カレントアウェアネス-E
No.322 2017.03.23
E1896
学校図書館ガイドラインと学校司書のモデルカリキュラム<報告>
文部科学省では,2015年6月,学校図書館の運営に関わる基本的視点や,学校司書の資格・養成等のあり方に関して一定の指針を得ることを目的に,「学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議」(座長:堀川照代青山学院女子短期大学教授。以下,協力者会議)を設置した。協力者会議は委員16名から構成され,計8回の審議を行なったのち,2016年10月,学校図書館のあるべき姿や学校司書養成のあり方等を盛り込んだ「これからの学校図書館の整備充実について(報告)」(以下,報告)を公表した。11月には,文部科学省から各都道府県教育委員会等に宛てて「学校図書館の整備充実について(通知)」(以下,通知)が発せられ,別添資料として「学校図書館ガイドライン」と「学校司書のモデルカリキュラム」が示された。
協力者会議の設置は,2014年3月公表の「これからの学校図書館担当職員に求められる役割・職務及びその資質能力の向上方策等について(報告)」(以下,2014年報告)(E1553参照)と,2014年6月の学校図書館法の一部改正(E1597参照)を受けている。法改正により学校司書が規定され,その資格・養成のあり方等を検討の上,必要な措置を講ずることが定められた。
報告では,2014年報告の内容を継承しつつ,学校図書館を主体的・対話的で深い学び(「アクティブ・ラーニング」の視点からの学び)を効果的に進める基盤として位置づけ,さまざまな学習場面で利活用することを通じて,児童生徒の情報活用能力や問題解決能力を育成すること等が述べられている。
学校図書館ガイドラインは,原案が報告第3章にまとめられ,7項目が示されている。協力者会議では,2016年5月,学校図書館のあるべき姿を打ち出す方向性を確認したが,その際,国が地方の活動に枠をはめる基準の形ではなく,行政上の政策目標として望ましいあり方を示すガイドラインが採用された。通知に添付された最終的な文面は原案をほぼ踏襲しているが,原案で「努める」と表現された箇所は「努めることが望ましい」と修正されている。
学校図書館ガイドラインは,2014年報告を土台として,これを具体的に肉づけた内容と言える。たとえば,学校図書館の機能について,2014年報告と同様に「読書センター」(読書活動の場),「学習センター」(学習支援の場),「情報センター」(情報活用能力等育成の場)と規定しつつ,これに加え,図書館資料の廃棄と更新を適切に行い,児童生徒が最新の正しい知識に触れる環境を整備することや,調和のとれた蔵書構成,多様な形態の資料の充実など,これら3機能を適切に具現化できるような環境を醸成すべきことを指摘している。また,校長の役割についても,学校図書館運営においてリーダーシップを発揮することを期待する点は2014年報告を継承しているが,学校図書館評価の際,PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)に基づき,校長が組織的に運営改善を図るよう努めること等の役割についても新たに明記している。
一方,学校司書のモデルカリキュラムは,報告第4章にまとめられた学校司書の資格・養成のあり方を構成理念としつつ,報告に別紙として掲載された科目構成を摘出したものである。作成経緯としては,2016年6月から8月に協力者会議のもとに,学校司書の資格・養成等に関する作業部会(委員7名)が設けられ,ここで提言された12科目24単位案を受け,協力者会議で審議した結果,「学校図書館の運営・管理・サービスに関する科目」7科目と「児童生徒に対する教育支援に関する科目」3科目からなる10科目20単位の科目構成原案が提示されたものである。通知は原案を踏襲している。
モデルカリキュラムにおいて,学校司書は,司書のように省令で定められた科目を履修することで資格が付与されるのではなく,履修認定の方法が採られている。これは行政判断として,1990年代以降の地方分権の流れの中で,職員にどのような能力や習熟度を求めるかは,基本的に任免権者である地方公共団体や学校法人等の長の権限の範囲内であり,全国一律の資格付与は困難であるとの認識がある一方,協力者会議におけるヒアリングの結果から,学校司書はその職務内容に鑑み,大学および短期大学における養成が適当とされたことを受けての措置であった。
学校司書のモデルカリキュラムの特徴として,学校司書の科目内容と司書,司書教諭,教職の各科目内容が重なる場合には,読み替え可能とされた点が挙げられる(ただし「学校教育概論」については,教職に関する3科目にまたがる事項を含む科目を履修した場合に,それを以てこの1科目と読み替えられる)。「学校図書館サービス論」のみ,読み替えが認められていない。履修認定に当たっては,各大学等でモデルカリキュラムの授業科目を開講し単位認定できるほか,社会人向けの履修証明プログラムを活用し,履修証明書を以て採用時に活用する方途等も示されている。今後,普及に向けた仕組みづくり,現職者教育,教育内容の質保証等が検討課題となっている。
明治大学文学部・三浦太郎
Ref:
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/115/houkoku/1378458.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/115/giji_list/index.htm
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380597.htm
E1553
E1597