カレントアウェアネス
No.358 2023年12月20日
CA2054
公共図書館におけるボードゲームの提供実態
前慶應義塾大学文学部:大村ひより(おおむらひより)
慶應義塾大学文学部:池谷のぞみ(いけやのぞみ)
1. はじめに
近年、公共図書館でのボードゲーム活用の動きが広がりつつある。始まりは、2010年度にほんごう子ども図書館(広島県)が開催した「おはなし会&ボードゲーム会」というイベントであると考えられている(1)。日本の公共図書館におけるボードゲームサービスは、 2015年の山中湖情報創造館(山梨県)による館内利用開始(2)後、拡大を続けた。本稿では、2022年7月時点でボードゲームを所有していた図書館全19館(うち館外貸出を行っていたのが14館、館内利用のみの図書館は5館)に対して行ったインタビュー調査の結果(3)を基に、現在の公共図書館におけるボードゲームの提供実態を検討する。
2. ボードゲームとは
ボードゲームとは、ゲームの中でも電源を伴わない「アナログゲーム」の一種であり、一般に「チェス・オセロ・モノポリーなど盤上で駒を動かして行うゲーム」(4)と辞書上で定義されている。主に「近現代」に生まれたゲームを指すが、将棋やかるた、バックギャモンのような愛好家が世界的に多く歴史が長い「伝統ゲーム」も「ボードゲーム」に含まれている(5)。なお、近年では『人狼ゲーム』のようにカードのみを用いて遊ぶゲームも「ボードゲーム」に含める場合が多いが、『遊戯王』や『マジック・ザ・ギャザリング』のような「トレーディングカードゲーム」は「ボードゲーム」には含まれないとするのが一般的である(6)。
このように、辞書に定義されている「ボードゲーム」と実際に「ボードゲーム」として扱われているゲームの範囲は異なっており、現在明確な共通認識は無いといえる。以上を踏まえ、本稿では図書館が「ボードゲーム」として収集・提供しているものを扱う。
3. 調査概要
筆者は公共図書館でのボードゲームの活用方法の実態を明らかにするため、2022年7月時点でボードゲームを所有していることが確認された全国の公共図書館19館を対象に調査を行った。調査方法は、対面、又はオンラインでのインタビュー調査である。しかし、どうしても都合がつかずインタビュー調査が難しい場合には書面での調査にて代替し、データを収集した。
以下では、表1で示す質問に対する回答に焦点を当てた分析を提示する。
1 | ボードゲーム導入の理由 |
2 | 導入前に想定していた懸念と導入後 |
3 | ボードゲームは「図書館資料」になりうるか。また、その理由 |
4 | ボードゲームの収集方法 |
5 | 収集したボードゲームの目録の有無 |
6 | ボードゲームの保管場所・保管方法 |
7 | (館外貸出有)館外貸出を始めた理由 |
8 | (館内利用のみ)館外貸出を行わない理由 |
9 | 現在の課題点 |
4. 調査結果
4.1 ボードゲーム導入の理由
ボードゲーム導入の理由として、「地域コミュニティの活性化」「アウトリーチ活動」「他の図書館がやっていたから」がそれぞれ6館、「施設の事業の一環」を挙げていた館が3館あった。「コロナ禍の影響」を挙げた2館は、「図書館利用制限が続き、図書館から利用者へ提供できるものがないか考えていた」「感染症予防のステイホーム対策として有効なものだと判断した」と回答している。
4.2導入前に想定していた懸念と導入後
導入前の懸念として、「部品の紛失・破損・汚損」を挙げていた図書館は13館あり、「他の職員の教育・理解」を挙げた図書館は4館、「返却時の手続きの順守」、「イベント時に職員によるインストラクションが上手くいくか」を挙げた図書館はそれぞれ2館、「利用頻度」「予約トラブル」「騒音」「弁償対応」を挙げた図書館はそれぞれ1館ずつあり、「その他」に分類された回答は4館あった。
「返却時の手続きの順守」とは、利用者が館内利用後きちんと元の場所に戻してくれるか、又は館外貸出にブックポストではなくカウンターに返却してくれるかを懸念しているものである。「予約トラブル」については、ルールとして、館外貸出は自治体内の住民のみ可能としているが、システム上は自治体外の住民も館外貸出の予約をすることができるようになっているため、そのチェックが必要になるのではないかと懸念しているものである。また、「その他」に分類された回答は、「購入する資料の幅」、「資料の耐久性」、「遊ぶスペース」、「権利関係」の4件である。「購入する資料の幅」は、資料を揃える際に対象年齢をどの範囲で設定するかを懸念している。「遊ぶスペース」は館内利用時に遊ぶ場所として指定しているロビーが満席だった場合には利用を断るのかを懸念していたものである。
