カレントアウェアネス
No.337 2018年9月20日
CA1934
新学習指導要領と学校図書館の活用
全国学校図書館協議会:森田盛行(もりた もりゆき)
1. 新学習指導要領の概要
2018年3月に高等学校の学習指導要領が改訂され、これにより2018年から2022年にかけて幼稚園から高等学校及び特別支援学校の新学習指導要領(以下「新指導要領」と言う。)が施行されることになった。
現代は、ICTの進化をはじめ、社会的変化が人間の予測を超えて進展する時代がすぐそこまで来ている。特に人口知能(AI)の発達により人間の職業ばかりか、人間そのものの存在の在り方までがおびやかされるのではという懸念が広がりつつある中で、これからの教育について大きな関心が向けられている。
このような状況を背景に、2016年の中央教育審議会(中教審)の答申では、「よりよい社会を創るという目標を学校と社会とが共有し」、社会との連携・協働による「社会に開かれた教育課程」の実現を目指すとした(1)。そのために、枠組みを改善し、後述するカリキュラム・マネジメントを確立するとしている(2)。
新指導要領では現行の学習指導要領において重視された「基礎的な知識・技能」「思考力・判断力・表現力等の能力」「主体的に学習に取り組む態度」の育成、言語活動、体験活動を引き継ぎ、学習の基盤となる資質・能力を一層確実に育成することを目標にした。
1.1. 何ができるようになるか(目指す資質・能力)
新指導要領では教育課程全体で育成するこの資質・能力を以下のように3つの柱に整理し、各教科の目標・内容はこれにそって記述している(3)。
- (1)「知識及び技能」の習得
個別の知識だけではなく、それらが相互に関連付けられ、社会で生きて働く生きた知識となるもの。 - (2)「思考力・判断力・表現力等」の育成
将来の予測困難な社会でも未来を拓いていくために必要な能力。 - (3)「学びに向かう力、人間性等」の涵養
主体的に学習に取り組む態度、自己の感情・行動を統制する能力など。
1.2. どのように学ぶか(学習・指導の改善・充実)
これまでの学習指導要領の記述は、何を学ぶかという学習内容が主であったが、新指導要領では「どのように学ぶか」と学ぶ過程に力点が置かれている。そこで、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)の視点が設定された(4)。これには、新たな指導法かと、現在でも多忙な学校現場にさらに負担が増えるのではないかという懸念があった。しかし、特定の型のある指導法ではなく、これまでの学校現場で蓄積されてきた指導をさらに確実にするために「知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程」を重視する「主体的・対話的で深い学び」の視点で行う学習であるとしている(5)。
これらの取り組みの実現のためには、児童生徒や学校・地域の実態を把握し、教育内容、時間配分、人的物的体制の確保等、改善点を把握し、教育活動の質の向上を図るカリキュラム・マネジメントが必要であるとした(6)。
1.3. 何を学ぶか(学校間の接続を踏まえた教育課程の編成)
今回の改訂では、学習内容の削減は行わず、質の改善を図るものとした。小学校・中学校では、外国語教育は3・4学年はこれまでと同じ外国語活動だが、5・6学年は教科化し、聞く・読む・話す・書くという言語活動によりコミュニケーション能力を育成することとした。さらに、教育内容の改善として、言語能力の確実な育成、理数教育の充実、伝統や文化に関する教育の充実、体験活動の充実、外国語教育の充実、情報活用能力(プログラミング教育を含む)、現代的諸課題への対応が盛り込まれた。
高等学校では教科・科目構成が大幅に見直され、理数が新設された。国語科は、必修の現代の国語、論理国語などの6科目に、地理歴史科は、必修の地理総合、歴史総合などの5科目となり、公民科には新たに公共が設けられた。その他の重要事項としては、初等中等教育の一貫した学びの充実、主権者教育、消費者教育、情報教育などがある(7)。
2. 新学習指導要領と学校図書館
新指導要領では、各教科に学校図書館の活用に関する記述、また学校図書館の用語はないが学校図書館の機能を活用することが想定される記述が多くなった。
総則には全校種とも「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り,児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かすとともに,児童の自主的,自発的な学習活動や読書活動を充実すること」とし、さらに「図書館,博物館,美術館等の活用を図り,情報の収集や鑑賞等の学習活動を充実する」と記述している(8)。全教科の学習指導においては、主体的・対話的で深い学びを実現するために学校図書館の活用が不可欠であることを示している。
小学校の国語科では、内容の指導に当たっては学校図書館を計画的に利用し、その際には、本などを選ぶことができるように指導するとしている(9)。特別活動の〔学級活動〕では、「自主的に学習する場としての学校図書館等を活用したりしながら,学習の見通しを立て,振り返る。」と学校図書館を自主的に活用するとしている(10)。
中学校では、国語科で「他教科等における読書の指導や学校図書館における指導との関連を考えて行うこと」と、読書指導は国語科だけではなく、他教科でも必要であることを明確にしている(11)。美術では、「学校図書館等における鑑賞用図書,映像資料等の活用を図る」としている(12)。
高等学校の国語科の全ての科目の内容の〔知識及び技能〕の言語文化に関する事項として読書の意義・効用の理解を深めるとし(13)、特別活動の〔ホームルーム活動〕の内容では、キャリア形成と自己実現において、自主的に学習する場としての学校図書館等を活用するとしている(14)。
小・中学校、特別支援学校小学部・中学部の総合的な学習の時間は、内容の取扱いの配慮事項に学校図書館の活用を記述している(15)。高等学校では総合的な探究の時間と、小・中学校のように学習ではなく「探究」とし、学校図書館の活用を記述している(16)。高等学校の学習で重視されている探究学習には、学校図書館の活用が前提となっていることを示している。
3. これからの司書教諭・学校司書の役割
このように新指導要領に基づいて学習指導を行うためには、各教員が学校図書館の機能や自校の学校図書館について理解し、さらに学校図書館を活用する学習指導法に通じていなければならない。
学校図書館は組織的に経営・運営されるものであり、校長は学校図書館の「館長」としてリーダーシップを発揮することが期待されている。2016年に公表された「学校図書館ガイドライン」(E1896参照)(17)に添った経営・運営、環境整備等は、館長の果たす役割が重要となる。
司書教諭は学校図書館での任務において中核的な役割を担い、学校司書と分担して、主体的・対話的で深い学びの視点で行われる日常の授業の他に、校内研修、教材研究、研究授業、資料の提供等にこれまで以上に深く関わることが期待されている。特に、新指導要領で重視されている教科横断的な学習には学校図書館の機能を活用しなければ十分な効果があげられないために専門的な知識・技能を有する司書教諭の役割が一層重要となる。
学校司書は、2014年の学校図書館法改正により法的に位置づけられ、学校図書館を活用した授業を司書教諭や教員と共に進めることとなった(E1597参照)。学校司書の配置も進み、学校図書館の活用には司書教諭同様欠かせない存在となっている。
このように、新指導要領の目標を達成するためには、学校図書館の活用が鍵となり、教員がいかに学校図書館を使いこなすかにかかっていると言えよう。
(1)中央教育審議会. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申). 2016-12-21.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf, (参照 2018-07-27).
