CA2048 – 動向レビュー:査読は無償であるべきか? / 佐藤 翔

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カレントアウェアネス
No.357 2023年9月20日

 

CA2048
動向レビュー

 

査読は無償であるべきか?

同志社大学免許資格課程センター:佐藤 翔(さとうしょう)

 

1. はじめに

 学術雑誌に論文が投稿されると、編集者はその内容を審査するにふさわしい外部の研究者(多くの場合2人)に原稿を送り、掲載可否の判断や、改善点・疑問点をまとめたレポートの作成を依頼する。編集者はこのレポートを参考に論文の採否を決定する。これが「査読」であり、協力する外部の研究者(査読者)は一般に特に報酬等は支払われない。一方で、査読を無償とする慣習への疑問の声も上がってきている。

 本稿では、これまで挙げられてきた論点や研究等も参照しつつ、査読は無償であるべきか否か検討をしたい。

 

2. 学術雑誌は査読者に450ドルの報酬を支払うべきか

 2021年2月、学術情報流通全般を扱う国際会議Researcher to Reader Conference(オンライン開催)の一企画として、学術雑誌出版者は査読者に対し、報酬を支払うべきかを問う2対2のディベートが開催された。査読は無償であるべきかについて現在指摘されている論点の整理に最適であるため、同席上で交わされた議論について詳しく紹介したい。

 報酬支払いに「賛成」陣営は、技術系スタートアップ企業の最高科学責任者を務め、2020年9月には自身への査読依頼に対し、450ドルの報酬を求めるという提案をブログに公開し(1)、注目を集めたヘザース(James Heathers)氏と、大手出版者Taylor & Francis社のフェンウィック(Brad Fenwick)氏である。彼らの主張は報酬の支払いによって査読遅延や査読の質の問題が改善しうるというものである。「反対」陣営はオープンアクセス(OA)非営利出版者PLOSのCEOを務めるマディット(Alison Mudditt)氏と、出版コンサルタントでありデータ共有ツールDataSeerの創設者であるバインズ(Tim Vines)氏であり、彼らは報酬の支払いが一般化すれば、購読料の高騰や研究倫理に反する行為の助長等の悲惨な結果が待ち受けると主張する。

 ディベートの様子はYouTubeで公開されており(2)、Science誌でも詳報されている(3)。主な論点と双方の主張は以下の通りである。

 

2.1 報酬を金銭で支払うべきか

賛成派:雑誌の編集委員は報酬を得ていることもあり、かつ大学も副業を禁止していないことを考慮すると、査読者に報酬を支払ってもおかしくはない。また、現状は査読が際限なく研究者に依頼されてしまっているが、報酬を設定することでこれを抑制できる。

反対派:金銭等の報酬が査読を引き受けるインセンティブになると考える研究者は少ない。また、優秀な査読者は後に編集委員に抜擢され、コミュニティ内で高い評価を得るという形で報酬を得ている。

 

2.2 雑誌に報酬を支払う余裕があるか

反対派:査読の長さや質は千差万別で、ごく一握りの専門家しか査読できないような論文もある中で、適切な料金設定のしようがない。仮に450ドルを採用する場合、一般的には論文1本につき平均2.2件の査読が必要なため、1論文当たり990ドル。もし論文処理費用(APC)から賄うとすると、却下された論文からはAPCを徴収できないので、採択された論文に却下された論文のコストを上乗せすることになり、採択率25%の雑誌の場合、掲載論文1本当たりのコストは3,960ドルになる。総額は非常に大きくなる。

賛成派:(反対派の主張を受けて)料金設定についてはテストが必要である。一部の査読者は無償でも引き受けるかもしれない。

 

2.3 査読者と雑誌間の契約について

賛成派:きちんと契約を交わすことによって、査読の締め切り、内容等に関して確実性を増すことができる。

反対派:新たに発生する大量の契約を管理するだけの時間や人材等のリソースはなく、非現実的である。

 

2.4 報酬が研究倫理に反する行為を助長するか

賛成派:編集委員が査読レポートの中身をきちんと読んでいれば、不正行為は防ぐことができる。

反対派:APCモデルのOA雑誌の場合、査読者が論文却下を選択すると著者からのAPCが見込めない一方で、査読者には報酬の支払いが必要になる。そうなれば出版者は論文を受理しそうな査読者を探すだろう。報酬目当てに専門外の論文でも査読を引き受けたり、また査読を依頼してもらおうと編集者が気に入りそうなコメントをする査読者も出てくるかもしれない。