なお、導入後については、「紛失・破損・汚損」について「発生していない」もしくは「発生しているが問題はない」と回答した図書館は11館であり、残る2館はそれぞれ「人気のゲームは劣化が激しく、紛失で貸出を中止しているゲームがある」「想定より使い方が荒く、紛失・破損が多い」と回答している。「職員の教育・理解」を課題に挙げた4館のうち、3館は職員の理解度が上がってきていると回答しているが、1館は「図書館の通常業務との兼ね合いになるため、職員の教育のための時間の確保が課題である」と回答している。
4.3 ボードゲームは「図書館資料」になりうるか
ボードゲームは、「図書館資料」に「なりうる」と回答した図書館は15館、「現状は難しい」と回答した図書館は2館、「なるものとならないものがある」と回答した図書館は1館、「ならない」と回答した図書館は1館あった(図1)。
※n=19。以下、特段の注記がない限り、すべての図の単位は館。
その理由として、「なりうる」と回答した図書館のうち、「図書館の自由に関する宣言」の「第1 図書館は資料収集の自由を有する」や、図書館法第2条(7)のような法令を根拠に挙げた図書館は4館あった。読書や図書に繋がることを根拠に挙げた図書館は3館、海外を含め他の図書館での貸出実績があることを根拠に挙げた図書館は2館、「図書館資料」の定義の広さを根拠に挙げた図書館は2館あった。その他、「ボードゲームという形をとった物語を体験すると捉えると、一種の読書体験と言える」、「ゲームアーティスト=著者と考えると本と類似性がある」などがあった。
また、「現状は難しい」と回答した2館はそれぞれ「図書に比べると貸出実績が少ないので資料とは言いづらいが、図書館法2条の定義の中で資料として扱うことには賛成」、「ボードゲームは文化的なもので社会教育やレクリエーションに資するものとして収集する意義はあると思うが、図書館の条例や規則における図書館資料の定義に含めるのは考え難い」と回答している。ゲームの中で資料に「なるものとならないものがある」と回答した図書館は、「一般に流通しているボードゲーム・カードゲームはあくまで図書館に興味を持ってもらうきっかけだが、郷土のもの・ことを題材にしたかるた等は郷土資料として図書館資料に数えられる」と理由を挙げている。「ならない」と回答した図書館は、「あくまでボードゲームは人と人を繋ぐためのもの」としている。
4.4 収集方法
収集方法については、資料費での購入と寄贈の受け付けの両方を行っている図書館が13館、購入のみで寄贈は受け付けていない図書館が4館、指定管理団体の予算で購入した資料を館内に持ち込んで提供している図書館が2館あることがわかった(図2)。
4.5 目録の作成状況
ボードゲームの目録を作成している図書館は10館、作成しているゲームと作成していないものがある図書館は1館(すべてについて目録作成予定)、目録を作成していない図書館は8館あることが分かった(図3)。また、作成していないと回答した8館のうち、リスト等を作成している図書館は6館であった。
また、目録を作成している図書館10館のうち、OPACに登録している図書館は8館あった。OPACに登録していない理由としては、「貸出申込フォームと共に所蔵ボードゲームの一覧を公開している」、「貸出件数は多くないことと予約可能にしていない」という点が挙げられた。
4.6 ボードゲームの保管場所
ボードゲームの保管場所として、「カウンター内・裏」に保管しているのは7館、「事務所」に保管しているのは6館、「児童室」、「開架」に保管しているのは3館、「カウンター前・横」、「書庫」に保管しているのは2館、「その他」は2館という結果になった。「その他」には「バックヤード」、「閉架書庫の一角」の2件の回答が分類された。また、19館のうち3館は、貸出可能なボードゲームと貸出不可のもので保管場所を分けていることが分かった。
具体的な方法については館によって様々であった。外箱が開かないようにゴムを付けたり、袋に入れて保管している館があった一方で、特に何もせず、平積みにしているという館も見受けられた。また、外箱にバーコードや、パーツの種類・個数等の内容物を記載したカードを入れている館もあった。
4.7 館外貸出を始めた理由
館外貸出を始めた理由として、「イベントでの使用を目的として導入したが、コロナの影響でイベントが開催できなかったためもったいないと感じた」ことを理由に挙げた図書館は5館、「コロナによって増えたおうち時間の充実」を挙げた図書館は3館、「当初から館外貸出を想定していた」、「普段図書館を利用しない層への魅力の発信」を挙げた図書館はそれぞれ2館、「その他」には「家に持って帰って家族と楽しんでもらうため」、「より多くの人に利用してもらうため」、「新しいこと、楽しいことをやりたかったため」という3件の回答があった(図4)。
4.8 館外貸出を行わない理由
