CA1307 – フランス国立貸出センターの廃止とその後 / 野澤明日香

カレントアウェアネス
No.247 2000.03.20


CA1307

フランス国立貸出センターの廃止とその後

華やかなフランス国立図書館(BNF)ミッテラン館の開館の陰で,ひっそりと消えていった部門もある。ヴェルサイユにあったフランス国立図書館貸出センター(Bibliotheque nationale de France, Centre de Pret)は1996年末をもって廃止された。国内外の図書館への貸出の窓口となっていた機関であり,『海外ILLハンドブック』(石黒敦子ほか編著 日本図書館協会 1994)などでも紹介されている,頼りになる存在であった。最近の文献から,廃止後の蔵書の行方と,最近の図書館相互貸借事情を紹介する。

貸出センターは1839年に写本の図書館相互貸借を仲介するサービスとして発足し,1922年にパリ国立図書館(BN)に所属,1935年からは刊本類も扱うようになり,BNの重複資料等の移管により,次第に独自のコレクションも備えるようになった。1980年からは,国の貸出センターとして再発足,BNに納本されたフランス国内出版物の複本を所蔵するとともに,BNのその他の重複図書や,他の図書館や個人からの寄贈資料によってコレクションを充実させ,国内外からの相互貸借依頼に応えていた。特に外国の図書館にとっては,第一の拠り所として,センターが所蔵していない資料でも,BNや他の協力館に相互貸借や複写依頼を回してくれるため,便利で頼りになる存在であった。

今回の廃止について,BNF発行のTrajectoire誌は相互貸借や複写をめぐる環境の変化を理由にあげている。すなわち,インターネットをはじめとする情報伝達手段の変化により,資料をそのまま提供するというよりは,マイクロ化やデジタル化により,他の手段で提供することの重要性が増してきたから,というものである。
蔵書の移管

廃止に伴いセンターが所蔵する47万冊の図書,35万点のマイクロ資料,21,000タイトルの定期刊行物が他機関に移管された。まず第1段階として欠号や破損資料を補充するためにBNFに相当数が移管された。第2段階では,フランスや外国の図書館に資料が移管された。

定期刊行物に関しては,要望が多かったが,パリの行政図書館や公共図書館,ヴェルサイユにある建築学校の図書館などに配分された。

図書に関しては,従来からBNFによって毎年75,000冊,定期刊行物についても12,000冊,そして納本制度から生じる1,000あまりの政府刊行物の分配がフランス国内の図書館に対しては行われていた。従って,センターの図書はアフリカ,東欧あるいは近東のフランス語圏の図書館に分配された。

具体的には,ベニン,カンボジアなどのフランス語圏の21カ国,バルト3国,および近東の図書館ですでにフランス語の蔵書がある,あるいは伝統的にフランス文化と関連の深い9カ国である。
廃止以後

センターが廃止され,BNFが特に代替措置を講じていないため,フランスへの相互貸借依頼は現在,大学図書館間の相互貸借システム(PEB:CA1273参照)および大学図書館を中心に21館がセンターとして指定されている科学技術情報収集提供センター(CADIST),国立科学研究センター(CNRS)の科学技術情報研究所(INIST)のいずれかに個別に依頼するしかなくなっている。いずれもインターネット上で目録情報を提供しているが,相互貸借サービスの提供条件をさまざまに設定しているため,貸出センターの時代よりは手続きが不便になった,との印象は拭いがたい。現在,Z39.50を用いて,BNF,INIST,大学図書館,主要な公共図書館の目録を横断的に検索できるフランス総合目録(CA1273参照)が稼動しており,さらに,もうすぐ利用者がインターネットを通じて相互貸借の依頼ができるようになるはずである。センターの閉鎖により一時的に不便になった外国からの相互貸借も,近い将来改善されることが期待される。

野澤 明日香(のざわあすか)

Ref: Beaudiquez, Marcelle et al. La redistribution des collections. Trajectoire (15) 12-13, 1997
堂前幸子 フランス国立図書館 国立国会図書館月報(294)22-25,1985
Menil, C. Interlibrary lending in France: the situation today. Interlending Doc Supply 27(4) 166-169, 1999