 ディベート開催前の参加者アンケートでは、報酬の支払いに賛成が41%、反対が59%であった。しかしディベート後の投票では賛成がわずか16%、反対が84%であった。本ディベートに限って言えば、反対意見の方が説得力があると見られたようである。次章からはここで取り上げられた以外の論点や研究等も参照しつつ、さらに検討を深めていきたい。

 

3. なぜ査読は無償なのか:歴史的経緯

 そもそもなぜ査読は無償で行われてきたのか。近年、Nature誌を題材としたボールドウィン(Melinda Baldwin)氏(4)、英国王立協会のPhilosophical Transactions of the Royal Society誌(以下『フィロソフィカル・トランザクションズ』)を題材としたファイフ(Aileen Fyfe)氏ら(5)等により、学術雑誌と査読制度の歴史に焦点を当てた詳細な研究書が複数刊行されている。しかし、なぜ査読者に対して報酬が支払われないことが一般化したのかに焦点を当てた記述は、管見の限り見当たらない。

 ただ、直接の記述ではないものの、『フィロソフィカル・トランザクションズ』の歴史研究は査読者に報酬が支払われない理由を考える参考になる。それによると、同誌が19世紀に始めた、編集委員以外の研究者に投稿論文の内容審査を依頼する制度が、学術雑誌の査読制度の始まりであるという。当時の査読は、完全な外部者ではなく、王立協会のフェロー(会員)に依頼していた。図1に当時の『フィロソフィカル・トランザクションズ』の編集プロセスを示す。図中の関係者の中で報酬が支払われていたのは王立協会の事務総長と事務局のみであり、編集委員や査読者は無償であったとされている。実際、後に査読の増加による経費負担が問題視されたとき、俎上に載ったのは郵送費等のみで査読者の人件費は話題にもならなかったという(6)。そもそも王立協会はいわゆる自然科学研究の同好の士の集まり、有志団体であり、その会誌に載せるものの決定に会員が参加していると考えれば、無償であることは至極妥当でもある。

 

図1 査読導入時期の『フィロソフィカル・トランザクションズ』編集フロー図
出典:Fyfe. 前掲. Figure. 9を筆者翻訳。図中「トランザクションズ」は『フィロソフィカル・トランザクションズ』、「プロシーディングス」は当時、新規に創刊された雑誌Proceedings of the Royal Societyを指す。

 

 その後、20世紀にかけて査読は他の雑誌にも普及していくものの、その多くは学会誌であった。一方、Nature誌等の商業出版者が独自に立ち上げた雑誌でも、編集者が必要と思えば外部に内容のチェックを依頼することはあったが、これも個人的なコネクション等を使ったもので、体系的に行われていたわけではなかった。商業誌にまで査読制度が普及した経緯は拙稿(CA2001参照)でも紹介したが、制度として重視され始めるのは1970年代に入ってからであり、Nature誌が全投稿論文の体系的な外部査読を開始したのも1973年に至ってからである(7)。その時点で、査読が一般に無償で行われていたならば、商業誌で導入する場合にも報酬を支払わないことに依頼側・査読者側ともに大きな違和感はなかったであろう。

 つまるところ、元来の学術雑誌は学会等の有志団体によるコミュニケーション媒体であり、『フィロソフィカル・トランザクションズ』の事務局のようにサービスとして業務に従事する者を除けば、著者はもちろん編集委員も無報酬で、査読者もその一員であった。自分たちのための雑誌を自分たちで運営しているのであって、査読者も含め、研究者はやりたくて自発的にやっているはず、ということになる。出版者は図1における事務局の位置づけであり、有志のみでは行き届かないフローを回すために、事務作業を託された側とも捉えることができる。査読者が出版者のために仕事をやっているのではなく、査読者を含む研究者の側こそが、出版者に頼んで査読フローを回す仕事をやってもらっているのである。

