CA1556 – 欧州図書館(The European Library)の最新情報 / 久古聡美

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カレントアウェアネス
No.284 2005.06.20

 

CA1556

 

欧州図書館(The European Library)の最新情報

 

 欧州各国の国立図書館における統合的なサービス提供を目指す欧州図書館(The European Library:TEL)が2005年3月17日,およそ4年におよぶ構想からの準備期間を経て,ウェブ上にポータル(1)を設置し本格的にサービスを開始した。TELは,欧州各国の国立図書館の膨大な所蔵資料を一元的に検索して結果を得られるサービスを提供し,情報探索の利便性を飛躍的に向上させるポータルとして期待されているものである。

 TELについては,CA1415E148E219E312でプロジェクトの進行状況を取り上げてきたところであるが,本稿ではTELの概要に触れつつ,リリース後の実際のサービスと今後について紹介したい。

 

利用者に優しいポータル

 TELに参加しているのは,欧州国立図書館長会議(CENL)に加盟する43の国立図書館である。これらの館はすべて「基本パートナー(Basic Participants)」と位置づけられ,ポータル上で情報が提供されている。「基本パートナー」のうち,TELに対する資金拠出などをしている館は「全面的なパートナー(Full Participants)」と位置づけられており,サービス開始時点でドイツ,オランダ,英国など9国立図書館が相当する。

 設置されたポータルには,シンプルでユーザーフレンドリーなインターフェースが用いられており,コンテンツは欧州各国図書館の紹介(Libraries),電子展示(Treasures),蔵書の検索(Search)という三本の柱で構成されている。現在のところサイト内のほとんどのコンテンツを,英語,フランス語,ドイツ語の3言語で表示することができる。

 柱の一つ“Libraries”はGabriel(CA1102参照)の後を引き継いだ形で,CENLメンバーの各国立図書館の基本情報や沿革,所蔵コレクションの紹介,オンラインサービスへのナビゲーションなどを備えたものだ。“Treasures”は各国立図書館が所蔵するユニークな資料を数点ずつ紹介したもので,イメージ画像と解題が掲載されている。例えば,ポーランドの国立図書館のページでは,ポーランド出身の作曲家ショパンの手書き楽譜や古代の天文学者プトレマイオスの世界図といった歴史的な資料5点が紹介されており,ぶらぶらと訪れて楽しむのに格好の場所となっている。“Search”は,目玉となる蔵書の一括検索を提供しているが,これについては次に述べる。

 

ひとつのアクセスポイント―Cross Collection Searching

 “Search”で一括検索が可能なのは,現在のところ全面的なパートナー9国立図書館の蔵書および“The European Library”の蔵書である(将来的には他の図書館の蔵書も検索可能となる見込み)。デジタル・非デジタル資料をシームレスに検索でき,デジタル資料であればそのものに辿り着いたり,一部は有料または無料でデリバリーを受けたりすることが可能だ。“The European Library”の蔵書とは,いくつかの図書館から集められたデジタル資料を含むコレクションの集合体であり,現時点では,ポルトガルの国立図書館の蔵書目録とデジタル資料群,フランスの国立図書館のデジタル化された図書資料などが検索対象として集められている。

 検索のメニューには,簡単検索と詳細検索が用意されている。簡単検索では,一つの検索窓からタイトルと著者などの項目をシンプルに検索できる。詳細検索は,細かく項目を指定して検索できるほか,検索対象を個別コレクション単位で指定することも可能である。コレクションを指定するページには現在選択可能なものだけで120以上がずらりと並び,各々に概要説明が付されている。そのため,この中から利用者が欲している情報に関連したコレクションを系統的に探し出せるよう,主題から対象を絞りこむ機能と概要説明をキーワード検索する機能を併せて提供している。

 

図 書誌の詳細画面


 

図 書誌の詳細画面

 

 

 画面構成は,例えば,ある言葉で検索すると,左枠に順々に各図書館でのヒット件数が表示され,右枠には選択された図書館のヒットした書誌一覧が表示されるようになっている(図参照)。その中の一つの書誌をクリックするとその書誌の詳細が現れる。そこからは,データ提供元のOPACやデジタル資料の提供ページへ飛んだり,書誌詳細のある項目を使って簡単に再検索したりできる。さらに,タイトルや著者名から,OpenURL(CA1482参照)を用いて,関連するウェブページや適切な一次資料等を入手できる場所,例えば,その書誌に適合した英国図書館の文献提供サービス(CA1545参照)のページや商業出版社の書籍購入ページなどへ,ワンクリックでナビゲートする機能も(試行段階として)提供している。

