E927 – 学生・教員に対する電子書籍利用調査の意外な結果とは?(英国)

カレントアウェアネス-E

No.150 2009.05.27

 

 E927

学生・教員に対する電子書籍利用調査の意外な結果とは?(英国)

 

 教育や学習に必要な電子書籍を提供する持続的・効果的な市場を開拓するに当たっての事前の利用者調査として,英国情報システム合同委員会(JISC)は2007年から2年間に渡り,学生や教員の電子書籍の利用行動調査プロジェクト“JISC national e-books observatory project”に取り組んできた。

 このプロジェクトでは,出版社の協力のもと科学,技術,医学等の分野の電子教科書36タイトルを,ウェブ上のプラットフォームを通じてJISCが全英の大学生・教員に無料提供し,その利用パターンをログ分析するという方法が取られている。これには最終的に127の大学が協力した。その他に,アンケート調査,フォーカスグループに対するケーススタディ,電子書籍の影響を測ることを目的とした図書館の貸出数と印刷版の売行きの分析も実施された。アンケート調査には約4万8,000件の回答が寄せられた。関係者によると,このプロジェクトは電子書籍に関する調査(CA1648E807参照)としては世界最大規模となったという。

 調査結果は,電子書籍にまつわるいくつかの「神話」を覆すものとなった。

  • 電子書籍の利用は紙の書籍の売り上げを脅かすという印象があるが,電子教科書は紙版の売り上げに影響を与えていない。
  • 電子書籍は若い世代ほどよく使うと考えられがちだが,ITに慣れ親しんでいるいわゆる「Google世代」(E745参照)だけでなく,あらゆる世代がまんべんなく利用している。
  • 電子教科書の利用者は,オンラインで長時間読むというよりはむしろ,短い時間のブラウジングやダウンロードを行う傾向にある。
  • 電子書籍の利用は図書館目録経由の場合がほとんどであるため,発見可能性を高めるためには,出版社は電子書籍用のMARCレコードを用意する必要がある。
  • デジタル著作権管理(DRM)による制限は重要な課題を抱えている。現状ではDRMによる制限は利用者にも管理者にも「徹底的に嫌悪されている」。

 これまでの成果として,利用ログ分析,ビジネスモデルなど複数の観点から途中経過がまとめられているほか,2009年4月に開催されたロンドン・ブックフェアでも関連ワークショップが行われ,出版関係者から大きな注目を集めた。ワークショップでスピーカーを務めたプロジェクトの関係者は調査結果を踏まえ,「電子書籍販売の現状モデルは十分ではない。電子書籍市場は既存のビジネスを脅かすものというよりは,開拓すべき,成長すべき新しい市場である」「紙版と電子版の書籍の利用は相関関係にあり,混合経済となっている。このことを踏まえたビジネスモデルが求められている」との見解を示している。

 なお,プロジェクトの最終報告は2009年6月に刊行の予定である。

Ref:
http://www.jiscebooksproject.org/
http://www.jiscebooksproject.org/wp-content/full-list-of-e-books-oct-2007b.doc
http://www.jiscebooksproject.org/wp-content/e-textbook-phase-1-report-public-version16-4-09.pdf
http://www.jiscebooksproject.org/wp-content/jc_ebooks_observatory_summary-final.pdf
http://www.jiscebooksproject.org/wp-content/e-books-project-first-user-survey-a4-final-version.pdf
http://www.jiscebooksproject.org/wp-content/jisc-freetext-report.pdf
http://www.jiscebooksproject.org/wp-content/headlines-from-librarian-focus-groups-cm.doc
http://www.ucl.ac.uk/infostudies/research/ciber/observatory/ciberentrysurvey.pdf
CA1648
E745
E807
E860