CA1482 – 動向レビュー:OpenURLとS・F・X / 増田豊

カレントアウェアネス
No.274 2002.12.20

 

CA1482

動向レビュー

 

OpenURLとS・F・X

 

1.はじめに

 学術情報のリンキングにおいては「メタデータ」が重要な役割を果たす。このメタデータを使い発展性のある方法でリンクを創出するS・F・Xと呼ばれる製品と,その基盤となっているOpenURLについて概説する。

 

2.S・F・X開発の目的

 ある情報資源からの拡張サービスを考える際に,リンク先として内容とコストの両面で最適と思われる文献やサービスを「適切コピー(Appropriate Copy)」と呼ぶ。S・F・X開発の中心人物であるバン・デ・ソンペル(Herbert Van de Sompel)氏は,ベルギーのゲント大学を中心に1998年から2000年にかけ学術情報サービスにおけるリンキングを研究していたが,そのプロジェクトの究極の目的は利用者を「適切コピー」に導くシステムの開発であった。「適切コピー」はリンク元の文献に依存するほか,利用機関や所属部署,さらには個々の利用者ごとにも変化する。また,同じ利用者であっても利用時間などにより変わる可能性がある。「適切コピー」の所在も様々であり,インターネットやイントラネット,無料・有料のサービス,サブジェクトゲートウェイやプレプリントサーバなどを考慮する必要があった。この要求を満たすためには従来ベンダーが採用してきたリンキング方法を変える必要があった。

 

3.リゾルバー・モデル

 主要学術ベンダーが提供してきたリンクは,起点となるサービスから直接そのターゲットに接続する手法が採られてきた。その問題点として以下の事項が指摘できる。

  • 同じサービスの利用者は同じターゲットに誘導されてしまう。
  • 誘導先のサービスはベンダー側の考えや都合により決定される。
  • 1対1のリンキングが前提であり,システムの拡張性と設定・保守作業の効率性に欠ける。

 これらの解決方法として,リンキングの集中管理とリンク先の決定を担うシステム(リゾルバー)をリンク元とターゲットの間に配し仲介するモデルが検討された。

 従来のベンダーが提供してきたリンキングのうち最も一般的なものは,書誌検索後,該当する原文献にリンクする全文リンクと,該当する文献の所蔵情報を確認するための機能を持つOPACリンクである。2つのリンクとリゾルバーを設置した場合の比較を図1に示した。

 

 

 〈1〉は全文リンクの例である。この機能が有効になると検索結果の表示画面に全文リンク用アイコンが付設され,そのクリックにより該当文献のURLが生成され,利用者の画面に原文献が現れる。

 〈2〉はOPACリンクの流れを説明している。検索結果の表示画面に「Local Holdings」など蔵書検索を意味するアイコンが登場し,クリックするとターゲットとするOPACシステムの検索プログラムに対し,リンク元の文献を検索するためのコマンドが送られる。このコマンドは通常<OPACサーバ検索プログラムのアドレス>+<ISSN検索コマンド>という構成をもつURLとして表現される。

 〈3〉がリゾルバーを使うモデルの処理手順を示している。起点となるサービスには,そのレコードのメタデータ(書誌事項)や識別子をURL化してリゾルバーに送るためのアイコンが現れる。リゾルバーは受信したメタデータに基づき,〈1〉,〈2〉と同様のコマンドを内部で生成し,リンクを実現する。アイコンの付与や,メタデータを含んだURLのリゾルバーへの送信が,起点となるサービスのベンダーの役割になり,ターゲット側に合わせたURLを発生させる仕組みはリゾルバーがまとめて受け持つ。

 CrossRefはリゾルバーを使うモデルの代表例だが,その有効性を示す例を一つ紹介したい。現在Elsevier Science社のScienceDirect上の論文は,競合するOvid社の文献データベースからの直接リンクを受付けない。全文リンクはリンク元のベンダーとターゲットとなる全文提供機関がパートナー関係にないと実現しないからである。しかしながら中立的な存在であるCrossRefを経由することで全文リンクが実現されている。リゾルバー・モデルはこのような出版社の事情による不都合を吸収する役割を果たす。

 

4.OpenURL

 リゾルバーが様々な資源からのメタデータや識別子情報を含むURLを受け,解釈する手続きを効率化するためには,各ベンダーの表記法を統一する必要があった。バン・デ・ソンペル氏らは体系化した仕様を策定しOpenURLと言う名称で米国情報標準化機構(NISO)に標準化を申請するとともに普及を促進するためインターネット上に公開した(1)

同氏の構想は評価を受け,主要学術ベンダーの採用が相次ぎ,この分野で事実上の世界標準になった。

 

 

 図2にOpenURLのサンプルを2例示した。OpenURLの構文はBASE-URLとDESCRIPTIONの2つの部分から構成される。BASE-URLには送信先のリゾルバー・アドレス「sfx.ndl.go.jp」と処理プログラム「menu」が示されている。そこに送られるメタデータや識別子をDESCRIPTIONと呼び,「?」に続けて記述する。DESCRIPTIONはORIGIN(リンクの起点となる情報サービス)とOBJECT(リンクの起点となる文献)に分類され定義されている。1番目の例はOBJECTをメタデータで表現しており,「genre=article」は文書のタイプが雑誌論文であることを意味し,以下にISSN,巻,号などの記述が「&」で結ばれ表現されている。2番目はORIGINがOvid社MEDLINE であることがsid (service identifier )タグを使い示され,同社独自の識別子pid(private identifier)が12345-6であることを表現している。

