カレントアウェアネス
No.254 2000.10.20
CA1343
LC電子情報政策への改善勧告
全米科学アカデミー(National Academy of Science: NAS)全米研究協議会(National Research Council: NRC)は,7月26日,米国議会図書館(LC)は増大する電子(デジタル)情報に対応した改善を早急に行うべきであるとする報告書を発表した。「LC21:LCのためのデジタル戦略」(LC21)と題する約260ページに及ぶこの報告書は,(1)デジタル革命と図書館の発展,(2)LC:ジェファーソンから21世紀へ,(3)デジタルコレクションの構築,(4)デジタル遺産の保存,(5)デジタル情報へのアクセスの組織化:カタロギングからメタデータへ,(6)LCと外部世界,(7)経営問題,(8)情報技術基盤,の8章からなる。1998年LC館長の依頼を受けて,NRCコンピュータ科学および電気通信工学会議に設置された「LCの情報技術戦略に関する委員会」によってまとめられたものである。
LCの使命は,歴史・文化にかかる記録の最も網羅的なコレクションを構築・維持し,米国議会および国家に奉仕することにある。この役割を堅持するには,伝統的なメディアはもとより,デジタル情報の収集・保存に努めなければならない。これまでにもパイロットプロジェクト等を実施してきたが,幅広い戦略あるいは必要な能力を発展させるに至らなかった。
LC21作成の責任者,「LCの情報技術戦略に関する委員会」のオドンネル(James J. O'Donnell)委員長(ペンシルバニア大学教授)は記者会見の中で,「今起きつつあるデジタル革命は,世界の図書館員にとって,期待,可能性,チャンスそのものである。LCがこの可能性を認識せず,この瞬間をうまく生かせないなら,LCは”本の博物館”に成り下がるであろう」と警告している。
約1年半かけて実施されたLC21のための調査は,LCの全組織を横断的に点検するものであった。LC21でなされている様々な提言のうち,主な点を以下に挙げてみる。
- LCは「最初からデジタル形態で生産される資料」(born-digital materials)を含むあらゆる形態のデジタル資料の収集,保存,組織化,提供のための戦略・戦術を早急に立てるべきである。
- 米国著作権局(LC内の一部門)による登録,納本の仕組みは,いまだに本,ビデオテープ,CDのような「有形物」主体のままである。デジタル資料も対象とした新しい統合的なシステムの構築が緊急の課題である。
- LCの組織は伝統的なメディアを中心に考えて構成されている。そこで,情報技術を取り入れる戦略担当者としての副館長職の増設,外部の専門家からなる技術顧問委員会や情報技術のビジョン・戦略・研究・計画に関するグループの立ち上げ,といった組織改革を進める必要がある。
- LC職員の中に,研修や学習の機運を高めるべきである。議会は職員研修のための予算を増額し,LCも職員が専門家集団の活動に関わること,異なる技術を持つ職員からなるチームを立ち上げ,お互いに教え合うことを奨励するなどの取り組みが求められる。
- 技術的基盤の不十分さが,デジタル情報収集への対応を遅らせている。ネットワークやデータベース,セキュリティなどでは,民間はもとより非営利の研究図書館にも遅れをとっており,レベルアップを早急に図らねばならない。
- LCはここ10年,島国的になり国内外関係機関との関わりを欠いている。図書館はもとより,出版,娯楽,ソフトウェアなど産業界との関わりを積極的に持つべきである。
- パイロットプロジェクトの中で最大の「全米電子図書館プログラム(National Digital Library Program: NDLP)」により,LCの蔵書500万点のデジタル化とインターネットによる提供が行われた。次なる挑戦は,NDLPの名にふさわしいより大規模なプログラムの立ち上げである。幅広い他機関との協力のもとに進めていくことが求められる。
- 人類の「遺産」となるデジタル資料を保存することは重要であるが,大量のデジタル情報を処理し,保存することは,単一の組織では不可能である。LCはデジタル資料の保存に係る法的,経済的,技術的な課題解決のために,電子出版者や研究開発機関をリードしつつ,協力関係を築いていかなければならない。
LC21では,以上の事柄を含め,多岐にわたる具体的な提言がなされている。
LC21の発表を受け,ビリントンLC館長(James H. Billington)は同日,次のような声明を発表した。「我々はNRCに対し,今後のデジタル情報に係る計画を立てるにあたり,LCの現在の実力の査定を要請した。LCは今後2,3か月の間,関係者とともに,ここに列挙された勧告について議論していきたい。LC21においてLCがすぐ強化すべきこととして挙げられたのは,より柔軟性のある雇用や報酬の手続き,より堅固な技術的バックボーン,国内外の民間企業や情報関係機関とのより密接な協力関係などである。こうした改革には年度予算だけでは不十分であり,民間企業や研究機関との大胆な新しい協力関係が必要となる。LCは21世紀の米国と世界のために”全米オンライン図書館”の建設に向けて,議会,民間企業,情報関係業界等とともに活動していくことを願っている。」
デジタル情報に関する問題は国立国会図書館にとっても共通かつ緊急の課題であるだけに,今後のLCの対応は注目されるところである。同時に世界的な共同研究の場において我が国図書館界の積極的な参加,貢献が期待される。
千代 正明(ちよまさあき)
Ref: Committee on an Information Technology Strategy for the Library of Congress, National Research Council. LC21: A Digital Strategy for the Library of Congress. National Academy Press. 2000 [http://www.nap.edu/openbook/0309071445/html] (last access 2000. 9. 26)
News from the Library of Congress. Statement of Dr. James H. Billington on LC21:A Digital Strategy for the Library of Congress:a report from the National Academy of Sciences.[http://www.loc.gov/today/pr/2000/00-100.html](last access2000.10.10)