 とはいえ、商業誌において査読制度が一般化してから既に約半世紀が過ぎている。商業出版による寡占化もその間に大きく進み、学術雑誌出版は莫大な利益・利益率を誇る産業と化した。業界全体で190億ドル以上の利益を上げ、40%近い利益率の大規模出版社もある中で、論文の品質管理を担っている査読者が無報酬であることの不誠実さを指摘する声は、ヘザース氏以外からも上がっている(8)。さらには査読をめぐって様々な問題(CA1829参照)も生じており、その解決に査読者への報酬支払いが役立つ可能性があるというのであれば、莫大な利益の一部を報酬に使うべき、という議論が出てくることも当然である。

 学術雑誌出版の歴史的背景からすれば査読は無償であるべきだが、とっくにその実態は変化している。査読者への報酬だけ当初のままであるべきなのだろうか?

 

4. 査読を有償にするとどうなるか:事例と研究

4.1 査読に報酬を支払う事例

 ここまで査読は無償である経緯を述べてきたが、実際には査読者になんらかの報酬を支払う事例もないわけではない。

 米国経済学会は査読レポートが迅速に提出された場合は100ドルを査読者に支払うとしており、かつて存在した査読実施サービスRubriqも、同じく100ドルを査読者に支払うとしていた(9)。The Arabian Journal for Science and Engineering誌も同じく迅速な査読に対し100ドルを支払うとしており、さらにJournal of Medical Internet Research誌、OA雑誌Collabra: Psychology誌も査読者への金銭的報酬を支払うとしている(10)。OA雑誌出版者European Open Scienceも良質と認められた査読レポートを提出した査読者に、ごく少額だが報酬を支払うとしている(11)

 

4.2 査読を有償化することの効果

 では、報酬を支払うことにはどういった効果があるのか、報酬の支払いによってなんらかの悪影響が発生する懸念はないのか。この点については研究者の意識調査や実証研究、理論モデルや実験的なアプローチからの検討が行われている。

 

4.2.1 研究者に対する意識調査

 そもそも研究者は何をモチベーションとして査読を引き受けているのか。ルーマニアの2つの学術雑誌(1誌は自然科学分野、1誌は社会科学分野)から推薦された査読経験者42人を対象としたインタビュー調査(12)では、いくつかの動機が指摘されている。

  • 掲載される論文の質の維持・出版物のスクリーニング、原稿の改善、コミュニティとの互恵、研究コミュニティの形成等の、個人的に利益があるわけではないが、やりがいとして感じたり、自身の役割と考えたりすることからくる「内発的動機」、
  • 専門家としての達成(認知度・評判の向上)、雑誌からの見返り(謝辞等の掲載、自分が投稿した時の優遇、所属機関からの評価向上)、金銭的報酬(謝礼や雑誌アクセス権等)等の、個人的利益につながる「外発的動機」、
  • そして双方にまたがる「編集者との個人的関係」である。

 既に評価を確立した研究者は主に内発的動機で査読を引き受けており、研究コミュニティへの貢献が自身の役割であると認識していることが確認できた。一方で、若手の研究者は外発的動機の影響も大きく、特に自身がコミュニティ内で認められキャリアにつながることや、自身の雑誌投稿時に有利になること、業績評価につながること等を求めているようである。中には金銭的報酬に関心を抱く者もいたというが、それもインタビュイーが自発的に挙げたわけではなく、インタビュアーが質問したことで発言を得られたとされている。まだ不安定な立場にあり、査読が自分にもたらすメリットを意識している若手研究者においてすら、直接的に金銭を得ようという意識は希薄であるという結果が示された。

 この点は、より大規模な質問紙調査からも示されている。査読登録プラットフォームPublonsの査読者調査では、今より多くの査読を引き受ける誘因になりうるものとして、「査読を依頼された論文がより自身の専門・興味に沿ったものであること」(46%)、「大学・助成機関が査読への貢献をより明確に評価すること」(45%)、「あらゆる雑誌における査読履歴等がオンラインで記録として公開できること」(30%)等が上位に来る一方で、「金銭的・個人的報酬があること」は17%にとどまった(13)。また、Wiley社が実施した査読に関する質問紙調査でも、同様の問いに対して、「自身の査読の有用性・質に関しフィードバックがあること」(8%)、「査読をした論文の最終的な結果について知らされること」(8%)、「雑誌から査読への貢献についてなんらかの認定があること」(7%)等の選択肢が比較的よく選ばれた一方、「雑誌からの金銭的報酬」を選んだのは3%のみであった(14)。研究者が査読を行うのは内発的動機からか、外発的動機であっても研究者としてのキャリア達成につなげていくためであって、金銭的報酬はあまり求められていないと言える。

