カレントアウェアネス
No.248 2000.04.20
CA1319
横浜市立図書館の「勇気ある」決断
―著作権法第30条によるコピーサービスの実施―
横浜市立図書館では,平成11年4月から,各図書館の施設内に設置されたセルフコピー機を利用して,利用者に自由にコピーさせるサービスを開始した。それまでは,利用者に申込書を提出させたうえで,図書館側がコピーを提供するサービスだけを行っていたが,このサービスを追加することにより,面倒な申込書の記入も要らず,従来1枚20円だったコピー料金がコンビニエンスストアのコピー機並みの1枚10円になり,また,全冊コピーしても大丈夫といった,これまで利用者から寄せられていたコピーサービスに対する要望に全て応えた形でのサービスが実現された。
従来,図書館におけるコピーサービスについては,セルフコピー機を設置して利用者に実際のコピー作業を行わせていた場合であっても,すべて著作権法第31条第1号の規定に基づいて図書館が行っているという解釈が採られていた。すなわち,あくまで図書館がコピーの主体であり,利用者はその手足となってただコピー作業を行っているに過ぎないと解釈していたわけである。したがって,そのコピーにあたっては,複写申込書に複写物の使用目的,コピーする著作物の名称,コピーの範囲等の著作権法第31条第1号の要件を満たしているかどうかを図書館が審査するために必要な事項を記入させ,図書館に提出させなければならなかった。また,複写物の使用目的は調査研究のためだけに限定され,コピーできるのは原則として1著作物の「一部分」に限定されている等,様々な制限もある。それらはすべて,著作権法第31条第1号により,要件が細かく規定されているからである。
それに比べ,利用者がコピーの主体とした場合には,そのような制限は一切無くなる。これは,著作権法第30条により,コピーをする人の個人的な目的に使用するために行うコピーについては,そのような細かい要件が一切課されていないからである。使用目的さえ個人的なものであれば,いくらコピーしてもいいし,その部数の制限も無い。図書館の審査などというものも受けなくていいので,複写申込書というものも不要となる。このため,コピー料金も安くなる。また,コピーする資料も,その図書館の蔵書でなくてもよいし,未公表の資料でも構わないことになる。
このようなことをコピーサービスで実現しようとするためには,たとえ図書館の施設内に設置されているコピー機でその図書館の蔵書をコピーする場合であったとしても,利用者のコピーについては,すべて著作権法第30条第1項の規定に基づいて行っているという解釈に立つ必要がある。
今回のサービスを実施するにあたって,横浜市立図書館は,そのような解釈に立ち,その施設内にセルフコピー機を設置する場所を用意したうえで,その場所をコピー業者に貸し付け,セルフコピー機の利用料金も,そのコピー業者の収入とした。また,図書館の広報や掲示においても,このセルフコピー機によるコピーについては私的目的の複製に限定される旨が謳われている。
ただ,著作権法第31条第1号に基づくコピーサービスも引き続き実施しており,こちらは主としてILLサービス向けとしているようである。
図書館の施設内でのコピーサービスについては,先にも述べたように,これまで横浜市立図書館のような,一種の「コロンブスの卵」ともいえる思いきった解釈を採る事例は皆無ではなかったかと思われる。それだけに,横浜市立図書館の「勇気ある」決断は,図書館のコピーサービスと著作権との関係について,大きな波紋を投げかける可能性がある。今後の動向について注目したいところである。
南 亮一(みなみりょういち)
Ref:横浜市立図書館報 (36)10,1999
1998年度神奈川支部情勢報告 7 図書館資料のコピーをめぐる話題 しぶほう (327) [http://www.asahi-net.or.jp/~SP1T-TKUC/sibuho327.htm#copy] (last access 2000. 3. 24)
横浜市立図書館 利用のご案内 [http://www.city.yokohama.jp/me/kyoiku/library/riyou.html] (last access 2000. 3. 24)
―CA1319について―
本誌No.248(2000年4月)に掲載されたCA1319「横浜市立図書館の『勇気』ある決断」に関し,(社)日本書籍出版協会及び(社)日本雑誌協会等から,記事の表現において,国立国会図書館が横浜市立図書館の著作権法の解釈及び運用を是認するかのように解されるとの御指摘をいただきました。
上記の記事は,横浜市立図書館における複写の実態の紹介として書かれたものです。
当館は,従来から著作権法第31条の要件を遵守して複写業務を行ってまいりましたが,改めてこの立場を継続していくことを確認いたしますとともに,御指摘のような誤解を与えかねない表現があったことをお詫びし,今後,記事の表現等には十分留意する所存です。
国立国会図書館