CA1650 – 書誌コントロールの将来に向けたLCの取り組み / 倉光典子

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カレントアウェアネス
No.295 2008年3月20日

 

CA1650

 

書誌コントロールの将来に向けたLCの取り組み

 

 

 インターネットの急速な進展により、誰もが、どこからでも情報の発信と利用が可能な社会が到来し、急速に拡大している。電子情報資源はその媒体や形式を多様化し、その数は爆発的に増加している。検索エンジンが普及し、ユーザはネットワーク上の情報資源への依存度を高め、情報提供機関としての図書館の存在は危機的状況に直面しているという認識が広がっている。米国議会図書館(LC)は、これまでも、デジタル情報時代に取り組むべき課題について、調査・検討を続けてきたが、2006年11月に「書誌コントロールの将来ワーキング・グループ(Working Group on the Future of Bibliographic Control;E634参照、以下WGと略)」を立ち上げた。

 

書誌コントロールに関連するLCの主な取り組み(WG設置以前)

 本章では書誌コントロールに関する、2000年以降のLCの取り組みについて、簡単に概観したい(1)

 2000年は、LCの書誌政策に現在も影響を与えつづけている、2つの大きな出来事が起こった。1つはLC創立200周年記念行事として開催された「新千年紀のための書誌コントロールに関する200周年記念会議」(2)であり、他方はLC館長ビリントン(James Billington)の依頼により結成された「LCの情報技術戦略に関する委員会」による報告書『LC21:LCのためのデジタル戦略(3)CA1343参照)の発表である。

 前者では5分科会における討議が行われ、その結果、専門部会を結成して「ウェブ資源の書誌コントロール:LC行動計画」(4)CA1431参照)の策定を進めることとなった。2006年3月に公表され、米国議会図書館件名標目表(LCSH)の廃止など、衝撃的な内容で大きな反響を呼んだコーネル大学のカルホーン(Karen Calhoun)による報告書『目録の変化する本質および他の情報発見ツールとの統合』(5)CA1617参照)は、この行動計画の一部として企画されたものである(6)

 後者では、1998年から約1年半かけて行われた、LCの全組織に対する横断的な点検の結果として、電子資料の収集・保存・組織化・提供のための戦略や、国内外協力機関との協力関係構築など、増大する電子資料に対応した改善をLCに提言している。とりわけ第5章「知識アクセスのデジタル情報への組織化:目録からメタデータへ」(7)では、メタデータの構築に言及している。

 一方、ウェブ検索技術はこの数年で、長足の進歩を遂げ、さらに従来からの検索エンジンに加え、学術情報に特化したウェブ検索エンジンや、出版物そのものをデジタル化するプロジェクトが登場するに至った(CA15641606E473参照)。

 このように検索エンジンによるウェブ検索のカバー領域が広がりをみせていた2005年1月、図書館サービス担当副館長マーカム(Deanna Marcum)が、電子情報アグリゲーターのエブスコ(EBSCO)社主催のセミナーで、「目録業務の将来」(8)CA1617参照)と題する講演を行った。マーカムは目録からウェブ検索エンジンへの利用者のシフト、大規模デジタル化プロジェクトの進行という流れに言及し、費用対効果の低い現状の目録業務への危機意識を顕わにした。

 一方2006年4月には、LCはシリーズ典拠の廃止を発表した(9)。この方針には図書館界から強い反発の声が挙がったが、当初予定通り同年6月から、施行されるに至った(10)

 WG発足にあたりLCは、ウェブ検索エンジンの進化、インターネット環境の充実、電子情報資源の爆発的増加に伴い、図書館業務が大幅な変革を迫られていることを指摘している(11)。高コストな上に、ウェブ上の電子情報資源に対するアクセス手段として不十分である現在の図書館目録のあり方、ひいては知識情報提供機関としての図書館の将来に対するLCの危機感の表れであるといえよう。

 

WGの検討経過

 2006年11月2・3日の両日にわたり、WGの創立会議がLCで開催され、論点として次の3点を取り上げることが確認された(12)

