(カード発行)をすることにより「デジとしょ信州」のIDが発行できるよう、ID体系にリアル図書館のカード番号を付与する形にしました。ところが、学校での利用促進ではリアル図書館の登録がハードルになることがわかったため、新たな方法を考える必要が出てきました。現在は、「要綱」に特例を設け、学校図書館で使用しているIDを採用する方法や、独自のID体系を自治体が決めて付与する方法で一括登録が可能となりました。このように、運用していく中で課題を柔軟にとらえ、調整を図ることが部会の役割であると考えます。”

 

2.2 選書部会(棟田聖子/松川村図書館長)

 “選書から購入までの流れは、図3のとおりです。選書部会は、各自治体から提案された選書リストをNDCで大別し、その内容や必要性を精査し、購入決定するまでを担当しています。選書は全ての市町村の権利であり、選書数は負担金の多寡に依拠しない点を運営委員会の場で、常に皆さんにお伝えしてきました。県が主導する事業に乗るのではなく、私たち市町村が主体となって運営に取り組む電子図書館であると明確にすることが、この全国に類を見ない事業の成功につながると考えています。全自治体の参画によって2022年、2023年には(公財)長野県市町村振興協会宝くじ助成金が交付されました。部会としては大きな金額の選定作業となりましたが、リアル図書館で培った個々の司書の力量が遺憾なく発揮され、「協働電子図書館」の名にふさわしい蔵書構成がなされていると自負しています。”

①選書:77全ての市町村がシステムを通じて選書。 ②選定:市町村から立候補した選書部会員により分野ごとに購入するコンテンツを選定。③決定:選書部会会議で購入するコンテンツを決定、最終決定は選書部会長(互選)。④契約:県立長野図書館が庶務として調整と契約を担当。⑤報告:全体会議で報告、次の選書サイクルを周知。
図 3 デジとしょ信州 選書の流れ

 

2.3 利用者支援・広報部会(平中和司/大桑村図書館長)

 “山間の小さな自治体が多い長野県にとって、物理的な制限を受けない電子図書館は、まさに情報への自由なアクセスを保証するものです。そうした気持ちで電子図書館の広報に努めています。県内全自治体協働という今までにない仕組を理解してもらうため、システムの概念図を作ったり、一人でも多くの県民に利用登録していただけるようポスターを作ったり、運用開始後も独自のQ&Aや利用マニュアルを作り、提供しています。全ての自治体が参加して進めている事業だけに、個々の自治体の置かれている環境や考え方の違いもあり、調整しながら広報を進めるのはけっして楽なことではありません。しかし、より豊かな読書体験のための選択肢の一つとして、全県民の権利として、「デジとしょ信州」を活用してもらいたいと思っています。”

 

2.4 読書バリアフリーチーム(文平玲子/市立須坂図書館長)

 “「デジとしょ信州」には、「アクセシブルライブラリー」が含まれています。身体障害者手帳(視覚障害)をお持ちの長野県民は、ライブラリー内のコンテンツが読み(聴き)放題になります。県内どの自治体からでも利用者カードが提供できるよう、接遇マニュアルを整えました。そのなかで気づかされたのは、「デジとしょ信州」が、身体の障害だけでなく、年齢、交通、時間、不登校など、さまざまなバリアを乗り越える可能性を持っていることです。例えば聴覚障害者や難聴者。手話を話せる職員が少ないこともあり、双方にとって、まだまだバリアは立ちはだかっていますが、ひとたび登録すれば、煩わしい思いをせずに読書が楽しめます。「デジとしょ信州」は、バリアを越えた「みんなの図書館」です。施設や設備の追いつかない部分も補ってくれます。「デジとしょ信州」の活用で、長野県の読書バリアフリーが進むことを願っています。”

 

3. 利用状況と今後の展開に向けて

 「デジとしょ信州」では、利用IDに市町村コード、生年(西暦4桁)を埋め込み、市町村別、年代別の分析を行っている。2024年6月末時点のID登録数は2万3人、コンテンツ数は2万7,963点、貸出数は累計15万5,968回である。当初は30~60代が20時、21時台に多く借りる傾向が顕著だったが、学校連携が進み、10代による7時、8時台の利用が増えている(図4)。読み物系や調べ物系のさまざまな「同時アクセスモデル」のパッケージが提供されるようになったことは有難い。また、各自治体等が発行する学校の副読本や郷土資料を電子書籍化し、「オリジナルコンテンツ」として搭載することにも力を入れている。

図 4 デジとしょ信州 時間別・年代別の利用状況

 スタートから丸2年が経過する2024年7月末は、正念場となる。制限型コンテンツ数千点が期限切れとなるため、6月現在、利用動向を分析しつつ、限られた財源で最大限、魅力的なサービスが維持・発展できるよう、知恵を寄せ合っているところである。

 今後も、読書文化を支える一翼を担う立場として、県民や出版・流通、書店等を含む全ての方々との対話を大切にしていきたい。リアルな図書館や、紙の本の良さを組み合わせながら、デジタルだからこそ可能になる選択の幅を増やし、未来につないでいきたいと考えている。

 “まだ始まったばかりです。5年後10年後20年後、本当に使いやすい理想の電子図書館にするために、これからも全力を尽くします(鈴木康之/坂城町立図書館長)。”

 

(1)負担金の額は、均等割:10%、人口割:90%で算出する。

(2)“COVID-19の影響による図書館の動向調査(2020/05/06)について”. saveMLAK. 2020-05-21.
https://savemlak.jp/wiki/saveMLAK:%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9/20200507, (参照 2024-07-02).

(3)市町村と県による協働電子図書館運営委員会. 市町村と県による協働電子図書館 事業の概要(2). 2022, 4p.
https://www.knowledge.pref.nagano.lg.jp/documents/319/kyodo_gaiyo_20220705fix.pdf, (参照 2024-06-25).

(4)“長野県及び市町村による協働電子図書館構築業務公募型プロポーザルの実施について”. 県立長野図書館. 2022-03-30.
https://www.knowledge.pref.nagano.lg.jp/now/news/osirase_220225.html, (参照 2024-06-25).

(5)“市町村と県による協働電子図書館「デジとしょ信州」基本資料集”. 県立長野図書館. 2024-04-02.
https://www.knowledge.pref.nagano.lg.jp/collection/elibrary/basic_material.html, (参照 2024-06-25).

[受理:2024-07-30]

 


森いづみ, 鈴木康之, 奈良澤一恵, 棟田聖子, 平中和司, 文平玲子. 市町村と県による協働電子図書館「デジとしょ信州」のこれまでとこれから. カレントアウェアネス. 2024, (361), CA2066, p. 2-4.
https://current.ndl.go.jp/ca2066
DOI:
https://doi.org/10.11501/13744614


Mori Izumi, Suzuki Yasuyuki, Narasawa Kazue, Muneda Seiko, Hiranaka Kazushi, Fumihira Reiko
The Past and Future of Digi Tosho Shinshu: The Collaborative Digital Library by All Municipalities in Nagano Prefecture