E928 – 米国議会図書館(LC)のIT戦略についての報告書

カレントアウェアネス-E

No.150 2009.05.27

 

 E928

米国議会図書館(LC)のIT戦略についての報告書

 

 2009年3月,米国議会図書館(LC)のIT戦略についての報告書「ITの戦略的策定(Information Technology Strategic Plannning)」が公表された。これは,2000年に出された全米科学アカデミー等による報告書「LC21:LCのためのデジタル戦略」(CA1343参照)以降の進捗状況等をまとめたもので,LCの監察官(Inspector General)であるショルナゲル(Karl Schornagel)氏がコンサルティング会社に委託し実施したものである。報告書では,LCのIT基盤は大きな進歩を遂げたとの評価をしながらも,明らかになった課題として,次のような点を指摘している。

  • IT戦略策定がLC全体を統合する力となっておらず,組織文化に取り込まれていない。具体的には,(1)戦略策定がLC内部の関係者全員の関与を得ていない,(2)IT戦略計画がLC全体の戦略計画とうまく調整されていない,(3)デジタル化の取組みがバラバラで焦点を欠いている。
  • IT戦略策定がIT投資のプロセスと結びついておらず,労力や調達の重複を生んでいる。また,継続的な費用便益分析が行われていない。
  • ITサービス委員会の組織構造が,戦略策定や適切なITガバナンスを発展させるものとなっていない。
  • 将来技術の導入のロードマップを定めるための戦略には不可欠である,エンタープライズ・アーキテクチャ(組織全体の業務・システムの最適化のための手法・計画)を欠いている。<
  • ITサービス部署によるLCの他の組織に対するサポート業務について問題がある。改善を促すための「サービス基準合意書(Service Level Agreement)」等の仕組みが導入されていない。

 報告書では,これらの問題の主な原因を,IT計画をいかにLCの使命及び職員の責務に適合させるかという意識が明確でないことや,IT戦略策定プロセスと実際の業務との間につながりを欠いていることであると分析している。さらに,IT計画担当の職員は,使命を実現するための包括的な観点を持たなければならないと指摘している。こうした観点から,上記の課題に関して,改善へ向けて必要な取組みを勧告している。

 報告書の巻末には,この報告書に対するLCのビリントン(James H. Billington)館長によるコメントが掲載されている。館長はまず,報告書では近年開始した電子サービス(デジタル図書館のAmerican Memory,法律データベースのGLIN,立法情報のTHOMAS等)への言及が十分でないことを指摘し,LCのIT戦略の現状を正確に理解するためにはこれらの取組みを考慮することが必要だとしている。報告書による指摘・勧告に関しては,IT戦略と  全体の戦略の統合や,戦略策定への一般職員の関与等の点については同意を示しているが,大幅な組織改編等については,より深い分析やデータが必要であるとし,現時点では否定的な態度を示している。

Ref:
http://www.loc.gov/about/oig/reports/2009/Final%20IT%20Strategic%20Planning%20Report%20Mar%202009.pdf
http://techdailydose.nationaljournal.com/2009/04/library-of-congress-needs-it-s.php
CA1343