 

4.2.2 実証研究

 報酬を支払うメリットとして、査読遅延の解消が言及されることがあるが、実際の効果はどうなのか。いくつか関連する実証実験を見ていきたい。ハマーメッシュ(D.S. Hamermesh)氏は、経済学分野の7つの雑誌を対象に査読依頼・完了のデータを分析した。そのうちの1誌が返却期限までに回答した査読者に報酬を支払っていることから、査読完了までにかかる期間を他の6誌と比較することで、報酬による査読期間の短縮効果を確認している。その結果、確かに査読に報酬を支払うと査読に要する期間は短くなったものの、それは「あまり支払う意味のない」効果であった。具体的には、いずれの雑誌も8週間を査読期限としているが、実際の返却期間は締め切り前後をピークとする分布をなし、期限を過ぎる査読者も多かった。しかし報酬を支払う雑誌では返却期間の分布が歪となり、締め切り直前のタイミングにピークが現れ、その後、10週間頃までは返却数が激減する。しかし以降に返却した査読者の数は他誌とあまり変わらなかった(15)。つまり、ぎりぎりで査読期限を過ぎてしまいそうな査読者が頑張って期限内に間に合わせただけで、既に締め切りを過ぎている査読者の提出を早める効果は確認できなかった。

 一方、査読者への報酬支払いを導入したある経済学分野の1誌の未導入の時期(1年3カ月間)と導入時期(2年間)の比較をした別の調査においては、異なる結論となっている。同調査では査読に報酬を支払う場合、最初の査読結果が返って来るまでの期間が有意に短縮される効果が見られ、特に最初の査読を終えるのに6カ月以上かかる論文が無償の場合には16%も存在した一方、有償の場合にはわずか1%であったという(16)

 また、Journal of Economic Perspectives誌で1,500人の査読者を対象に行われた実証実験でも、金銭的報酬の効果が立証されている。この実験では査読者を(1)査読期限を6週間とする(従来の査読)、(2)査読期限を4週間とする、(3)査読期限を4週間とし、期限を守ると100ドルの報酬を支払う、(4)査読にかかった期間を公開する、という4グループに分け、査読にかかった期間等を比較した。その結果、まず査読期限を短く設定するだけで、査読にかかる期間は短くなった。その上で、金銭的報酬のあるグループは、やはり締め切り1週間前の査読結果の返却が多く、より期限を守る傾向があった。一方、締め切りを過ぎた場合でも、より返却期限が長くなるということはなかった。また、査読にかかった期間の公開は、報酬の支払いや締め切りを短くするほどの効果はないものの有意であり、特に他の要因では査読期間が短くならない、テニュア(終身在職権)を既に手に入れた教授に対して効果があった。そしていずれの場合も、査読自体の参加率(引き受けるか否か)、査読の内容等にはほとんど影響を与えなかった(17)。この結果は、金銭的報酬の効果について言えばハマーメッシュ氏の研究とほぼ同様であるが、著者らは「方針を少し変えるだけで査読を大幅に迅速化できる」と、よりポジティブに捉えている。

 

4.2.3 モデルの検討

 査読に関わる者の意思決定をモデル化し、査読者への報酬支払いをモデル内に加えることがどういった影響を与えうるかを検討する試みも行われている。エンジャース(Maxim Engers)氏とギャンズ(Joshua S. Gans)氏は査読者が査読を引き受ける理由を雑誌の質の向上にあると仮定した上で、報酬の支払いとその金額設定が査読の参加率にどう影響しうるか、モデルを立てて検討している。当初の質が低くても、報酬を支払うことで参加率は高まり、参加率の高い雑誌は質も高まると想定される。しかし雑誌の質が高くなれば、自分が引き受けなくとも質は維持されるだろうと考えるフリーライダーが増加し、参加率は維持できなくなる。参加率を維持するには報酬額を引き上げる必要があり、結果、雑誌運営が立ちゆかなくなるまでコストが増大していくことになる。そのため、学術雑誌は結局、査読者に最初から報酬を支払わないか、少なくとも査読者の専門性に対し不十分な金額(100ドル程度)しか支払わないところに落ち着く、と論じている(18)