(2)中央教育審議会. “(2)教育課程を軸に学校教育の改善・充実の好循環を生み出す「カリキュラム・マネジメント」の実現”. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申). 2016-12-21, p. 23-25.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf, (参照 2018-07-27).
(3)文部科学省. “第1章 総説”. 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説総則編. 東洋館出版社, 2018, p. 3.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387017_1_2.pdf, (参照 2018-07-25).
中央教育審議会. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申). 2016-12-21, p. 28-30.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf, (参照 2018-07-25).
(4)中央教育審議会. “(3)「主体的・対話的で深い学び」の実現(「アクティブ・ラーニング」の視点)”. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申). 2016-12-21, p. 26.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf, (参照 2018-07-27).
(5)文部科学省. “第1章 総則”. 小学校学習指導要領(平成29年告示). 東洋館出版社, 2018, p. 22.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_4_3_2.pdf, (参照 2018-07-25).
中央教育審議会. “第7章 どのように学ぶか-各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実-”. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申). 2016-12-21, p. 47-53.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf, (参照 2018-07-27).
(6)文部科学省. “第1章 総説”. 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説総則編. 東洋館出版社, 2018, p. 5.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387017_1_2.pdf, (参照 2018-07-25).
(7)文部科学省. “新しい学習指導要領の考え方-中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ-”. p. 41-42.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/1396716_1.pdf, (参照 2018-07-24).
(8)文部科学省. “第1章 総則”. 小学校学習指導要領(平成29年告示). 東洋館出版社, 2018, p. 23.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_4_3_2.pdf, (参照 2018-07-25).
(9)文部科学省. “第2章 各教科 第1節 国語”. 小学校学習指導要領(平成29年告示). 東洋館出版社, 2018, p. 40.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_4_3_2.pdf, (参照 2018-07-25).
(10)文部科学省. “第6章 特別活動”. 小学校学習指導要領(平成29年告示). 東洋館出版社, 2018, p. 184.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_4_3_2.pdf, (参照 2018-07-25).
(11)文部科学省. “第2章 各教科 第1節 国語”. 中学校学習指導要領(平成29年告示). 東山書房, 2018, p. 38.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_5_4.pdf, (参照 2018-07-25).
(12)文部科学省. “第2章 各教科 第6節 美術”. 中学校学習指導要領(平成29年告示). 東山書房, 2018, p. 114.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_5_4.pdf, (参照 2018-07-25).
(13)文部科学省. “高等学校学習指導要領”.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/24/1384661_6_1.pdf, (参照 2018-07-09).
(14)文部科学省.“高等学校学習指導要領”.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/24/1384661_6_1.pdf, (参照 2018-07-09).
(15)文部科学省. “第5章 総合的な学習の時間”.小学校学習指導要領(平成29年告示). 東洋館出版社, 2018, p. 181-182.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_4_3_2.pdf, (参照 2018-07-27).
文部科学省. “第5章 総合的な学習の時間”.中学校学習指導要領(平成29年告示). 東山書房, 2018, p. 161.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_5_4.pdf, (参照 2018-07-27).
特別支援学校に関しては、小・中学校の「総合的な学習の時間」に準ずるとしている。
文部科学省. “第5章 総合的な学習の時間”.特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(平成29年告示). 海文堂出版, 2018, p. 197.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/23/1399950_2_1.pdf, (参照 2018-07-27).
(16)文部科学省. “高等学校学習指導要領”.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/24/1384661_6_1.pdf, (参照 2018-07-09).
(17)“別添1「学校図書館ガイドライン」”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380599.htm, (参照 2018-07-25).
“学校図書館の整備充実について(通知)”. 文部科学省. 2016-11-29.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380597.htm, (参照 2018-07-25).
森田盛行. 新学習指導要領と学校図書館の活用. カレントアウェアネス. 2018, (337), CA1934, p. 9-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1934
DOI:
https://doi.org/10.11501/11161997
Morita Moriyuki
New Course of Study and Use of School Libraries