  • (1)進化しつづける情報環境の下で、図書館資料の管理と利用者からのアクセスに対する効果的なサポートを可能にする、書誌コントロールや目録作業の方法に関する調査と知見の提示
  • (2)(1)で得られたビジョン達成のための図書館コミュニティ全体としての実現方法の勧告
  • (3)LCの役割と優先事項についての助言

 またWGの具体的なテーマや進め方に関する議論も交わされた。席上では、図書館界のあらゆる意見をくみ取る機会をもつことが決定的に重要であるとして、3回にわたり、テーマごとに複数の地域で公開ミーティングを実施することを決定した。なおテーマ・開催日時・開催場所は下記の通りである(13)

  • 第1回(2007年3月8日)
    テーマ:書誌データのユーザと利用
    会 場:カリフォルニア州マウンテンビュー;グーグル本社(
    E634参照)
  • 第2回(2007年5月9日)
    テーマ:書誌データの構造と標準化
    会 場:イリノイ州シカゴ;米国図書館協会(ALA)本部
  • 第3回(2007年7月9日)
    テーマ:書誌データの経済性と組織
    会 場:ワシントンD.C.;LC

 この公開ミーティングの会場として、グーグル本社やALA本部が選ばれたことは、特筆されるべきことであろう。一方では、ウェブ上の情報資源と利用者を結びつける重要なツールであるウェブ検索エンジン大手の本社で、他方では利用者と情報を結びつける機関であることを自負する図書館の職能団体の本部で、デジタル情報時代における図書館の課題が議論されたわけである。第3回公開ミーティングの会場となったLCとともに、公開ミーティングの会場設定には重大な意味が含有されていると考えずにはいられない。

 これら3回の公開ミーティングを経て、2007年11月13日に、LCで報告書草案のプレゼンテーションが開催された(E720参照)。この模様はウェブキャスティングにより、全世界に生中継された(14)。11月30日には報告書草案(15)が公開され、翌12月1日からパブリックコメントの募集が開始された。パブリックコメントの募集期間は12月15日までの短期間であったが、総計で100ページを超える分量の意見が寄せられたという。

 2008年1月8日、WGは最終報告書“On the Record:Report of The Library of Congress Working Group on the Future of Bibliographic Control”(16)をLCに提出した(E749参照)。

 

最終報告書の内容

 序説において、WGは、書誌コントロールの将来を、相互協力的で、分散化され、国際的で、ウェブを基本とするものであると予想する。それは民間部門も含む広範囲のユーザとの積極的な相互協力、相互連携により実現されるものであり、ウェブ技術への対応が必須であるとする。

 また指針となる原則として、(1)単なる目録作業より広い概念としての書誌コントロール、(2)図書館、出版者、データベース提供者を越えた広がりをもつ書誌的世界、(3)LCの役割の3点について再定義を行い、LCが担い、図書館コミュニティが依存してきた役割の分担の再検討を呼びかけている。

 報告の中心となる勧告は、1. 書誌レコード作成の効率性の拡大、2. 貴重資料、図書館に固有の資料やその他の秘蔵資料へのアクセスの拡大、3. 将来的な技術の位置づけ、4. 将来的な図書館コミュニティの位置づけ、5. 図書館情報学専門職の強化の5つの領域からなり、あわせて114の勧告が提示されている。

 1.では、相互協力、書誌レコード共有の拡大、初期段階で得られる情報の有効利用の手法として、1.1 冗長性の排除(5項目、15勧告)、1.2 書誌レコード作成の責任分担の拡大(4項目、13勧告)、1.3 典拠レコード作成・維持の協同(3項目、10勧告)が挙げられ、2.は5項目、13勧告が挙げられている。3.では、3.1 基盤としてのウェブ(3項目、8勧告)、3.2 規格(5項目、14勧告)、4.では、4.1 現在と未来のユーザのためのデザイン(3項目、7勧告)、4.2 FRBRの実現(1項目、4勧告)、4.3 利用と再利用のための米国議会図書館件名標目表(LCSH)の最適化(4項目、13勧告)、また、5.では、5.1 エビデンスベースの確立(2項目、8勧告) 5.2 現在と将来のための図書館情報学教育のデザイン(3項目、9勧告)が挙げられている。

