カレントアウェアネス
No.248 2000.04.20
CA1320
図書館情報学公開講座を受講して
平成11年度の国立国会図書館(NDL)図書館情報学公開講座は「図書館経営の理論と実際」を総合テーマとし,平成12年2月から3月にかけて7回シリーズで行われた。毎回,図書館経営の異なる側面にスポットをあて,図書館界の外部からも2名の講師を招く等,バラエティに富んだ構成であった。全回を通しての受講で,図書館経営に対する理解が飛躍的に深まったと感じている。全回参加の受講者が私のほか若干名であったのは非常に残念である。また,管理職の参加者が多かったが,こういうテーマだからこそ,若い世代の人たちにもっと積極的に参加して欲しかった。
各回の要点は以下の通りである。第1回(2月10日)「分権型社会における図書館経営」糸賀雅児講師(慶応義塾大学文学部教授)。図書館行政の動向から見て,これからの図書館は自らのあり方を自分の責任で決めなければならない。そのためには,自身を評価・診断し自己変革を計る必要がある。その有効な手段となりうる「図書館パフォーマンス指標」について説明を受けた。第2回(2月17日)「公立図書館経営における予算編成について」鈴木良雄講師(神奈川県立図書館資料部新聞雑誌課長)。地方自治体の予算編成の仕組みと年間スケジュールを概観した。予算は政策の反映であり,それらの枠組みの中で図書館の仕事を説明できるようにしておく必要がある。第3回(2月18日)「図書館経営における人材管理」蓑毛寿郎講師(アンダーセンコンサルティング マネージャー)。これからの図書館職員のあるべき人物像や,人材を育成するための様々な制度的仕組みを図書館界に導入した場合の有効性について,考察および討議を行った。中でも「評価」について,個人のパフォーマンスの発見機会として捉える形で導入していくことの必要性が示唆された。第4回(2月24日)「図書館資料の取扱いの法的側面について」南亮一講師(NDL総務部総務課文書係長)。「会計法規」「著作権法」「対価の徴収」の3点について解説がなされた。図書館資料を貸出すことの法的根拠や,ディスプレイを通じての閲覧は上映権の対象となる等の著作権法と新しい情報メディアとの関連が特に興味深かった。第5回(2月25日)「アウトソーシングからナレッジマネジメントへ」小林麻実講師(ユナイテッド・テクノロジーズ・インフォメーション・ネットワーク ジャパンオフィス代表)。図書館がアウトソーシングの危機に直面した際に,全ての蔵書を捨て,利用者が必要とする様々な情報を管理し提供する新しい仕組みを作り出し,ついには企業の経営の中核的な位置を占めるにまで至った衝撃的な経験が語られた。アウトソーシングとは仕事の一部を他に委託することではなく,図書館そのものがなくなってしまうことを意味する,という言葉が特に印象に残っている。第6回(3月2日)「PR戦略からリレーションシップ戦略へ」塚原正彦講師(国立科学博物館教育部企画課企画係長)。利用者に向け一方的に行う従来の「PR」に対し,個々の利用者の「知の成長」を助け,逆に彼らからも様々な情報を得ていく「リレーションシップ」の有効性が説かれた。不特定多数へのサービスやプライバシーの保護が絡む公共施設への応用が今後の課題である。第7回(3月3日)「図書館マーケティングの考え方」柳与志夫講師(NDL支部図書館課課長補佐)。マーケティングミックスの手法である「4P」を図書館の仕事に適用する演習を行った。理論は仕事に対する理解を深めるだけではなく,図書館を知らない人に図書館の仕事を説明する際にも有効である。
主催者であるNDL図書館研究所では,今回の研修も含め,何らかの形で研修教材などをインターネット上で公開したいと考えているそうである。今回の研修に参加できなかった人たちのためにも,その実現を期待したい。
農林水産省技術会議事務局企画調査課:中島 めぐみ(なかじまめぐみ)
Ref:鈴木良雄 公立図書館の予算編成について 現代の図書館 37(1) 3-9,1999
糸賀雅児監訳 図書館パフォーマンス指標:ISO11620(翻訳) 現代の図書館 36(3) 175-204,1998