E1472 – 「はだしのゲン」閲覧制限に関する図書館関係団体等の動き

カレントアウェアネス-E

No.244 2013.09.12

 

 E1472

「はだしのゲン」閲覧制限に関する図書館関係団体等の動き

 

 漫画「はだしのゲン」について,松江市教育委員会が2012年12月に松江市内の市立小中学校に対して閉架措置及び貸出閲覧制限を求めていたことが,2013年8月に報じられた。この件は,その後新聞,テレビ等のマスメディアも大きく取り上げ,表現の自由,知る権利の保障,表現が子どもの教育に与える影響,歴史認識,図書館の在るべき姿や役割などをめぐって,各所で様々な議論を喚起するに至った。また作品自体を改めて読み直す動きも起こり,増刷が行われていることも報じられている。松江市教育委員会は,8月26日に臨時会議を開き,教育委員会事務局の手続きの不備を理由に閉架措置要請の撤回を決定した。それを受け中国新聞社が行ったアンケートでは,市内の9割の学校図書館で既に開架したか,あるいは近く開架すると回答したと報じられている。この一連の動きの中で,図書館関係団体が,要望や申し入れ等を行う動きがあった。

 日本図書館協会(JLA)は,8月22日付けで,松江市教育委員会委員長及び教育長に対して「中沢啓治著『はだしのゲン』の利用制限について(要望)」を図書館の自由委員会委員長名で送付し,8月23日にウェブサイトに公表した。この要望書は,子どもたちの「自主的な読書活動」を尊重する観点から措置の再考を求めたものである。報道等の論点を踏まえ,JLAの「図書館の自由に関する宣言」(1979年),国際図書館連盟(IFLA)の“IFLA Statement on Libraries and Intellectual Freedom”(1999年),米国図書館協会(ALA)の“Intellectual Freedom Manual”(2010年版)の関連部分を参照しながら,今回の制限措置が子どもたちの学校図書館の利用に与える影響について懸念を示している。また,「児童の権利に関する条約」(1989年)の第13条に示された「あらゆる種類の情報及び考えを求め,受け及び伝える自由」の保障等を確認し,さらに「子どもの読書活動の推進に関する法律」(平成13年法律第154号)において,自主的に読書活動を行うことのできる環境の整備の推進が求められていることを確認している。

 学校図書館問題研究会は,8月25日付けで,松江市教育委員会委員長及び教育長に対して「松江市の小中学校における『はだしのゲン』閲覧制限措置についての申入書」を送付し,同日公表した。小中学校における「はだしのゲン」の閉架措置及び閲覧・貸出制限を速やかに撤回することを申し入れたものである。その理由として,学校図書館の使命,多様な情報や資料に自由にアクセスすることができる環境の必要性,今回の措置がもたらし得る子どもたちの意識への影響,学校図書館の資料の選択や除去における議論の重要性,「はだしのゲン」の平和学習の資料としての評価を,順に記述している。

 全国学校図書館協議会(SLA)は,9月2日付けで,「『はだしのゲン』の利用制限等に対する声明」を公表した。同声明では,松江市教育委員会が各学校の選定した図書について各学校の司書教諭・学校司書などの意見を聞くことなく閉架措置を求めたこと,児童生徒の情報へのアクセス権を考慮しなかったこと,学校図書館の有する機能及び専門性に対する理解が欠如していたことなどに問題があるとして,憂慮が表明されている。その上で,学校図書館が,多種多様な資料を児童生徒に提供し自由な利用による情報へのアクセスを保障すること,そのために専任の司書教諭・学校司書を配置し,各学校の「学校図書館資料選定基準」に基づいて「学校図書館資料選定委員会」が教職員や児童生徒等の要望を考慮して選定を行うことを,改めて確認している。参照しているのは,「児童の権利に関する条約」(1989年),「ユネスコ・国際図書館連盟共同学校図書館宣言」(1999年),「学校図書館憲章」(1991年)である。

 このほか,「はだしのゲン」を2年前から事務室に移していたことが報じられた鳥取市立中央図書館では,8月30日に「『はだしのゲン』をコミックコーナーに移動しました」と題するお知らせを図書館長名で公表している。「はだしのゲン」2セットを8月22日にコミックコーナーに移動したこと,同館が合計6セットを所蔵していること,そして今回の経緯が説明されている。その上で,閲覧制限や貸出制限を加えるような意志はなく,今後も表現の自由や市民の知る権利を保障するという図書館の役割を果たしていくことが表明されている。

 なお,日本漫画家協会も,8月26日付けで,「本当に守るべきもの(意見書)」をウェブサイトに掲載している。表現規制につながりかねない出来事が続いていることへの憂慮を表明したものである。意見書は,「日本はもっと自国の文化的な多様性を前向きに評価し,その自由さを保証する表現の手段について,可能な限り寛容でおおらかでいてほしいと,強く,強く願う。そのことこそが,本当に起こってはならない『現実』への警鐘となり得る,と我々は信じているから。」と結んでいる。

(関西館図書館協力課調査情報係)

Ref:
http://www.jla.or.jp/Portals/0/html/jiyu/hadashinogen.html
http://gakutoken.net/opinion/appeal/
http://www.j-sla.or.jp/pdfs/seimei-hadashinogen.pdf
http://www.nihonmangakakyokai.or.jp/printer/?tbl=information&id=3260
http://www.lib.city.tottori.tottori.jp/c1/bib/pdf10030.pdf
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201309040013.html
http://mainichi.jp/select/news/20130827k0000e040197000c.html
http://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/232/Default.aspx
http://www.ifla.org/publications/ifla-statement-on-libraries-and-intellectual-freedom
http://www.ala.org/advocacy/intfreedom/iftoolkits/ifmanual/intellectual
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_001/001.htm
http://archive.ifla.org/VII/s11/pubs/manifest.htm
http://www.j-sla.or.jp/material/sla/post-33.html