 

草案からの変更点

 最終報告に対する100ページを越えたとされるパブリックコメントは、一般的な語句修正として、また勧告項目の追加・訂正として最終報告に反映されている。

 草案からの変更が大きかったものとしては、「3.2規格」の勧告、「4.3 LCSHの最適化」の序説部分と「5. 図書館情報学専門職の強化」の勧告の追加がある。

 「3.2 規格」では、勧告項目の順序が変更され、「RDA策定作業の中断」は最後に移された。ここでは記述内容が詳細化され、中断がより強く勧告されている。また、「3.2.1より大きい書誌的仕組みのための一貫した枠組みの開発」と「3.2.2 規格開発工程の改善」が追加された。今後ますます増大し、重要となる規格の開発を合理化するために、規格の部品化、開発工程情報の公開など、開発工程の改善が勧告されている。

 4. 将来的な図書館コミュニティの位置づけとしては、書誌コントロールの将来に係わる多くの勧告が提示されている。「4.1.1外部情報とのリンクの拡大」では、これまで書誌情報と見なされなかった書評、ランキング情報などの評価情報も含む外部情報とのリンクの拡大やユーザ作成データの統合、「4.2FRBRの実現」では、FRBRを実現するためのテストプランの開発、「4.3利用と再利用のためのLCSHの最適化」では、カルホーン報告ではその廃止が提案され、反響を呼んだLCSHについては、統制語による主題アクセスにおいて有効ではあるが、管理と機械化の観点で扱いにくい構造であり、その複雑さはユーザの利用を妨げているとしている。その改善のため、LCSHの変換、米国国立医学図書館医学件名標目表(MeSH)など他の統制語件名標目の適用と相互参照の促進、主題分析における自動索引の可能性の調査などが勧告されている。

 

おわりに

 WGの報告は、LCにのみ向けられたものではない。LCと同様の使命を負う他国の国立図書館も含めて、広く関係者に向けられたものである。

 今後、LCと他の関係機関は、勧告に対して、それぞれの立場で優先順位を設定し、実行に移すことになろう。国立国会図書館も、国立図書館としてLCと共通する部分については、引き続きその動向に注視する必要がある。

 また、国立国会図書館書誌部では、書誌データの作成及び提供の新しい方針の平成19年度策定に向けて、2007年11月16日、「書誌データの作成及び提供:新しい目標・方針の策定」をテーマに、平成19年度書誌調整連絡会議(17)を開催し意見交換を行った。平成20年以降の実行計画策定では、WG勧告に対する今後のLCの対応が大いに参考になるものと思われる。こちらの観点でも、引き続き注視していきたい。

書誌部:倉光典子(くらみつ のりこ)

 

(1) LCにおける近年の書誌コントロールについては、倉橋のまとめが参考になる。倉橋英逸. “米国議会図書館における書誌コントロールの環境変化と再構築の道程”. 整理技術研究グループ50周年記念論集. 日本図書館研究会整理技術研究グループ, 日本図書館協会(発売), 2007, p.84-104.

(2) Library of Congress. Bicentennial Conference on Bibliographic Control for the New Millennium. http://www.loc.gov/catdir/bibcontrol/, (accessed 2008-02-18).

(3) Committee on an Information Technology Strategy for the Library of Congress. et al. LC21:A Digital Strategy for the Library of Congress. National Academy Press, 2000, 265p. http://www.nap.edu/openbook.php?isbn=0309071445, (accessed 2008-02-18).

(4) Library of Congress. “Bibliographic Control of Web Resources:A Library of Congress Action Plan”. 2001-12-19(Revised). http://www.loc.gov/catdir/bibcontrol/actionplan.html, (accessed 2008-02-18).

