CA1935 – プロダクション・アイジーの現場から見たアニメーション・アーカイブの現状と課題 / 山川道子

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カレントアウェアネス
No.337 2018年9月20日

 

CA1935

 

 

プロダクション・アイジーの現場から見たアニメーション・アーカイブの現状と課題

株式会社プロダクション・アイジー:山川道子(やまかわ みちこ)

 

はじめに

 筆者が所属する株式会社プロダクション・アイジー(以下、I.G)は、「文化庁平成28年度メディア芸術アーカイブ推進支援事業」の補助を受け、「アニメーション・アーカイブの機能と実践 I.Gアーカイブにおけるアニメーション制作資料の保存と整理」(1)を作成し、2017年に発表した。これをきっかけにして、改めてアニメーション・アーカイブについて考えた中で、紹介できる現状と課題、そして今後について本稿では述べていきたい。

 

1. なぜアーカイブを行うことになったのか

 筆者は2001年にI.Gに制作進行として入社し、テレビアニメを制作する現場を1年経験した後、立ち上がったばかりの広報室に異動となった。2002年の会社設立15周年の際には、制作現場に残されていたデータから画像を探し、I.Gが関わった作品を調べ年表を作り、それを元にして15周年記念書籍を作成した。また、監督やアニメーターなどのスタッフを呼んでのイベントの際には、会場で上映する映像を作成するために、残されていた素材から映像の復元を行った。この作業を行ったことで、社内では筆者が過去資料(アーカイブズ)を取り扱うこととなり、その後11年間に及ぶひとりだけの広報室アーカイブ担当としての活動が始まった。その後の広報室の業務の中で、新作発表の際にも過去資料はスタッフの紹介等に使用されるなど、使用頻度が高いことを体感した。2005年以降のI.Gは株式上場するなど急成長の只中にあり、制作現場からの映像を作るための利用も急速に増えた。こうして「あるから使う」から「ないと困る」アーカイブズに変化していったのである。

 

 制作現場からは参考用に閲覧を希望され、商品開発側からは販売企画用の取り出しが増えるなど、年々資料の重要度が増している。筆者の広報室から制作部への異動や、常に2人以上のスタッフが配置されて資料整理にあたるようになったことで、2016年には制作部内においてI.Gアーカイブ(以下、I.G-A)グループと名乗ることとなった。アーカイブグループとしての歴史は浅いが、筆者が15周年記念書籍やイベント用に資料整理を始めた時から、途切れることなく社内でアーカイブ活動を行い現在に至っている。

 

2. アニメーションのアーカイブとは何をすることなのか

 筆者がリーダーを務めるI.G-Aグループには、社内で発生した「企業資料」が届けられる。

 

図 企業資料の体系

小風秀雅「近代の企業記録」(2)より作成

 

 その中でも、届く資料の多くは業務資料である。弊社の場合では作品を作るために発生した資料や実際に業務で使われたイラストや映像であり、それらはアニメーション業界では「中間成果物」と言われる。この中間成果物には契約書や経営に関わるものは含まれない。弊社では、契約書類は法務部が管理し、経営資料は総務部が管理をしているために、I.G-Aにはそれらの資料は届かないが、問い合わせを行えば回答をもらえる関係にある。その他の「外部化資料」(ポスター、チラシ、資料提供した記事)、「調査資料」(ロケハン写真等)なども集められる。

 保管した資料の取り出し依頼には大きく3つの目的がある。

  • 社内の新作制作に使用するため
  • 社外で発表される商品化や展示会に使用するため
  • 社内スタッフの育成に使用するため


 I.G-Aは弊社の中では社内外の人が利用するためのアーカイブという意味が強い。営利企業であるから、商品価値の高いものを優先して欲しいという会社の意向は無視できない。しかしながら、資料の重要度は時代によって変化し、また立場が違えば価値判断も変わってくる。そこで、制作の各工程、イベント、出版物、アニメ以外に携わる方々の意見を聞くなどして、アーカイブする内容の取捨選択を行い価値を上げるようにしている。

 

3. アニメーション・アーカイブの対象物

 主な中間成果物としては、作業工程順に以下のものが発生する。

企画書、脚本、絵コンテ、設定画、ロケハン写真、カット袋(レイアウト、原画など)、背景画、色彩設計、色指定・仕上げデータ、3Dデータ、撮影データ、完成納品映像・画・音響、広報用素材、商品、ポスター、チラシ等。

 物理媒体としては、紙、セル画、映画フィルム等があり、デジタルデータの場合は光学メディア、磁気ディスク、磁気テープ等の媒体に保存し保管する。このような多様な資料を扱っているため、保存にはそれぞれの媒体に沿った専門的な知識が必要となる。紙という媒体ひとつをとっても、図書館や文書館が積み重ねた知見を無視して、保存を語ってはいけないのであるが、現在はそこまで議論が深まらない現状なのが残念である。

 アニメーションで取り扱う資料は種類も数も多い。種類名、作品名、絵コンテの中に書かれている話数とカット番号などを利用すると、制作時の関係者とアーカイブの両方が共に使いやすい管理目録となる。作品ごとにどの種類の資料を保管しているかを記録した「基本目録」と、資料の種類ごとにまとめた「種類別目録」の2種類の作成が望ましい。

 

