PDFファイルはこちら
カレントアウェアネス
No.299 2009年3月20日
CA1686
動向レビュー
RDA全体草案とその前後
1. 経過
『英米目録規則第2版』(以下AACR2)に代わるRDA: Resource Description and Accessの全体草案かつ最終草案が、漸く2008年11月に公開された(1)。目次だけで113ページ(PDF形式)に及ぶ膨大なものである。
AACR2見直しの出発点としては、1997年に開催された「AACRの原則と将来の展開に関する国際会議」が重要である(CA1480参照)。だが、改訂の主体である英米目録規則改訂合同運営委員会(その後改称。以下JSC)が作業の発進を告げた正式の表明は、2003年9月の“New Edition Planned”であった(E134参照)。次いで2004年12月にAACR3の一部として一般には概要のみ公開された草案は、やや特異な構成と内容をもち、本文を非公開とした閉鎖的な姿勢とともに、構成団体(英米加豪の各目録委員会等)の間で不評であった。JSCは批判を容れて2005年4月の会合で方針転換を図り、“cataloguing”の語を含めない今のタイトルへ改めた。
その後、JSCは一転してウェブサイトを活用し改訂内容の周知に努めたが、草案が批判を受けることに変わりはなく本文は変転を重ね、2006年完成という当初の予定は本2009年へ大幅にずれ込む見込みである。ここでは改題後の紆余曲折を跡付ける紙幅の余裕がないので、代わりにJSCによる関連文書のうち大きな転回を印した2つの文書に触れる。“RDA Scope and Structure”(2)(2006年12月)と、“A New Organization for RDA”(2007年11月)である。前者は改訂作業の初期には明確でなかった、メタデータとの親和性の方向を打ち出したもので、これがその後の基調となった。後者はAACR2の構成を払拭してFRBR(『書誌レコードの機能要件』)に忠実な構成への変更を決断したものである。JSCによれば、新構成には、FRBRの理解が直ちにRDAの理解に通じる、特定のレコード構造に拘束されないため様々なデータベース構造を使用しているコミュニティにも理解しやすいなどの利点があるという(E728参照)。
この間のJSC外部からの個人による批判として、メタデータ側よりコイル(Karen Coyle)とヒルマン(Diane Hillmann)の論文が(E614参照)、また伝統的な立場からAACR2を主導したゴーマン(Michael Gorman)による批判がある。前者は紹介済みなので割愛し、本稿では後者を紹介する。ゴーマンによれば、理論偏重の改訂は、目録作業に大きな災いをもたらす恐れがある。目録規則の従来の着実な進歩に背くこの改訂の理由は、メタデータで電子的記録を検索させて目録の問題を解決しようとする動き、フリーテキスト検索を目録に置き換えることが可能との見解、理論派によるFRBRへの執着にある。RDA は標準的な目録とメタデータの間で第三の道を探し求めているが、みじめにも前者を裏切ることが後者をなだめることにはならない、と彼はいう(3)。
だが、RDAの行方に最も強く影響を及ぼしたのは、米国議会図書館(LC)書誌コントロールの将来に関するワーキング・グループの報告である。同グループは、このなかでJSCに対して改訂作業の中断を勧告した(CA1650参照)。RDA草案が果たして目録に革新をもたらすか否か認識できないとの理由による。
これを受けて、LC・農学図書館(NAL)・医学図書館(NLM)の米国3国立図書館は2008年5月1日付けで共同宣言を発表した。これによると、3館は引き続きRDAの完成へ向け協力するものの、完成後にRDA の有効性についてのテストを経て導入の可否を決定する。導入の時期は2009年中ではない(4)。
全体草案は、このようにJSCにとって苦しい形勢の中での公開となった。
2. 構成
まず本節で全体草案の構成を概観し、次節で主要な改訂点を述べる。
構成の根幹は次の2点に要約できるだろう。即ち、(1) 従来の目録規則が「何(意味)をどのように構成するか(構文)」について規定していたのに対して、RDAは前者のみを規定し後者を各目録作成機関にゆだねて普遍性の実現を意図したこと、および(2) RDAが規定した「何」(意味)とは、「目録にかかわる諸実体の属性および実体間の関連」を指すことである。
本体は、2部、10セクション、37章から成り、その前後に序論(Introduction)と付録・用語解説が配されている。ただし、いわゆる主題目録法にかかわる部分は2009年の刊行時には制定されず、その後に補充の予定とされている。なお各セクション冒頭の章はそのセクションのガイドラインとなっている。以下、ごく大まかにAACR2と対比しながら展望する。
序論
RDAの特徴として、電子資料の記述に柔軟で拡張可能な枠組みを提示する一方、非電子資料の組織化のニーズにも対応している点などを挙げ、基盤となる概念モデルがFRBRなどであることや、国際化に配慮したことを述べ、中核的要素(core elements)の一覧を掲げる。
