カレントアウェアネス
No.193 1995.09.20
CA1026
米国公共図書館の利用者像
公共図書館の存在意義とはどのようなものであろうか。この疑問に解答を与えられそうな調査が合衆国において実施された。
最初の調査はいわゆる「公共図書館調査」の一環として1948年にMichigan Survey Research Centerによって行われた。その結果,調査の前年に公共図書館を利用したのは,たった18%の成人と50%未満の子供だけだったことが判明した。しかも,合衆国には様々な人種が共存しているのにもかかわらず,公共図書館の利用者は中流の家庭で教育を受けている白人が圧倒的に多いという事実が明らかになったのだ。このため,「公共図書館の適切な役目は,すべての人々にではなく,『真面目』で『教養のある』人々を選別してサービスを行うことだといってもさしつかえない」といった意見も出され,図書館界全体に大きな動揺を引き起こした。
一般に,教育を望んだとおりに受けることが出来ない人々が,図書館のような公的文化・教養機関を利用すると思われがちだが,それはあまりに理想論にすぎるようである。
およそ半世紀後の1991年,今度はNational Household Education Surveyによって同じような調査が実施された。そして1948年の調査結果等と比較,分析することによって様々な事柄が明らかになった。
まず,利用者が大幅に増加したことがあげられる。成人だけでも実に1948年の調査の約三倍にあたる53%の人が,調査の前年に公共図書館を利用している。年齢層別にみれば青年層の利用が最も多くついで30代,40代となっている。
子供の利用も前回より増加しているが,7,8歳児の非来館率は18%なのに比べて3,4歳児はその2倍の36%であり,低年齢層の来館率はまだ低いといえる。近年子供の早期教育の重要性がいわれているが,図書館の利用には直接結びついていないようである。
次に,人種間の差異があげられる。これは半世紀の間改善すべくいろいろな努力がなされたのだがほとんど変化していない。アフリカ系の人々で58%,スペイン系の人々では62%と半数以上の人々が公共図書館の利用者ではない。ともに合衆国の人口に占める割合が比較的多いだけに見過ごすことのできない問題だといえる。
それから利用者の家庭の経済状態があげられる。これについても1948年のときの調査結果と大差はない。7万5千ドル以上の収入のある家庭では70%の人々が公共図書館の利用者であるのに,1万ドル以下の家庭では32%という低い数値にとどまっている。これについて教育水準との深い相関性も示唆された。つまり学歴が高いと図書館の利用率も高く,そのうえ経済的にも豊かだという結果になったのだ。たとえば,高校卒業程度の学歴を持つ人々の利用率は17%なのに対して,大学を卒業した人々は71%と高い数値を示す。さらにこの現実は子供達に大きな影響を与えている。専門的な職業(たとえば医者や弁護士)についている親を持つ子供は92%の利用率を示し,高校卒業程度の場合は49%とその差は甚だしい。
次世代を育てるということは社会を改善していくために非常に大切なことである。現在の公共図書館の利用状況をより理想的な形に変化させていくためには,これからの図書館のさらなる努力が必要だといえる。合衆国では子供の知的環境の整備を最重要視し,未来の社会のための準備を始めている。結果が出るまでに今しばらくの時間が必要だろう。
飛田貴子(ひだたかこ)
Ref: Scheppke, Jim. Who's using the public library? Libr J 119 (17) 35-37,1994
Williams, Patrick. アメリカ公共図書館史 1841-1987年 勁草書房 1991 209p