4. 保管資料の利用例

 2.で述べたように、利用を目的とした保存を行っているが、3.のような対象物をどのように利用しているのか紹介したい。

 

【社内での利用】

  • I.G-Aで過去の仕事内容を確認してから発注先を決めるための、過去の担当スタッフ調査と納品物の提供。
  • 続編のための、過去作品の色指定データや原画の提供。
  • 新人アニメーター育成用に原画や絵コンテの提供。

 

【社外での利用】

  • 毎年のように発売される中間成果物を利用した書籍や、全国で開催される原画展などのイベントへの提供。
  • グッズ作成への素材提供。
  • スタッフや作品のTV宣伝用の中間成果物や映像の提供。
  • 旧作を再版する際の映像提供。

 

 利用にあたっては多様な立場の関係者から問い合わせがある。企画者から具体的な資料の指定がある場合と、企画内容に適した資料を作家性・歴史背景・素材の状況などの複数の要因から選定すること(キュレーション)も任される場合がある。本来はアーカイブ側の仕事ではないともいえるが、現状のI.Gでは保管中の資料のことを一番理解しており広報の経験もあることから、社内では筆者が担当することが多い。しかし、アーカイブ作業を止めて行うこととなるため、今後アニメーション・アーキビストの育成時には、キュレーターの育成も同時に行う必要があると考えている。

 

5. MALUI連携の可能性

 I.G-Aグループはアーカイブと名乗ってはいるが、MALUI(Museum、Archive、Library、University、Industry)でいうIの要素が強い。筆者はアニメ業界のアーカイブズを活用したMALUI連携が可能だと考えている。アニメーション制作工程においての資料検索のための利用と、MALUによるアニメーション・アーカイブを利用した展示や商品化、研究目的での画像等の使用などがすぐに思いつくことである。現在のアニメーション・アーカイブが行われにくい理由のひとつに、自社にアーカイブズを利用して収益を得るルートがなければ、アーカイブズを残すことができないということがある。従来のアニメ作品の購買層だけでない、新たな利用者の発掘はアニメ業界にとってもプラスになるはずである。

 資料保存の観点からすると、様々なマテリアルの保存には専門知識が必要であり、内容を公開することで専門家と情報共有が行えることや、企業として専門家に保存に関する仕事を発注できる状態になることはありがたい。そうして、人の交流が資料の価値向上とさらなる延命につながると考えている。

 

6. 国内外の近年の動向

 2018年6月に策定された知的財産戦略本部の「知的財産推進計画2018」では、「マンガ、アニメ及びゲーム等のメディア芸術の情報拠点等の整備を進め、デジタルアーカイブジャパンとも連携したコンテンツ発信の場とする。」(3)とある。この情報拠点で取り扱われる資料の種類や方法、人材がアニメーション・アーカイブにベストな状態になるように、企業側も適切な情報提供を行っていかなくてはいけない。

 2018年7月から2019年2月まで、フランス・パリで日仏友好160周年を記念した日本文化・芸術の祭典である「ジャポニスム2018」が開催される。その企画のひとつとして、2015年に「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」展を開催した国立新美術館が主催者の一員となって、「MANGA⇔TOKYO」展を行う(4)。「知的財産推進計画2018」の履行に伴い、こうした海外での展示が増えると考えられる。まさに、M(Museum)との連携のひとつとして期待したい。

 最後に「ジャパンサーチ(仮称)」(5)についても触れておきたい。アニメ分野は、文化庁メディア芸術データベース(6)を通じた連携が開発される見通しである(7)。分野横断検索できるということは、人材も情報も分野を横断して混じり合う可能性が高まるということである。理解者と利用者が増える絶好の機会であり、完成が大変楽しみである。筆者個人としては、このような外部の活動にも協力していき、今後のアニメーション・アーカイブにより一層寄与していきたい。

 

(1)山川道子. “アニメーション・アーカイブの機能と実践”.
https://www.slideshare.net/MichikoYamakawa/ig-production-ig-archives-manual-2016, (参照 2018-07-02).

(2)国文学研究資料館史料館編. アーカイブズの科学. 下巻. 柏書房, 2003, p. 80.

(3)知的財産戦略本部. “知的財産推進計画2018”.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku2018.pdf, (参照 2018-07-02).

(4)Japonismes2018. “「MANGA⇔TOKYO」展”.
https://japonismes.org/officialprograms/「キャラクターvs-都市:虚構x現実」展, (参照 2018-07-02).

(5)“「ジャパンサーチ(仮称)・フェーズゼロ~分野横断統合ポータル構築に向けて」(終了しました)”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/201805jps.html, (参照2018-08-16).

(6)文化庁. “文化庁メディア芸術データベース”.
https://mediaarts-db.bunka.go.jp/?display_view=pc&locale=ja, (参照 2018-07-02).

(7)永山裕二. “文化庁におけるデジタル・アーカイブの取組状況について”.
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/02_aca.pdf, (参照 2018-08-05).

 

[受理:2018-08-16]

 


山川道子. プロダクション・アイジーの現場から見たアニメーション・アーカイブの現状と課題. カレントアウェアネス. 2018, (337), CA1935, p. 12-15.
http://current.ndl.go.jp/ca1935

DOI:
https://doi.org/10.11501/11161998

Yamakawa Michiko
Current and Future of Animation Archives As Seen from Production I.G