カレントアウェアネス
No.254 2000.10.20
CA1346
ミステリーショッピングの手法による図書館サービス改善の試み
図書館サービスの評価や測定にあたっては,これまで質問紙,インタビュー,観察など,さまざまな手法が工夫され,用いられてきた。その中でカリフォルニア州のステニスラウス郡図書館(Stanislaus County Free Library,以下SCFL)において,あるユニークな手法を実践していることが報告された。その評価手法とは,図書館員には調査の事実を伏せたうえで,利用者を装った覆面調査員が,あらかじめ決められた項目について,サービスの現状を調べるというものである。「ミステリーショッピング」と呼ばれるこの手法は,小売業やサービス業を対象に米国で開発され,すでにウォルマートなどの大手企業でも採用されてきた。昨年からは日本の民間調査会社でも活用され始めている。
以下,Public Libraries誌に掲載された報告に基づき,SCFLにおけるミステリーショッピングによるサービス改善の試みを紹介する。
SCFLとは中央館と12の分館から成る図書館システムの総称であり,その奉仕人口は41万2千人である。ここでミステリーショッピングは,図書館利用者へのインタビュー,郵便による利用者調査とともに,図書館サービスの評価に用いられている。
1996年冬,最初のミステリーショッピングがSCFLの中央館を対象として実施された。中央館が置かれているモデスト(Modesto)市の商工会議所が使用している調査票をもとに,(1)入館してすぐに気づいてもらえたか,(2)職員はフレンドリーか,(3)職員は援助を惜しまなかったか,(4)職員の知識は十分であったか,(5)職員の身だしなみはどうであったか,(6)業務がわかりやすく,かつ合理的に組織化されているように見えたか,(7)施設のレイアウトは業務を行ううえで適しているか,(8)来館したことを感謝してもらえたか,(9)利用者サービスの質の全体的な評価はどのくらいか,(10)モデスト市の他の業種に比べて,図書館は平均以下か,平均か,平均以上か,という全10項目が10段階で評価された。その結果,図書館はすべての項目において平均という評価を受けた。調査員からは,職員の一部には利用者に関心を払う努力を怠って仕事をしている職員も見られたという意見が寄せられた。
第2回のミステリーショッピングは分館を対象に実施された。調査員として常連の利用者2名が選ばれた。それぞれの調査員が任意の6館を選んで来館し,14項目について「はい」「いいえ」の2段階でチェックした。第2回の調査では,施設の快適さ,および職員の接遇態度やコミュニケーション能力を重視して,調査項目も練り直され,また図書館サービスに合わせた具体的な表現が用いられた。調査項目のチェックのほか,レファレンスライブラリアンに対し,調査員が各館異なる参考質問を行った。
調査の結果,図書館は清潔でかたづいていたか,参考質問をしたときに職員は笑顔で応対したか,お礼を言って立ち去るときに「どういたしまして」と言われたか,などの項目で特に高い評価が得られた。つまり,施設は清潔で,サインはわかりやすく,図書館員は笑顔をもって,礼儀正しく,親切に利用者に応対し,参考質問には正確に回答していることが明らかになった。一方で改善すべき点も示された。図書館利用カードをどこで登録すればよいか明示されていたか,コンピュータ目録の前で立ち止まったとき職員は援助を申し出に来てくれたか,という項目では,「いいえ」という答えが過半数となった。これらの調査結果は分館にフィードバックされ,各館で討議がなされた。また,すべての分館がミステリーショッピングによる調査を1年あるいはそれ未満の間隔で繰り返し実施することで合意した。
結論として報告者は,ミステリーショッピングは図書館サービスに対する限られた印象やスナップショットを提供するに過ぎないが,利用者サービスの現状,職員の態度,研修の効果を測る有用なツールになり得ると述べている。ただし,単に調査を行うだけでなく,普段から職員に対して研修を行うこと,さらに調査結果を研修に反映することが重要であると主張している。
現在のところミステリーショッピングを図書館に適用した事例は他にまだ見当たらないが,米国では民間だけでなく官公庁などの公共機関にも導入されていることが報じられている。SCFLの報告は,図書館サービスの新たな評価手法の提案として興味深い。さらに,米国の公共図書館において,施設の快適性や職員の態度など,これまでレファレンスや貸出などの図書館サービスに付随するものと考えられていた部分が重視されるようになった傾向を示していると読み取ることもできよう。
昭和女子大学短期大学部:須賀 千絵(すがちえ)
Ref: Czopek, Vanessa. Using mystery shoppers to evaluate customer service in the public library. Pub Libr 37 (6) 370-375, 1998
日経流通新聞 1999.4.29