CA1258 – リソースシェアリングに関する仮説検証 / 塩塚理絵

カレントアウェアネス
No.238 1999.06.20


CA1258

リソースシェアリングに関する仮説検証

図書館が自館の蔵書だけで提供できるサービスには限界がある。そのため,相互貸借は利用者サービスにとって必要不可欠なものとなっている。近年,日本では大学図書館間でNACSIS-ILLによる相互貸借サービスが発展し,公共図書館では各地域や県域での相互貸借が進展している。また,平成10年から国立国会図書館が主体となって総合目録ネットワーク事業が本格稼働している。

こうして利用者に,より多くの資料を提供できるようになり,利用者サービスが向上した反面,様々な課題も生じてきている。その一つが特定図書館への依頼の集中であるが,この問題について米国のイリノイ州で行われたリソースシェアリングの調査を紹介したい。ILCSO(イリノイ図書館コンピュータシステム機構)は,ILLINET(イリノイ州図書館ネットワーク)を通じて1980年よりリソースシェアリングの活動を開始した。ILLINETには,イリノイ州の3,300以上の図書館が参加しており,ILLINETでの1997年の貸出数・借受数はともに,それぞれ約113万件であった。

イリノイ大学のスローン(Bernie Sloan)は,ILCSOでの18年間の経験から,リソースシェアリングについて良く言われていることを,以下の8つの質問のかたちにまとめて,実態と比べてその妥当性を検討している。

1)  小規模図書館は大規模図書館の蔵書に頼りきりにならないか。

2)  小規模図書館は大規模図書館からの依頼数に圧倒されないか。

3)  類似の館種から貸借する傾向にならないか。

4)  近隣の図書館から貸借する傾向にならないか。

5)  大規模図書館は専ら貸し手,小規模図書館は専ら借り手とならないか。

6)  貸借に不均衡はないか。あるのであれば,それは何故か。

7)  リソースシェアリング活動規模は,ILCSOの会費,資料費,蔵書規模数,年間増加冊数,学生数といった他の要因にどの程度関係があるのか。

8)  ILCSOに加入していない図書館も加入館同士での貸借と同じようなやり方で借りているか。

これらの問いに答えるため,スローンは1997会計年度のILCSOのリソースシェアリングのデータを入手した。検証の結果は以下の通りである。

1)  ILLINET参加館が他館に依存する割合はバランスがとれていると言える。小規模図書館の蔵書は大規模図書館の蔵書と7割程重複しているので,小規模図書館が大規模図書館に頼りきりになるということはない。

2)  小規模図書館と大規模図書館の蔵書はかなり重複しているので,大規模図書館は小規模図書館から借りる必要性はあまりない。但し,同数貸借するとしても,蔵書数の違いから蔵書数に対する貸借数の割合が異なり,その分,小規模図書館への影響の方が大規模図書館より大きい。

3)  州立大は州立大に,私立大は州立大に申し込む傾向があった。また,短大については同じ短大に申し込む傾向はなかった。

4)  一概には言えない。というのも,各地域にILCSO加入館がどれほどあるかで状況は変わってくるからである。ただ言えるのは,州立大図書館は同館種相互の貸借が多いが,私立大,短大図書館に関しては近さを考慮に入れた貸借が多少なりとも多いようだ。

5)  図書館の規模は直接関係しない。貸し手,借り手になる要因は多くの観点から考察する必要がある。

6)  明らかにある。サービスが良いため貸借が殺到したり,貸す数に対して借りる数が少ないとか,他のILCSO加入館に近いので貸借の申し込みが多いとかが原因である。

7)  ILCSOの会費1ドル当りの貸出数と会費との間にはほとんど相関関係が見られなかった。資料購入費であるが,1996年の単行本の購入費のランキングと総貸出し数のランキングとの間には強い相関関係が見られた。蔵書数に関しては,単行本の蔵書数上位10館と貸出のランキングとを比較してみると,かなり強い相関関係が見られた。但し単行本購入費の時に見られた程強い関係ではない。最後に学生数であるが,学生数と借り受け活動とを比較するため1人当りの年間資料借受率を計算してみたところ,結果は非常に複雑で,様々な規模の図書館がトップテンを占めた。

8)  ILCSO非加入館や地域の図書館組織はIO(Illinet Online)にアクセスし,ILCSO加入館に直接に資料請求できる。非加入館への貸出数の多い上位10館について,加入館への貸出数の順位とも比べてみると,二つの例外が目を引く。第一に,イリノイ州立図書館(ISL)は加入館への貸出では上位15位以内にすら入っていないのに,非加入館への貸出では第4位にランクされた。これは恐らく,一般的に,ISLがイリノイの図書館界でよく知られた存在であっても,学術図書館ではないために加入館からは潜在的なリソースと見なされていないからであろう。第二に,最も驚くべき結果だが,UIUC(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校)図書館は加入館への貸出では断然1位であるのに,非加入館への貸出ではかろうじてベストテンに入っているだけである。これは主として,UIUCがリソースシェアリングのリクエストに関して,ILCSO加入館からのを非加入館からのよりも優先しているからであろう。

特定の図書館に依頼が集中すると,物流に伴う費用負担,そして資料保全の問題にもつながる。こういったことを考慮すると,全国レベルで相互貸借の条件を整備する必要があることを再認識させられる。

塩塚 理絵(しおづかりえ)

Ref: Sloan, Bernie. Testing common assumptions about resource sharing. Inf Tech Libr 17(1) 18-29, 1998
ILLINET WEB. 〔http://library.sos.state.il.us/illinetw.html〕 (last access 1999. 5. 17)
パイロット電子図書館総合目録ネットワーク協力会議活動状況報告書 情報処理振興事業協会 技術応用事業部 1998