[第Ⅰ部:属性](セクション1-4)
FRBRにおける3グループ10実体に「家族」を加えた11実体の、属性に関する記録について規定する。
セクション1「体現形および個別資料の属性の記録」(第1-4章):セクション2とともにFRBR第1グループの実体を扱う。セクション1はAACR2第Ⅰ部のほぼ全体に相当する。だが資料の多様化に柔軟に対処するため、資料種別による章立てが廃止されエリアの枠もなく、直ちにエレメント(例えば責任表示)別に規定されている。まず第2章「体現形と個別資料の識別」で、資料の識別に最もよく使用される属性として、主に本タイトルなど資料から転記する要素を扱う。次いで第3章「キャリアの記述」で、要求に合致する資料を選択する際に依存する物理的特徴に関する属性として、形態に関する要素に触れる。そして第4章「取得とアクセス情報の提供」で、URLなど資料を入手するための要素を取り上げる。個別資料は付随的に扱われている。なお第3章はメディア種別とキャリア種別(ともに後述)の規定を含む。
セクション2「著作および表現形の属性の記録」(第5-7章):統一タイトル(AACR2第25章)の形式などを扱う。第6章「著作と表現形の識別」は、これらの識別に最もよく使用される属性に関する章である。内容種別(後述)の規定を含む。第7章「内容の記述」は、内容の要約、学位論文に関する情報など、要求に合致する資料を選択する際に依存する内容に関する属性を取り上げる。
セクション3「個人・家族・団体の属性の記録」(第8-11章):FRBR第2グループの実体を扱う。第9章と第11章が、各々AACR2の個人・団体標目の形式に関する第22章と第24章に当たる。間の第10章は家族名の形式について規定する。
セクション4「概念・物・出来事・場所の属性の記録」(第12-16章):FRBR第3グループの実体を扱う。第16章がAACR2第23章(地名)に当たる。他章は刊行時には未制定。
[第Ⅱ部:関連](セクション5-10)
FRBRの実体相互の関連について規定し、旧来の「をも見よ参照」を包含する。各条項には関連先に関する識別子や優先アクセスポイント(後述)などが例示されている。なお関連の多様な種類を表現するために、関連指示子(relationship designator)の一覧が付録に含まれている(後述)。
セクション5 「著作・表現形・体現形・個別資料の間の最も主要な関連の記録」(第17章のみ):諸関連中、最も重要なものと位置づけられている、第1グループの実体相互の関連に関するガイドラインである。
セクション6 「資料と結びついた個人・家族・団体の間の関連の記録」(第18-22章):第1グループの実体である著作・表現形・体現形・個別資料の各々と、第2グループに属する3実体の各々の関連に関する規定である。
セクション7 「主題の関連の記録」(第23章のみ):著作と第3グループの実体の関連に関するガイドラインでRDA刊行時には未制定。
セクション8 「著作・表現形・体現形・個別資料の間の関連の記録」(第24-28章):複製と原体現形など、第1グループの著作相互、表現形相互、体現形相互、個別資料相互の各関連を扱う。
セクション9 「個人・家族・団体の間の関連の記録」(第29-32章):第2グループの実体間の関連を取り上げる。同一個人の本名と筆名の間の関連や、同一団体の新旧名称の間の関連をも含む。
セクション10「概念・物・出来事・場所の間の関連の記録」(第33-37章):第3グループに属する実体相互の関連について規定する。RDA刊行時には未制定である。
付録
13種から成るが注目すべきもののみを挙げると、まずシンタックスの規定の消去を補うものとして、D: 「記述データのシンタックスの記録」とE:「アクセスポイント・コントロールのシンタックスの記録」がある。前者はISBDやMARC 21とRDAとの対照表を含み、後者はAACR2やMARC 21とRDAとの対照表を含む。IからL(一部未制定)は関連指示子の一覧であり、ごく一部はAACR2にも役割表示(21.0D)などとして存在する。最後のMにはRDAにより作成された書誌レコード全体の見本が掲載されている。
用語解説
AACR2では付録の一つだが、独立して量も内容も一変した。著作(work)が新たに定義された。
3. 主要な改訂
このような枠組みに盛られた新しい内容について、主要なものを[第Ⅰ部]に限定して取り上げる。
3.1 セクション1
AACR2におけるitemがresourceという用語に代わった。この語は一般に体現形を指し、これが記述の対象となる。刊行形態を、単一の資料、完結したまたはそれを予定する複数部分から成る資料、逐次刊行物、更新資料の4種に区分する。記述の型として、全体記述、部分記述、階層的記述(前二者の組み合わせ)を区別する。新たな記述を要する場合を刊行形態別に規定した。次の変更もある。一資料全体のどこかを情報源とする場合は角括弧に包まない。責任表示は著者等の数を問わずすべて記録することを本則とし、従来の4著者以上は1著者以外を省略するとの方式は別法とした。