 TELはプロジェクト段階から,検索技術全般の実験という側面をもっている。デジタル・非デジタル資料を区別なく検索するためのメタデータ付与基準,効率的な検索を実現する技術,結果表示の方式などが検討され,実装実験を行った後現在に至っている。現在の検索機能はまだ処理能力や表示などの点において開発途上である感は免れない。だが何よりも,インターネット上で欧州の国立図書館の所蔵資料という形の広範な文化的・学問的資産を一元的に検索し,統合的な検索結果を取り出せるようになったのである。

 

TELの運営体制

 TELに関しては,その運営体制にも触れておくべきであろう。総合的な協力体制を整えていくことがその目的の一つに掲げられているように,全部で43の国立図書館のポータルを構築し維持するには,その規模ゆえの運営や諸々の意思決定,技術的事項を含む調整等の難しさなどがあることは想像に難くない。現在TELの事務局はオランダ国立図書館に置かれているが,その他,中間の監督部門,意思決定を統率する上位部門,技術的な部分に取り組むグループや各図書館とコンタクトを取るグループなど複数の組織体が地理的にも散らばって設置されている。それぞれが複雑に,しかしうまく連携を図りながら一体となって走らせている様子が,構想段階からの文書やニュースレターを蓄積しているTELのプロジェクトサイト(2)などから窺い知ることができる。また,TELの周辺には,TELプロジェクトに発端を持つメタデータ開発グループや多言語機能を開発する技術グループなど,並行して走る最先端のプロジェクトがあることが強みだ。TELの現在の姿があるのは,これら実務レベルからの結実を還元し,全体の舵取りをスピーディに行う工夫がなされてきたからこそであろう。

 

発展し続けるTEL

 TELでは,今後もポータルの安定的発展と更なる機能性を追求するため段階的にプロジェクトを展開し,その成果をリリースしていくとのことだ。2005年内に少なくとも2回のリリースが行われる予定であり,プロジェクトサイトによると,次期リリースでは多言語対応検索を実現する可能性や検索の精度を改善するシソーラス,通覧性向上を目的とした調査などが検討されているようである。

 また,TELは欧州各国立図書館に対し,全面的なパートナーとなるよう呼びかけている。これに関連して,2005年2月よりTEL-ME-MORというプロジェクトも開始されている。これは欧州連合に新規加盟した10か国の国立図書館に対し,欧州委員会主導の情報社会技術計画(Information Society Technologies (IST) Program)に関連して必要とされる各種技術面での支援を行うもので,その一環としてTELへの参加を呼びかけ強力な支援を行っている。より多くの図書館が参加すれば,蔵書検索を通じた利用者へのサービス向上はもちろんのこと,図書館側にとっても,利用者への新しいルートと蔵書や提供サービスの新しい「ショウケース」を獲得する利点をもつと考えられる。

 TELは各国図書館の協力体制を拡大強化し,将来に渡って欧州規模で図書館サービスの充実を目指していく。ひとつのアクセスポイントから欧州が所蔵する資料・情報へという壮大な計画は,どこまで発展を遂げるのか。期待に胸がはずむ思いである。

総務部企画課:久古 聡美(きゅうこ さとみ)

 

(1) The European Library. (online), available from < http://www.theeuropeanlibrary.org/ >, (accessed 2005-04-07).
(2) TEL Project Website. (online), available from < http://www.europeanlibrary.org/ >, (accessed 2005-04-07).

 

Ref.

Collier, Mel. Development of a business plan for an international co-operative digital library – The European Library (TEL). Program: electronic library and information systems. 38(4), 2004, 225-231.
Woldering, Britta. The European Library: Integrated access to the national libraries of Europe. Ariadne. (38), 2004. (online), available from < http://www.ariadne.ac.uk/issue38/woldering/ >, (accessed 2005-04-07).
Veen, Theo van et al. Search and Retrieval in The European Library: A New Approach. D-Lib Magazine. 10(2), 2004. (online), available from < http://www.dlib.org/dlib/february04/vanveen/02vanveen.html >, (accessed 2005-04-07).

 


久古 聡美. 欧州図書館(The European Library)の最新情報. カレントアウェアネス. 2005, (284), p.2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1556