カレントアウェアネス-E
No.129 2008.06.11
E795
視覚障害者のPC・インターネット・携帯電話利用実態(日本)
視覚障害者向け録音図書のインターネット等での配信を容易にする条項を含んだ改正著作権法(CA1604,E577参照)が,2007年7月1日,施行された。視覚障害者向け図書館サービスにとって,パソコンなどの情報通信技術(ICT)の活用は今後一層重要になると思われる。このようななか,電気通信普及財団の研究助成を受け,国立特別支援教育総合研究所の渡辺哲也主任研究員らにより2007年に実施された「視覚障害者のパソコン・インターネット・携帯電話利用状況調査」の報告書が公表された。なお,2000年と2002年にも同様の調査が行われているが,今回初めて携帯電話の利用についての質問項目が加わった。
ICTは,視覚障害者のコミュニケーションに大きな役割を果たしてきたが,利用環境には未だ改善の余地が大きい。この調査は,視覚障害者のICT利用状況と課題を把握し,研究・開発者に周知することで,利用環境の改善を図ることを目的としている。調査結果は,学会での報告に加え,一般公開形式の調査報告会の開催やウェブサイトへの掲載等,様々な手段で広報されている。
調査は,調査票への任意回答方式による詳細調査(413名が回答)と電話での聞き取りによる簡易調査(23名が回答)の2種類により実施された。どちらの調査でも,視覚的な文字の読み書きの可否や年代といった回答者の属性から,視覚障害者のICT利用状況と利用上の問題点を分析している。
詳細調査では,携帯電話・パソコン・インターネットを全て利用していると答えた回答者が大半であった。また,ICT機器を利用する際には,視覚的な文字の読み書きができると答えた人たちでも,文字だけに頼らず,ICT機器の音声読み上げ機能を活用しているという結果が出ており,興味深い。
簡易調査は,回答者の偏りを避けられなかった詳細調査とは別に,視覚障害のある母集団を忠実に反映した調査を行うために実施された。統計的な結論を出す上で十分なサンプル数は得られなかったが,重度視覚障害者の方がICT機器の利用率が高い傾向が示された。今後の方向性として,重度視覚障害者をターゲットとする製品開発やICT利用に消極的な人たちを対象とした実態調査の実施が提案されている。
今回の調査では,視覚障害者を対象とした網羅的調査の難しさや調査の効率性の問題も明らかとなった。将来的には,一層包括的で効率的な調査・アンケートの実施も必要であるとされている。
Ref:
http://www.nise.go.jp/research/kogaku/twatanab/PCUserSurvey/Survey2007/Survey2007Jp.html
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html
http://www.nittento.or.jp/ROKUON/haisinannai.htm
http://daisy.nittento.jp/
CA1604
E577