また、館内利用のみを行っている5館のうち、「館外貸出を行わない理由」として、部品の紛失やゲームの破損への対応、それによる弁償対応が困難であることを理由に挙げた図書館は3館、ボードゲームを導入した目的とずれることを理由に挙げた図書館は2館、利用者からのリクエストがないこと、人気のゲームは手元に残しておきたいことを理由に挙げた図書館はそれぞれ1館あった(図5)。
4.9 ボードゲーム提供の課題
ボードゲームサービスを提供する図書館が現在抱えている課題として、「資料の劣化」を挙げた図書館は6館と最も多かった。「返却時のパーツ確認の手間」「紛失・破損」を挙げた図書館は共に5館、「予算の確保」は4館、「イベントを積極的に開催できていない、又は開催していない」「コロナの影響(除菌・消毒の手間、サービス縮小)」「職員の教育」がそれぞれ3館、「イベントの集客」が2館あった。「その他」には11件の回答が分類された。具体的には、「資料を置くスペース」「取引先の制限により購入できる資料が限られる」「サービスの周知」「選定の難しさ」「目的通りに運用できているかの検証が困難」等である。
5. 結果のまとめと考察
ボードゲームを導入した理由として「地域コミュニティの活性化」を挙げた公共図書館が多くあったように、ボードゲームはコミュニケーションツールとして注目されていると言える。ルールが多言語で書かれていることもあり、外国人の多い地域でも、ルールさえ共有できれば年齢・言語の壁を超えて楽しめること、また被災地での交流で活用できることが注目されていた。加えて館外貸出のようなサービスの拡大に関しては、コロナ禍による図書館の利用制限やイベントの中止等の影響が少なからずあるだろう。
収集方法や目録の有無、保管場所・保管方法のようなボードゲームの取り扱い方については図書館によって多様な手法がとられていることが分かった。
また、ボードゲームは図書館資料になりうるかという質問に対して、大半の図書館はなりうると回答した一方で、現状では難しい、なるものとならないものがある、又はならないと回答した図書館もあった。その主な理由として、図書や視聴覚資料と比べて貸出の実績が少ないこと、そして装備や受入、廃棄等の規定が定まっていないことが挙げられていた。
サービスの課題点としては、提供方法について様々な回答が得られたように、取り扱いに関する規範が定まっていないことが挙げられる。この点に関しては、ボードゲームのサービスが開始されてから数年しか経っていないこともあり、どの図書館も手探りの状態であることがうかがえるが、今後サービスを続けていくことで定まっていくことが予想される。それにより、年齢や言語の壁を超えて人々の文化資源へのアクセスの一手段としてゲームを資料として扱う館が増えていく可能性もある。
今回の調査はボードゲームを所蔵する全国の図書館に対して、その提供の仕方について横断的に調査を行うものであった。ボードゲームの提供の仕方はサービスを継続する中で、又はコロナ等の外的要因に合わせて変化していくことが予想される。継続的に調査を行い、各図書館での取り組みを明らかにしていくことが、公共図書館でのボードゲームサービスの発展の一助になると考えられる。
(1)井上奈智, 高倉暁大, 日向良和. 図書館とゲーム:イベントから収集へ. 日本図書館協会, 2018, 170p., (JLA図書館実践シリーズ, 39).
(2)“山中湖の図書館でボードゲームの貸し出し 「ボードゲームの日」定期開催も”. 富士山経済新聞. 2015-07-17.
https://mtfuji.keizai.biz/headline/317/, (参照 2023-10-11).
(3)梅主ひより. 公共図書館におけるボードゲームサービスの意義と課題. 慶應義塾大学. 2023, 学士論文.
(4)“ボード‐ゲーム【board game】”. JapanKnowledge Lib.
(5)日向良和. 図書館情報資源としての「ゲーム」. 情報の科学と技術. 2021, 71(8), p. 344-349.
(6)井上ほか. 前掲. p. 3.
(7)「この法律において「図書館」とは、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設で、地方公共団体、日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)をいう。」と定義されている。
[受理:2023-11-06]
大村ひより, 池谷のぞみ. 公共図書館におけるボードゲームの提供実態. カレントアウェアネス. 2023, (358), CA2054, p. 8-10.
https://current.ndl.go.jp/ca2054
DOI:
https://doi.org/10.11501/13123925
Oomura Hiyori, Ikeya Nozomi
How Board Games Are Made Accessible to Users in Public Libraries