CA1013 – 買うべきか,借りるべきか:米国の雑誌の利用調査から / 坂本博

カレントアウェアネス
No.191 1995.07.20


CA1013

買うべきか,借りるべきか

『国民生活白書』(昭和57年度)が「所有するものとしての住宅から,利用するものとしての住宅へという意識の転換を進めていくことが,ますます重要」と言ってから久しいが,標題は「持家が得か,借家が得か」という話ではなく,雑誌の話である。しかし「何でも所有しなければ気が済まない」では幸せになれない厳しい時代と状況になってしまったという点で認識に通じるものがある。

80/20のルールなどと言われているように,図書館資料の個々のタイトルが総て同等に利用されるということはあり得ない。雑誌にもよく使われる雑誌と,ほとんど使われない雑誌が存在する。たとえば英国図書館文献供給センター,ケミカル・アブストラクツ・サービス,フランス科学技術情報センター,米国国立医学図書館,OCLCの5機関や国立国会図書館(NDL)に寄せられた要求の,上位からのタイトルの累積による充足率は次の通りである。

充足率
5機関(1983)
NDL(1993)
20%
514誌
和 190誌
洋 117誌
30%
1,041誌
400誌
235誌
60%
5,477誌
1,915誌
998誌

Gossen達は,ニューヨーク州立大学のオールバニー他の4校において,1991年9月から1992年8月まで図書館振興財団の補助金により所蔵雑誌の利用調査を行った。15万5千回の利用が確認された。彼女等は利用が5回以下であった雑誌を低利用誌とし,これらを所蔵して提供する場合と,図書館間貸出や商業ドキュメント・デリバリーにより外部から入手して提供する場合のコストを比較した。全タイトル中の低利用誌の比率は12%であった。比較の根拠としてARL/RLG(米国研究図書館協会/大学・研究図書館グループ)が1991年に行った図書館間貸出コスト調査の結果を用いた(『ALA図書館情報学辞典』にも明示されているが「図書館間貸出」という用語には,現物の貸借の他にコピーの提供が含まれ,雑誌の場合は後者が中心)。これによれば1件あたりの平均コストは貸与館側$10.93,借用館側$18.62であった。図書館が雑誌を所蔵するということは,定期購読料の他に,目録,受入チェック,製本等の費用を負担することになり,この経費も馬鹿にならない。低利用誌について,1年間に図書館間貸出により提供する費用が,年間購読料を下回れば,購読の打切を正当化する理由の一つとなる。

まず利用1回あたりのコストを見ると,全タイトル平均の$8.2に対し低利用誌では$93.46であった。次に「高い雑誌を切らなければ節約にならない」という仮説を検証するため,平均年間購読料を比べてみたが,全タイトルの平均が$249であるのに低利用誌の平均は$207であった。

低利用誌の全体の年間購読料が$128,601であるのに対し,その利用を総て図書館間貸出でまかなえば$25,622しかかからないことがわかった。架空の話であるが,全利用を図書館間貸出でまかなうと$2,900,456になり,これは全誌の年間購読料$1,273,531をはるかに上回ってしまう。

彼女等は他にも,データの信頼性の根拠,図書館間貸出や商業ドキュメント・デリバリーによる入手可能性,外部機関からの入手のための待ち時間の許容度,最新号を手元に置いてブラウジングをしたいという研究者の欲求,5件/年を低利用とした理由,科学技術の雑誌は特に利用されるのか,などを論じている。

総ての図書館が低利用誌を所蔵しなくなれば図書館間貸出自体が成り立たなくなることは彼女等も認めているし,商業ドキュメント・デリバリーのコストも計算されていないが,「多い方がよいに決まっている」といった観念論に安住することなく,限られた図書館資源を有効利用のための一つの努力として参考になる。

坂本 博(さかもとひろし)

Ref: Trueswell, R.L. Some behavioral patterns of library users: the 80/20 rule. Wilson Libr Bull 43 (5) 458-461, 1969
Kent, A.K., Merry, K. & Russon, D. The use of serials in document delivery systems. International Council for Scientific and Technical Information, 1987
Gossen, E.A. & Irving, S. Ownership versus accesss and low-use periodical titles. LRTS 39 (1) 43-52, 1995