CA1308 – ドイツ図書館統計、初の補足調査 / 上原有紀子

カレントアウェアネス
No.247 2000.03.20


CA1308

ドイツ図書館統計,初の補足調査

ドイツ図書館統計(Deutsche Bibliotheksstatistik: DBS)は公共,大学,専門の各館種を網羅したドイツの図書館の基本統計である。そのDBSにおいて,第1部「公共図書館」の内容の改訂に伴い,報告年度1996年から新たな形式の調査が始まった。公共図書館を対象に毎年行われる基礎調査に加え,初の補足調査が「資源」というテーマで行われたのである。この新しい形式は,旧ドイツ図書館研究所の専門家グループによる検討の成果である。彼らは,DBSの利用価値を高めるため,従来の基礎調査の質問項目を簡素化し,調査対象図書館の労力を省く一方,経営的な観点から活用しうる詳細なデータ収集を目的とする補足調査を3〜4年のサイクルで行うこととした。補足調査のテーマとしては,「資源」「サービス」「組織」「費用」などが検討されている。第1回目の補足調査は,冒頭にも述べた通り「資源」というテーマで,財政的資源という観点から,図書館運営資金に関する調査,及び,人的資源という観点から人事政策に関する調査が行われた。

この調査結果から,歳入の内訳に関するデータ,及び,歳出の中で最も大きい割合を占める人件費に関するデータを以下に紹介する。なお,調査対象の公共図書館は,A.地方自治体を運営母体とするすべての公立図書館,B.i)カトリック系又はii)プロテスタント系教会を運営母体とする教会図書館,C.民間の財団や企業を運営母体とする図書館に分類されており,個別の図書館単位のデータではなく,分類区分ごとの平均値が出されている(以下,図書館の分類区分をA,B-i,B-ii,Cと表記する)。質問項目によっては回答不十分なものも含まれるようだが,対象図書館の回答率としてはほぼ100%に達しており,比較的信頼度の高いデータといえるだろう。

まず,歳入に関しては1)運営母体から提供される資金,2)外部資金,3)独自の運営収入の3項目の内訳がある。1)についてはA)89.3%,B-i)77.7%,B-ii)76.7%,C)91.2%となっている。いずれの図書館区分においても,歳入に占める割合が最も高い結果となっているのは,予想されるところであろう。Bにおける割合の低さが目立つが,それは2)の外部資金で補われているようである。2)は,連邦,州,郡など,関係する地域から提供される資金とされ,A)4.3%,B-i)17.8%,B-ii)17.0%,C)0.6%であり,Bにおける割合の高さが目立つ結果となっている。この理由として,Bに関しては,連邦,州,郡などに加え,司教区や州教会から提供される資金も2)に含まれていることが指摘できる(しかし,宗教機関でありながら連邦,州,郡などから資金提供を受けている点は興味深い。歴史的に教会の権力が強いドイツのお国柄としては当然のことなのかもしれないが)。3)はA)4.9%,B-i)6.1%,B-ii)2.1%,C)7.9%であった。公共図書館という性質上,割合の低さが予想されるが,A),C)については2)を上回っている。3)についてはさらに細かい内訳として(1)貸出手数料,(2)延滞料,(3)廃棄資料の売却益,(4)その他給付金,があり,いずれの図書館区分においても(1)と(2)で8割前後を占めている。たとえば,Aでは(1)40%,(2)38%,(3)2.8%,(4)17.3%という結果が出ている。

次に歳出に関しては,人件費についてみてみると,A)70.9%,B-i)64%,B-ii)78.3%,C)66%となっている。いずれの図書館区分においても歳出の中に占める割合がもっとも高い点は,予想どおりの結果といえるだろう。B-iの割合が低い理由として,カトリック系の教会図書館では定年退職後の職員が名誉職的に働いていることが指摘されている。

人件費については,その利用の仕方を把握するために,さらに詳細な調査が行われている。まず,1)職員ポスト数当り従業員数がある。これは,正規の職員ポスト1につき,実働の従業員数は何人かの関係値として示されている。結果はA)1.2,B-i)1.5,B-ii)2.0,C)1.1である。また,Aについてはさらに,運営母体の自治体住民人口別に調べた結果も出されており,自治体住民人口の規模が小さくなればなるほど,関係値は大きくなっている。すなわち,住民人口の少ない自治体の公立図書館ほど,ジョブ・シェアリングなどにより、1つのポストを複数人でまかなう傾向にあるようだ。次に,2)職員ポストの給与別分類がある。これは,図書館の区分ごとに職員階級が異なっていることなどから,図書館区分ごとの比較には適さない。また,大まかな分類の調査にとどまっているが,結果は次のようになっている。A)高給職:2.2%,比較的高給職:33.3%,中級職:50.0%,その他:0.2%,B-i)管理職:0.6%,上級職:28.3%,中級職:64.9%,B-ii)回答不十分,C)はA)と類似の結果であるという。さらに,3)職員の資格保持状況についても調査されている。これについては図書館区分を問わず,働く全職員に関するデータが出ているが,司書資格(ディプロム)保持者または管理職という前提条件を満たす者が30.8%,その他の大学修了者が2.3%,司書補が23%,その他の教育を受けた者が16.8%,職員になってから専門教育を速成習得した者が15.9%となっている。このほか,人件費に関する調査項目として4)男女別の割合,5)職員の年齢構成があるが,ここでは省略する。

以上,初の補足調査の一部を紹介した。このような調査から得られた統計が,単なる報告にとどまることなく,経営の合理化など具体的な政策立案のための評価基準として活用されてはじめて,DBS改訂の意義があったといえる。改訂されたDBSを検証するにはドイツ公共図書館のこれからの政策動向を見守る必要があるだろう。

上原 有紀子(うえはらゆきこ)

Ref: Beyersdorff, Gunter. Woher kommt das Geld und wo fliest es hin? Bibliotheksdienst 33(4) 600-607, 1999
Klempin, Hannelore. Deutsche Bibliotheksstatistik (DBS). Bibliotheksdienst 30(11) 1906-1912, 1996
Klempin, Hannelore. Die Deutsche Bibliotheksstatistik in neuer Gestalt. Bibliotheksdienst 28 (8) 1213-1228, 1994