 エンジャース氏らの結論に対し、チャン(J. Chang)氏とライ(C. Lai)氏の研究では報酬と参加率の均衡点は無報酬の一点のみではなく、複数になりうるとしている。具体的にはエンジャース氏らの述べる通り、高い評価を得ている雑誌は元々査読参加率が高く、査読への報酬支払いに価値を見出さないであろう一方で、評価が低く参加率の低い雑誌であれば、報酬支払いが妥当な戦略たり得ることを論証している(19)

 査読者に報酬を支払うことを前提とした研究として、ガルシア(J.A. Garcia)氏らは報酬支払いのあり方と効果の理論的検討をしている。現在の査読が投稿論文の質と雑誌の基準の合致状況をチェックするものであるとすると、査読者の役割は合致していることの保証であるが、それでは査読に時間と労力をかけても査読者にインセンティブがないため、著者と査読者の利害が一致しない。そこで、査読によって修正された論文の品質に基づいて、査読者に報酬を支払う方式を採用すれば、査読者にもインセンティブが生じ、関係者の利害を一致させられるとしている(20)。興味深い研究ではあるが、そもそも報酬の支払いが一般的ではない状態で支払い方法を検討する、というのはやや議論先行に過ぎるきらいがある。しかし著者らは報酬の支払い方法や著者に査読料金を課す場合の方式の検討へと発展させている(21)(22)

 これらの研究に基づけば、研究者らの認識に反して、報酬の支払いには一定の効果があると言える。ただし、それが立証されているのは査読レポートの返却期間においてであり、査読参加率については理論上は報酬支払いによって変化する可能性が指摘されているものの、実証実験では大きな変化は見られなかったと言える。

 

5. 結論:査読は無償であるべきか?

 ここまで見てきたように、歴史的経緯から論じても、効果の点から論じても、「査読は無償であるべき」かどうか言い切れない、というのが正直なところである。

 一つ確かなのは、多くの研究者が、査読の労が金銭以外の形で報われることを望んでいることである。この点は学術情報流通の当初の姿(図1)が崩壊した後でも、著者としての立場で論文を書く研究者から、原稿料を望む意見がほとんど出てこない点とも関連している。莫大な利益率を上げている出版者にコンテンツを提供しているという点では、論文投稿も査読の実施と同様であるが、見返りに原稿料を求めるという意見はほとんどない。論文発表は、自身の発見を他の研究者に届け、先取権を確立し、自身の業績にもつながるためである。対して、審査する役割である査読は、研究成果の発表と同じく科学への「貢献」であるにも関わらず、業績等として評価されるわけではない、少なくとも評価されていると研究者らは感じていないことが、せめて金銭的にでも報われたい、という意見につながっているのではないか。そうであれば、Publonsのような査読の業績化やオープン査読によって、査読内容と査読者名が明かされ、それが業績と認められることがより普及していけば、金銭的報酬を望む意見はさらに少なくなる可能性もある。しかし、現実にはPublonsは単体としてのサービスを停止しており、査読の業績化という試みの先行きは不確実である。この点の道筋が不透明である限り、金銭的報酬導入の可能性も議論され続けるのではないだろうか。

 


(1)Heathers, James. “The 450 Movement”. Medium. 2020-09-04.
https://jamesheathers.medium.com/the-450-movement-1f86132a29bd, (accessed 2023-07-14).

(2)“R2R 2021 – 07 – Debate Part 1 ”. YouTube. 2021-05-13.
https://youtu.be/eVFZDaIUQFg, (accessed 2023-07-14).

(3)Brainard, Jeffrey. “The $450 question: Should journals pay peer reviewers?”. Science. 2021-05-01.
https://doi.org/10.1126/science.abh3175, (accessed 2023-07-14).

(4)Baldwin, Melinda. Making “Nature”: The History of a Scientific Journal. University of Chicago Press, 2015, 328p.