AACR2の資料種別に代えて、物理的な系列(メディア種別・キャリア種別)と内容的な系列(内容種別)を表わすリストが用意された。メディア種別とキャリア種別はともに体現形の要素である。前者に属する用語は8種であり、視聴のための媒介機器に基づいて区分されている(機器を使用しない資料にはunmediatedを当てる)。後者は前者を細分したもので、各資料の記録媒体(storage medium format)と収納形態(housing format)に基づく。例えば、記録媒体がrollで収納形態がcassetteである体現形のキャリア種別は、videocassetteである。内容種別については次項を参照。
3.2 セクション2-4
標目(heading)の語は全く消えて専らアクセスポイントが使われ、これには従来の統一標目に当たる優先アクセスポイント(preferred access point)と、参照に当たる異形アクセスポイント(variant access point)がある。
著作を表現する優先アクセスポイントは、(1)著作に最も責任を有する著者に対する優先アクセスポイントと(2)著作に対する優先タイトルの組み合わせにより、
Hemingway, Ernest, 1899-1961. Sun also rises
のように構成される(冒頭の冠詞は一般に省略)。ただし、この形はAACR2の固有名+タイトル形副出記入などと同一であり、基本記入(main entry)の語は廃止された一方、その概念はこのような形で保持されている。表現形は、
Brunhoff, Jean de, 1899-1937. Babar en famile. English. Spoken word
のように構成される。最後の要素が内容種別であり、これは表現形の一要素として、伝達手段、感覚、像の次元、像の動不動に基づいて区分されている。例えば、伝達手段が像、感覚が視覚、像の次元が2次元、像が動である表現形の内容種別はtwo-dimensional moving imageである。なお、最近IFLAが種別についてISBDのエリア0として案を提示した(5)。今後これとの調整に伴う変更があるかもしれない。ほかに個人の属性にかかわる要素などが格段に増加した。なかにはアクセスポイントではなく典拠レコードのための要素とみなされるものが含まれている。
4. 今後
JSCはRDAの刊行を2009年第3四半期に設定した上で、同年第4四半期から2010年早期までを評価期間と位置づけている。
デジタル環境下において目録規則には二つの普遍化が要請されていると言える。一つは、パッケージ型資料に加え不定形のネットワーク情報資源をも包括する普遍化であり、他の一つは、図書館界での自己完結を超えた隣接コミュニティとの相互運用性を備えた普遍化である。RDAによる書誌レコードが既存のそれと無理なく共存し、かつRDAがこれらの普遍化を果たし得たか否かが、刊行後に検証される。
近畿大学:古川肇(ふるかわ はじめ)
(1) American Library Association et al. RDA: Constituency Review. 2008.
http://www.rdaonline.org/constituencyreview/, (accessed 2009-01-09).
(2) [Joint Steering Committee for Development of RDA]. RDA ? Resouce Description and Access: Scope and Structure. 2006.
http://www.collectionscanada.gc.ca/jsc/docs/5rda-scope.pdf, (accessed 2009-01-09).
なお、最新の版は第4版(2008)である。
http://www.collectionscanada.gc.ca/jsc/docs/5rda-scoperev3.pdf, (accessed 2009-01-09).
(3) Gorman, Michael. RDA: Imminent debacle. American Libraries. 2007, 38(11), p. 64-65.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/news/RDA_Letter_050108.pdf, (accessed 2009-01-09).
(5) International Federation of Library Associations and Institutions ISBD Review Group. Worldwide review: Proposed Area 0 for ISBD. 2008-11-28.
http://www.ifla.org/VII/s13/isbdrg/ISBD_Area_0_WWR.htm, (accessed 2009-01-09).
古川肇. RDA全体草案とその前後. カレントアウェアネス. 2009, (299), p.17-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1686