(5) Calhoun, Karen. The changing nature of the catalog and its integration with other discovery tools. Final report. Library of Congress, 2006, 52p. http://www.loc.gov/catdir/calhoun-report-final.pdf, (accessed 2008-02-18).

(6) Calhoun, Karen. The changing nature of the catalog and its integration with other discovery tools. Final report. Library of Congress, 2006, p.8. http://www.loc.gov/catdir/calhoun-report-final.pdf, (accessed 2008-02-18).

(7) “Organizing intellectual access to digital informatuion:From cataloging to metadeta”. LC21:A Digital Strategy for the Library of Congress. Committee on an Information Technology Strategy for the Library of Congress. et al. National Academy Press, 2000, p.122-143. http://www.nap.edu/openbook.php?isbn=0309071445, (accessed 2008-02-18).

(8) Marcum, Deanna B. “The Future of cataloging”. Boston, 2006-01-16, Ebsco Leadership Seminar. http://www.loc.gov/library/reports/CatalogingSpeech.pdf, (accessed 2008-02-18).

(9) Cataloging, Library of Congress. “The Director for Acquisitions and Bibliographic Access Announces the Library of Congress’ Decision to Cease Creating Series Authority Records as Part of Library of Congress Cataloging April 20, 2006”. 2006-04-20.
なおこのウェブサイトは、LCのサーバ上から確認できなくなっているため、“Internet Archive”で確認した(http://web.archive.org/web/20060427213036/http://www.loc.gov/catdir/series.html, (accessed 2008-02-18).)。

(10) 当初、2006年5月1日から開始予定であったが、6月1日に延期された。 Cataloging, Library of Congress. “The Library of Congress Will Delay Implementation of Its Decision to Cease Providing Controlled Series Access May 4, 2006”. 2006-05-04.
なおこのウェブサイトは、LCのサーバ上から確認できなくなっているため、“Internet Archive”で確認した(http://web.archive.org/web/20060518034247/www.loc.gov/catdir/delay.html, (accessed 2008-02-18).)。

(11) Library of Congress. “Working Group Established To Discuss Future of Bibliographic Control:Newly Formed Group To Make Recommendations by November 2007”. News from the Library of Congress. 2006-12-01. http://www.loc.gov/today/pr/2006/06-222.html, (accessed 2008-02-18).

(12) Working Group on the Future of Bibliographic Control, Library of Congress. Library of Congress Working Group on the Future of Bibliographic Control:Inaugural Meeting, November 3, 2006. p.4-5. http://www.loc.gov/bibliographic-future/meetings/docs/LCWGMinutes110306final.pdf, (accessed 208-02-18).

(13) Working Group on the Future of Bibliographic Control, Library of Congress. “Meetings”. http://www.loc.gov/bibliographic-future/meetings/, (accessed 2008-02-18).
なお、これら公開ミーティングのアジェンダ、議事録要旨、録画映像なども上記ウェブサイトで公開されている。

(14) Working Group on the Future of Bibliographic Control, Library of Congress. “Interim Draft Report and Recommendations”. 2007-11-13. http://www.loc.gov/bibliographic-future/meetings/webcast-nov13.html, (accessed 2008-02-18).

(15) Working Group on the Future of Bibliographic Control, Library of Congress. “Draft Report of the Working Group on the Future of Bibliographic Control”. 2007-11-30. http://www.loc.gov/bibliographic-future/news/draft-report.html, (accessed 2008-02-18).

(16) Working Group on the Future of Bibliographic Control, Library of Congress. On the Record:Report of The Library of Congress Working Group on the Future of Bibliographic Control. 2008, 44p. http://www.loc.gov/bibliographic-future/news/lcwg-ontherecord-jan08-final.pdf, (accessed 2008-02-18).

(17) 国立国会図書館. “書誌データの基本方針と書誌調整:書誌調整連絡会議”. http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/conference.html, (参照 2008-02-18).

 


倉光典子. 書誌コントロールの将来に向けたLCの取り組み. カレントアウェアネス. (295), 2008, p.2-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1650