(5)Fyfe, Aileen et al. A History of Scientific Journals: Publishing at the Royal Society, 1665-2015. UCL Press, 2022, 664p.
https://doi.org/10.2307/j.ctv2gz3zp1, (accessed 2023-07-14).

(6)Ibid.

(7)Baldwin. op. cit.

(8)Garcia, Jose A. et al. The cross-subsidy and buy-one-give-one models of compensated peer review: A comparative study for mission-driven journals. Journal of Information Science. 2022.
https://doi.org/10.1177/01655515221125321, (accessed 2023-07-14).

(9)Davis, Phil. “Rewarding Reviewers: Money, Prestige, or Some of Both?”. The Scholarly Kitchen. 2013-02-22.
https://scholarlykitchen.sspnet.org/2013/02/22/rewarding-reviewers-money-prestige-or-some-of-both/, (accessed 2023-07-14).

(10)Garcia, Jose A. et al. Can a paid model for peer review be sustainable when the author can decide whether to pay or not?. Scientometrics. 2022, (127), p. 1491-1514.
https://doi.org/10.1007/s11192-021-04248-8, (accessed 2023-07-14).

(11)“Paid Peer-Reviewing Model”. European Open Science.
https://europapublishing.org/reviewers.html, (accessed 2023-07-14).

(12)Zaharie, Monica Aniela; Osoian, Codruţa Luminiţa. Peer review motivation frames: A qualitative approach. European Management Journal. 2016, 34(1), p. 69-79.
https://doi.org/10.1016/j.emj.2015.12.004, (accessed 2023-07-14).

(13)Publons. “Report for Publons State of Peer Review 2018 Survey”. 2018, 61p.
https://doi.org/10.14322/publons.GSPR2018, (accessed 2023-07-14).
なお執筆時点で、この調査に基づきまとめたレポート本体は公開されているが、各設問への回答数の詳細等を含むレポートはPublonsのウェブサイトの廃止に伴い公開されていないようである。

(14)Warne, Verity. Rewarding reviewers – sense or sensibility? A Wiley study explained. Learned Publishing. 2016, 29(1), p. 41-50.
https://doi.org/10.1002/leap.1002, (accessed 2023-07-14).

(15)Hamermesh, Daniel. S. Facts and myths about refereeing. Journal of Economic Perspectives. 1994, 8(1), p. 153-163.
https://doi.org/10.1257/jep.8.1.153, (accessed 2023-07-14).

(16)Thompson, Gary D. et al. Does Paying Referees Expedite Reviews?: Results of a Natural Experiment. Southern Economic Journal. 2010, 76(3), p. 678-692.
https://doi.org/10.4284/sej.2010.76.3.678, (accessed 2023-07-14).

(17)Chetty, Raj et al. What Policies Increase Prosocial Behavior? An Experiment with Referees at the Journal of Public Economics. Journal of Economic Perspectives. 2014, 28(3), p. 169-188.
https://doi.org/10.1257/jep.28.3.169, (accessed 2023-07-14).

(18)Engers, Maxim; Gans, Joshua S. Why Referees Are Not Paid (Enough). The American Economic Review. 1998, 88(5), p. 1341-1349.

(19)Chang, Juin-jen; Lai, Ching-chong. Is It Worthwhile to Pay Referees? Southern Economic Journal, 2001, 68(2), p. 457-463.

(20)Garcia, J.A. et al. The author–reviewer game. Scientometrics. 2020, (124), p. 2409-2431.

(21)Garcia, Jose A. et al. Can a paid model for peer review be sustainable when the author can decide whether to pay or not?. Scientometrics. 2022, (127), p. 1491-1514.
https://doi.org/10.1007/s11192-021-04248-8, (accessed 2023-07-14).

(22)Garcia, Jose A. et al. The cross-subsidy and buy-one-give-one models of compensated peer review: A comparative study for mission-driven journals. Journal of Information Science. 2022.
https://doi.org/10.1177/01655515221125321, (accessed 2023-07-14).

 

[受理 : 2023-08-02]

 


佐藤 翔. 動向レビュー:査読は無償であるべきか?. カレントアウェアネス. 2023, (357), CA2048, p. 14-18.
https://current.ndl.go.jp/ca2048
DOI:
https://doi.org/10.11501/12996501


Sato Sho
Should Journals Pay Peer Reviewers or Not?


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