カレントアウェアネス
No.259 2001.03.20
CA1377
NORDINFOの活動―北欧における電子図書館協力の試み―
北欧の図書館協力推進機関であるNORDINFO(Nordic Council for Scientific Information)は,1999〜2002年の新戦略において,「北欧電子研究図書館(Nordic Electronic Research Library: NERL)」という新たなビジョンを打ち出した。
NORDINFOは,学術情報およびドキュメンテーション分野の活動,特に研究図書館のネットワークシステムの開発における北欧諸国間の協力を促進することを目的として,1977年に設立された。以来今日まで,各種プロジェクトへの資金援助を中心とする地道な活動スタイルを貫いてきている。1990年代半ばからは,北欧ネットワークセンター(Nordic Net Centre: NNC,デンマーク),北欧電子出版センター(Nordic Centre of Excellence for Electronic Publishing:NordEP,フィンランド),北欧デジタル図書館センター(Nordic Digital Library Centre: NDLC,ノルウェー)という3つのセンターの始動期に大規模な資金援助を行ってきた。これらのセンターが今後生み出すであろう豊かな成果が,NERLに活かされるのは言うまでもない。
しかし,NORDINFOが今回の新戦略を打ち出すことができたのは,90年代後半に北欧各国がそれぞれ取り組んできた電子図書館プロジェクトがあったればこそであった。そこで北欧各国の電子図書館プロジェクトの状況を簡単に見てみることにしよう。
デンマークでは,文化,研究,教育の3省により,1998年から5年計画で「デンマーク電子研究図書館(Denmark's Electronic Research Library: DEF)」プロジェクトが進行中である。3省による資金拠出は,総額2億デンマーク・クローネ(約33億円)。DEFは,政府の情報技術(IT)基本政策「Info 2000」の一部を構成する。国内すべての研究図書館が参加して,一つの仮想電子図書館を運営することが目標である。
フィンランドでは,1997年から教育省の出資で,「フィンランド電子図書館(Finnish National Electronic Library: FinELib)」プロジェクトが進められている。出資は1999年までの3年計画で,1999年には1,800万フィンランド・マルカ(約3億8千万円)が提供された。FinELibは,教育省策定の国の情報政策の一環として,国内の高等教育および研究活動を支援するための構想である。科学雑誌や各種データベース等の使用ライセンスを取得して研究者のアクセスを可能にすることなどをめざしている。
アイスランドでは,政府が1997年に国の情報政策をまとめ,唯一の大規模な研究図書館であるアイスランド国立・大学図書館(National and University Library of Iceland)が電子図書館実現への指導的役割を果たしている。電子ジャーナルや各種データベースの使用ライセンスの取得により全国民のアクセスを可能にするほか,貴重な古地図等の電子化などを行っている。
ノルウェーでは,国立図書館と大学・研究図書館からなるBIBSYSによる「BIBSYSデジタル図書館(BIBSYS Digital Library: BDB)」という電子図書館プロジェクト(教育研究省所管)を1998年から3年計画で実施中である。1999年には190万ノルウェー・クローネ(約2,800万円)が支出された。高等教育における電子情報へのアクセスの改善を目標としている。
スウェーデンでは,王立図書館により「スウェーデン電子研究図書館」(Swedish Electronic Research Library: SVEBIB)プロジェクトが進められている。大学ネットワークのSUNET(Swedish University Network)をインフラとして利用しつつ,高等教育や研究活動で利用できるインターネット上のコンテンツを充実させることが目標となっている。
このように,北欧諸国では,政府のIT政策と連携した電子図書館プロジェクトが着々と進行中である。NORDINFOが北欧全体としての電子図書館の推進を打ち出した背景には,このような状況があったのである。
NORDINFOが資金提供を行った最近のプロジェクトのうち,意義が大きかったと考えられるものとしては,18〜19世紀の新聞をマイクロフィルムから電子化する「Tiden」プロジェクトや,アイスランドの古い印刷物の電子化プロジェクトである「VESTNORD」などが挙げられる。また,NERLの要の一つとして期待されるのが,1999年12月より開始された「スカンジナビア仮想総合目録(Scandinavian Virtual Union Catalogue: SVUC)」である。これは,Z39.50(CA931,1266参照)を用いて,各国の総合目録への仮想的な単一のアクセスポイントの提供を目指す意欲的なプロジェクトである。
NORDINFOは,以上のような各種プロジェクトへの資金援助以外にも,会議等の開催への協力や,ニュースレター発行等の出版・PR活動を通して,NERLの実現を推進している。IT先進国ぞろいといわれる北欧諸国において,国際的な電子図書館がどのように形成されていくのか,NORDINFOの今後の活動に注目したい。
小澤 隆(おざわたかし)
Ref: Hannesdottir, S. K. Towards the Nordic Electronic Research Library: a concept based on developments in five countries. Alexandria 12(1) 51-60, 2000
Hannesdottir, S. K. NORDINFO (Nordic Council for Scientific Information): financing international development without bureaucracy. Bottom Line 13(3) 134-141, 2000
島村隆夫 図書館ネットワーク化の推進(北欧)―NORDINFOの活動― 国立国会図書館月報(338) 22-23,1989