 

5.S・F・X

 バン・デ・ソンペル氏は「適切コピー」実現のためには情報サービス利用者の現況を感知し,その状況に応じたリンク先を提示することが必要だと考えた。状況に適応する能力は「Context-Sensitive」と表現され,S・F・Xは「文脈依存(Context-Sensitive)」リンクを作り出すOpenURLを実装したリゾルバーと説明することができる。同氏らの研究成果はそのプロジェクトにも参画したイスラエルの図書館システム販売業社であるEx Libris社にライセンスされ,同社が製品としての仕様を整備し販売している。現在では世界の主要20か国の著名な学術機関で利用されるに至っている。SFXと言う言葉は一般的に特殊効果と言う意味で使われているが,学術リンキングに同様の衝撃をもたらすことを期待し製品名に流用した。主要ベンダーの多くはS・F・Xのリソース(ORIGIN)となるため提供サービスの文献表示にS・F・Xアイコンを付与し,指定のリゾルバー(S・F・Xサーバ)にOpenURLに準拠したメタデータを送信する機能を追加した。ISI,Ovid,OCLCなどの大手アグリゲータを始めとし,米ロスアラモス国立研究所の物理学系プレプリントサーバであるarXiv.org や国立生物工学情報センター(NCBI)のPubMedなどがS・F・Xに対応し拡大中である。最近ではScienceDirectも加わっている(2)

 S・F・XサーバはOpenURLを受信すると,その構文を解析プログラムに送り,必要なメタデータを摘出する。識別子を受信した場合は,それを解するリゾルバーにメタデータを要求する工程が追加される。メタデータからORIGINとOBJECTを特定すると内部データベース(KnowledgeBase)を参照し,どんな拡張サービスが提供可能か候補をリストアップする。この候補は利用機関が設定した条件フィルタを通り絞り込まれる。この際の条件として利用時間や利用端末のIPアドレス,OBJECTの状況などを盛り込むことができる。また条件設定では「電子ジャーナルでオリジナル文献が参照できない場合のみ原報入手サービスを登場させる」というロジック(Threshold)も可能である。このようなフィルタを通過して得られた拡張サービスが,S・F・Xメニューとして利用者端末に登場する。図3はメニューの一例である。利用者がリンク誘導されてから入力する手間をなくすため,あらかじめメタデータから切り出された検索語が埋め込まれている。

 S・F・Xメニューをクリックするとターゲットに対する要求を実行するためのコマンド(URL)が作り出される。Ex Libris社がS・F・Xのターゲットとしているサービスの一覧はインターネット上で見ることができる(3)

 

 

6.NISO AX委員会での標準化

 現在NISOではAX委員会(4)と呼ばれるプロジェクトチームが標準化を審議しており,2002年末にはOpenURLを基にした標準規格がバージョン1.0として誕生する予定である。OpenURLはすでに事実上の標準となっているため,それを採用し製品化したベンダーの妨げにならないように現在のドラフトをバージョン0.1として公認することが決定された。

 AX委員会はカリフォルニア工科大学の図書館システム担当者であるバン・デ・ベルデ(Eric F. Van de Velde)氏を議長とする20名弱のメンバーで構成されている。その中には提案者であるバン・デ・ソンペル氏も含まれており機能拡張において中心的な役割を果たしている。文字コード定義方法が検討されているが,日本語メタデータの取扱いを実現するためにも早期に盛り込まれることを期待したい。

 

7.おわりに

 今後も学術リンキングの重要性は増し,その連鎖に参加しないベンダーは不利な展開を強いられる。OpenURLに準拠したメタデータの送信機能を備えることはそのための手軽な手段である。AX委員会による標準化は採用ベンダーの拡大に大きく貢献すると考えられる。OpenURLのリゾルバーとしてはS・F・X以外にEndeavor Information Systems社のLinkFinderPlus,Fretwell-Downing社のZPORAL open linking plug-in,Openly Informatics社の1 Cateなどが既に製品化されている。リンキング技術がさらに発展し,多くの利用者がその恩恵に与ることが望まれる。

ユサコ株式会社:増田 豊(ますだゆたか)

 

(1)OpenURL syntax description. [http://www.sfxit.com/openurl/openurl.html](last access 2002.10.20)
(2)SFX Source (Open-URL Enabled Resources). [http://www.sfxit.com/sources-list.html] (last access 2002.10.20)
(3)SFX Targets.  [http://www.sfxit.com/targets.html] (last access 2002.10.20)
(4)NISO OpenURL Standards Committee AX. [http://www.niso.org/committees/committee_ax.html] (last access 2002.10.20);NISO Committee AX. Deveopment of an OpenURL Standard. . [http://library.caltech.edu/openurl/] (last access 2002.10.20)

 


増田豊. OpenURLとS・F・X. カレントアウェアネス. 2002, (274), p.17-20.
http://current.ndl.go.jp/ca1482